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第3話:プロローグⅢ――【一日目:バロック大学への道】

本作はフィクションです。作中に登場する個人、団体、事件などはすべて架空のものであり、

実在の人物や団体とは一切関係ありません。

なお、物語の描写には、一部に生々しい身体の機能低下や精神的苦痛など、残酷な描写(R-15)が含まれます。




あらかじめご了承の上、お読みください。

シーン:道中 / バロック大学(Colegio de Baloc)

場所:カヴィテ → バロック大学 | バロック市近郊

時間:午前5時36分 → 午前6時12分(GMT+8)


渋滞というものは、決して突発的なサプライズなどではなかった。

―― パースペクティブ・シフト(視点変更) ――

膨れ上がった車両の列が、すでに主要道路を埋め尽くしている。都市の新しい開発セクターに向けて、

それらは遅々と進まない。

ダッシュボードの時計が、午前6時の境界線を越えた。

タイヤが再び停止するまでに進んだ距離は、わずか一メートルにも満たない。

「どうして今日はこんなに混んでるの?」


ルシアが静かに呟いた。その声には、深い疲労感がにじみ出ている。

彼女たちの睡眠は、今朝の午前4時の時点で強制的に終了していた。

「最悪な散らかりようね」

答えは返ってきたくなかった。その質問はただ、冷え切った車内の空気に虚しく浮いている。

後部座席から、静寂を切り裂くシャープなパターンが響き始めた。

カタカタ。カタカタ。カタカタ。


ノート PC の画面から放たれる淡いブルーの光が、暗いウィンドウガラスにかすかに反射している。

それは、色付きのガラスパネルを透過して血のように滲む、オレンジ色の朝陽と静かに戦っていた。

何ものにも邪魔されない絶対的な集中力が、リンセルの視線を下へと釘付けにしている。

もしこの遅延が、記述されたコードの行数を狂わせないというのであれば――彼女にとって、この渋滞は存在しないも同然だった。


助手席から、観察の視線が向けられる。


看護師としてのキャリアは、人を「待つ技術」に習熟させる。

アンパロはただ、静かにその光景を見つめていた。


「あと十分ね」

アンパロが指摘した。

「おそらく。もし、正面入り口の近くに駐車スペースが見つかればの話だけど」

「スーパーマーケットは?」と、ルシアが提案する。

「あっちの駐車場なら、まだ空きスペースがあるわ」

「二キロも歩くことになるわよ」

「許容範囲内の距離ね」

沈黙が、再びその鉄の箱を支配した。


タイヤの下を、さらに数インチのアスファルトが通り過ぎていく。

外では、早朝の柔らかな涼しさが、すでに重苦しい熱気へと急速に硬化し始めていた。

アンパロが後ろを振り返ると、助手席のシートがきしむような音を立てた。

「ところで、リンセル」

彼女の声は、穏やかなレジスターへと切り替わった。それは、細心の注意を払うべき患者に対して使われる、特異なトーンだった。

「出発してからずっと PC を開きっぱなしだけど、学校について何か気になるデータでもあったの?」

キーボードを叩くリズムが、わずかに乱れた。

カタ。……カタ。

計算式に、新しい変数が侵入したのだ。

リンセルの視線が、何も映していないかのようにガラスの向こうへと漂った。

「ビジネス環境が興味深いわ」と、リンセルは言った。

「この規模の機関にしては、ね」

「ビジネス?」と、アンパロが問い返す。

「ゲームよ」と、リンセルは簡潔に説明した。経済性が彼女の言葉を支配しており、

まるですべての単語を厳格な予算管理のように選別している。

「ここには競争の激しいトーナメント・サーキットが存在しているの。


主にマルチプレイヤーのタイトルね」


短い沈黙が、次の文章を遅らせた。

「リンフィンと私が避けているジャンルよ」

「興味がないの?」

実体サブスタンスが欠けているのよ」

画面が再び彼女の集中力を捕らえた。

「競争力のあるマルチプレイヤーは、完全に『対抗勢力』の存在に依存している。対戦相手を排除してしまえば、そこには何も残らない。質感も、その空間に滞在する理由すらもね」

タイピングが完全に停止した。

「本物のゲームというものは、人間をただ一人で拘束し得るものであるべきよ。隔