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「モノクローム・レインボー(創作短編)」

世界から色が消えた。


これまでの絵の具はすべてグレーになり、同彩度の色は区別がつかなくなった。


各国の政府は非常事態につき秘匿されていた上位存在の存在を公開、声明文を出した。


「よーするに、コストカット、ってことでしょ?」


何味かわからなくなったかき氷を食べるアカリの上には、さんさんと、銀色の太陽が照っている。


「簡略化しすぎだ。大気にはマナというエネルギーがありそれが枯渇したため人類の視覚に使うマナを削ることになったという公式からは声明が…」


「ハイハイ、ライトはムズカシーことよく知っててえらいね〜」


「ニュースを隅々まで読むのは高校生の嗜みだろ。」


ライトはアタシの幼馴染で、小さい頃から頭が固くて真面目で、眼鏡キャラにピッタリの中身だった。

水墨画みたいな色のお茶を飲みながら、ライトは言う。


「これからどうするべきなんだろうな。せっかく二人して美術部に入ったのにこれじゃあ濃淡でしか描けないじゃないか…。」


じゃあそのまま現代の雪舟になっちゃえ!と言いかけたがライトに怒られそうなのでやめた。


「じゃあさ、私たちが色を『再発見』して虹を描こうよ!」


「分かってないな。原理としては人類の視覚が変わっただけで色が変わったわけじゃ…」


うだうだ言うライトの口をかき氷で塞ぎ、私たちはファミレスを出た。


車用信号機の区別がつかずパニックになったのも記憶に新しい。

世界標準でマークが決まったのもネットニュースになってたっけ。


「で、その…色を『再発見』するってのは本気なのか…?」


何事もきっぱりと言い切るライトらしくない。


「もちろん!天才アカリ様にお任せあれ!!」


「危なかっかしいから同行させてくれ…!その価値はあるだろう?」


ワクワクが隠しきれてないぞライトくんさ。いいでしょう!隊長の私が許可します!!


そうして、私たちの一夏の冒険は始まった。


ーーーーー


「…で?手がかりはないわけだけど。ボクらは貴重な夏休みの最初の1週間を無駄にしたって言うのかい?」


いつものファミレスでライトは眼鏡を拭きながら言う。やけにムカつく表情で。


「もうちょっと待ってよ〜!ネットの都市伝説とか調べるから!」


「そんな物に頼ってたら終わりだろ。図書館に行ったが人の色彩が備わっていた頃の資料ですらグレースケールだったぞ。」


ライトはチョコなんだか抹茶なんだか知らないアイスクリームを頬張りながらぶつくさ言っている。


「でもさ〜…都市伝説で気になるもの見つけたって言ったら、信じる?」


「見ようか。」

ライトの目が光った。なんだ、オカルト系好きなんじゃん。


「『隊長は見た!アトランティス文明の遺跡にあるコスモプリズム!』


世間を騒がす上位存在。謎が多いが、その謎の根本にあるのが『コスモプリズム』。

どうやら虹色の正四面体の形をしていて、この世界に唯一色のある結晶のようだ!

上位存在はどうやら『コスモプリズム』とやらを探しているという噂があり、筆者も探してみることにした!

ベッドの下…電子レンジの下…洗面台…ないな!謎多き『コスモプリズム』!ではまた来週!」


スマホの画面にデカデカと表示させ、ライトの顔面にぴったしくっつけた。


「なにこれ、文字通りコタツ記事じゃん。アトランティスどころか家の中しか探してないし。」

ライトは両手を広げはぁとため息をついている。


「でも『コスモプリズム』について調べてみる価値は…!」


「あるでしょ?」


「ボクの決めゼリフを奪うな、アカリ。」


そうと決まったら図書館にGO!

『コスモプリズム』というワードを手がかりに、いろんな資料を読み漁ることにした。


「ム…?」


「なになに?なんかあった?」


「このニュース記事を見てくれ。『縄文時代の遺跡から輝く破片が発見』の部分だ。」


でもこれ次の号でガセでしたって言われてるじゃない!

当時埋め埋めおじさんってネタになってたよ〜?堅物ライトは知らないだろうけど!

ライトもこんなミスすることあるんだね〜…ってうわぁ!


イッテテ…新聞のバインダーが落ちてきたよ…

あ〜!『みゅーてぃープリティ』アニメ放送開始の時の記事だ〜!懐かしいな〜!幼稚園の頃よく見てたんだよな〜!!!


「ん…?なにこれ…?『空間の裂け目から飛来した謎の結晶』…?」


「これは…!!」


「読む価値があるね!」


「だからボクの決めゼリフを奪うなと何回言えば分かるんだいアカリ。」


謎の結晶。呉家光留さん(76)の目撃証言によると急に空がぱっくり割れて飛来してきたらしい。七色に輝いており、掴もうとしたところ手に吸い込まれていった…らしい。


「待って!その呉家光留さんってこの人?」

ネットニュースの画面を見せる。


「『色が見えるようになった』と言いどこかへ失踪した男性、遺体で発見」


呉家光留氏(76)はどうやらその『謎の結晶』を取り込んで、色が見えるようになって、失踪して、遺体で見つかったらしかった。


「死因はどうなんだ?そこ重要だろ。」

ライトが鋭い指摘をする。


「怖くて見てない…」

私グロテスクなの苦手なの!死因とか聞くと勝手に想像しちゃうから!やめて!


「ふーん……山の中での首吊り自殺らしいな。」

だからやめてって!ライトもグロテスクなの苦手なの知ってるくせに!


「とにかく、呉家光留が自殺した山に言ってみよう。話はそこからじゃないか?」

え〜?オバケとか出るんじゃないの?と思ったが言うのをやめておいた。美術部のプライドにかけて、絶対にきれいな虹を描くんだ。


ーーーーー


「見ろよアカリ、この駅弁タコがまるまる入ってるぞ!」

ライトは駅弁にウキウキしている。今から人が死んだところに立ち入るんだよ?私がおかしいの?


「そんな沈んだ表情するなってば。ほらこれ、タコだぞタコ。」

なになに…?


うわー!!!!タコ!!!!!タコ足だ!!!!美味しそう!!!!


とでも言うと思ったか。私もそんな単純じゃないのだよ。でもたこ飯弁当にすればよかったかなとは思ってるけど。


あの記事を読んでから2週間。夏祭りとか、プールとか、いろいろ楽しんで、夏休みも終わりに近づいてきた。最後の締めとして私たちは電車に揺られて山奥へ。最っ高の冒険じゃないか!


とか言ってたら急に電車が止まった。

「工事中なのでこの先は線路使えないんですよ〜。」

なんてふざけたことを抜かすものだから降りて山道を歩くことにした。


「おい、こんなこともあろうかと山用の装備は用意してきたが…ボクが持ってこなかったらどうするつもりだったんだい?」

しっかり者のライトに限ってそんなことはないって信じてたから大丈夫。


しばらく歩いたところで、さっきの警備員のおじさんがまた現れた。


なんで?さっき別れたはず…


「あれ?さっきのお嬢ちゃんとお坊ちゃんじゃないですか、線路の方に歩いていきませんでした?」

そっちこそ、私たちの先回りしたってこと?


「これは訳がありそうだな。」

ライトは眼鏡を直し、警備員のおじさんと3人で状況整理をすることにした。


【警備員のおじさんの証言】

アカリとライトは工事中の線路の方向へ進んでいった。

その10分後、まだ使われている線路沿いを二人が歩いてきた。


【ライトの証言】

アカリと共に工事中の線路を歩き続けた。

その20分後、警備員のおじさんとまた会った。


おかしい。明らかに食い違っている。


「時計もきっかり10分ズレてるみたいだ。アナログ時計からスマホの時計すらもね。ちなみにズレてるのは僕らの方みたいだよ。」

設定アプリから時計を直しながらライトは語る。


「これってどういうことなの!?」

「偶然とは考えにくい。同じものを狙う上位存在か何かに嗅ぎつけられた可能性を考える価値はありそうだ。」

まさか…ね。


そうこうしてるうちに夜になってしまった。

「あ〜!テント忘れた!!!!」

しまった。冒険大好き元気っ子の私としたことが。

「アカリは相変わらずだな。仕方ない。ボクのテントで寝な。」


思えば高校生になってからライトと一緒に寝たことは一度もない。

幼稚園の頃はよくお互いの家に泊まっていたりしたのだが、小学校、中学校と上がっていくにつれてだんだん人としての距離感を意識するようになってしまった。

いや、恥ずかしくて寝れない!という話ではないんだけどね。

こうやって一緒に横になるのはいつぶりだろう。やっぱり恥ずかしいかも。


そんな考え事をしながら寝返りを打ったらパキッ、と嫌な音がした。あっやべ。


ーーーーー


「替えの眼鏡を持っていてよかったな、アカリさん。この眼鏡の価値、分かってるよね?」

珍しくライトは機嫌が悪い。当然。ライトの眼鏡を割ってしまったからである。


「じゃあボクは外で着替えるから、君はテントの中で着替えてて。」

申し訳なさを抱えながらパジャマを脱ごうとした途端、ライトが大慌てでテントの中に戻ってきた。


「のぞき!垣間見!出歯亀!ライトがそんなことするなんて!」

「そんなこと言ってる場合じゃない。大変だ。まとめて『処理』されたみたいだ。」


テントの外を見ると、吐き気がするような原色の色彩に覆われた空間が広がっていた。


ーーーーー


色は匂えど 散りぬるを

我が世誰ぞ 常ならん

有為の奥山 今日超えて

浅き夢見し 酔ひもぜず


ーーーーー


「…とりあえず探検してみない?」

私はしばらく考えたあと、ライトに提案することにした。

「もちろん、そう考えていたところだ。」

もう!なんだかんだライトも冒険大好きなんだから。


「見ろよアカリ、時計の分針が秒単位で右に左に回ってるぞ!」

私のお気に入りのぬいぐるみも喋って動いてる、ん?ライトって誰だっけ。


「アカリ?アカリ?大丈夫か?」

あ、ごめんごめんボーッとしてた。ライトはライトか。

「大丈夫、なんてことないよ。」

とにかく前に進むしかない。


『お迷いですか?』

「あぁ、道に迷ってしまってな。アカリ、インフォメーションがあるぞ。」

やっと助かった、インフォメーションがあるなら安心だね。

『それでは右です。』

「分かった。右だな。」

あれ?まだどこへ行くかも何も言ってないような…

『右です。』

『右です。』

『右です。』

「アカリ、右だそうだ!右に行けば右が右で右だそうだ!!」

あれ?右に行くんだっけ?


「違う。私は…私は絶対に虹を掴んで見せる!」


目の焦点の合わなくなったライトの手を引っ張り、原色の強い、さらに強い奥の方へ駆け抜ける。

パジャマもドロドロに溶けて絵の具を塗りたくったような柄になっていた。


ーーーーー


真っ白な空間に出た。

ライトはまだ目の焦点が合っていない。


「あなたも…ですか?」


あなた、誰?


「ワタシはコスモプリズム。無限のエネルギーを秘めた存在。平たく言えば一発限りの願望機。」


えっ!コスモプリズムって生きてたの!?


「あなたはナニユエに、ワタシを求めるのですか?」


私は…私は…


『そこまでです。』

なんだかわからないけど…大勢いる気がする…。


あなたは…?


『私はF2-02-F2。俗に言う上位存在の下っ端です。上位存在なのに下っ端とはこれ如何に。』

これはまずい。冒険に憧れてた頃の本能が語る。ライトをこんなんにしたのはきっとこいつらだ。

私はコスモプリズムを抱えて(あとライトの手を引っ張って)走り出した。


「私は虹が描きたいだけ!そしてでっかい冒険がしたい!それだけなの!」

風景は真緑と真っ青のツートーンの田園に変わる。


『仕事ですから…渡してくださいな…!チッ!役人はデスクワークばかりで体力がない!』

F2-02-F2達は灰色の液体を出しながら走っている。後ろの上位存在たちはヒイヒイ言いながらへこたれている。


「じゃああなた達は何を願うの!!」

後ろに向かって叫ぶ。

ライトは相変わらず右右うるさいので口をグニャグニャになった眼鏡で縛ってやった。あとで解くからちょっと黙ってて!


『マナによる全世界の均衡です!フゥ…フゥ…スーツは走りづらい!!なんでこんなもの着なきゃいけないんだ!』

いつの間にか真っ黄色のひまわり畑に変わっていた風景の中を走り続ける。


「でもそのために呉家さんや私たちを手に掛けたんでしょ!」

真っ青とベージュのツートーンの浜辺を走る。


『必要な犠牲です!というかこれ私の仕事ではないと思うんですけど!このために公務員になったわけじゃないですが!?』

F2-02-F2の率いる集団も減ってきた。マラソンランナーもビックリなくらいお互い必死で走っている。


「必要な犠牲?そうやって人の色まで!犠牲にして!!」

青いガラスのビル街を走る。


『世界は有限なんです!これが大人の世界なんです!!分かってください!!』

赤い標識が立っている道路を走る。

走っている上位存在の集団も残りはF2-02-F2だけになってしまった。


「本当にそうかな?」

虹色のスプレーアートの壁の前で立ち止まってニヤリと微笑む。


『と言いますと?虹野アカリさん?』

F2-02-F2もピタリと止まって話を聞いてくれそうだ。


「コスモプリズム!!」

「願いを言うよ。」

私はキリッとした顔でコスモプリズムに話しかける。横の間の抜けた眼鏡で口を縛られたライトがかわいそうになるくらいの。


『待ってくださいちょっとそれは待って』

F2-02-F2はPHSのような何かを持ってあたふたしながら誰かに電話をかけている。


「「マナの枯渇という概念がない世界にして!!!!」」


「聞き入れマシタ」


ーーーーー


夏休み最終日。

「おいアカリ、宿題終わったのか?」

ライトが真っ青なソーダアイスを食べながら呆れる。

「あーっ!!!まだだった!!!」

「ほら、丸付けしてやるから赤ペン貸せ。」

もう見分けのつくようになった赤ペンと青ペンをライトに渡し、ヒイヒイ言いながらいつものファミレスで宿題をやる。


真っ赤な太陽がさんさんと降り注いでいた。


ーENDー

ちょいちょい出てくるコスモプリズムの初出作品です。なんでもかなえる願望機。

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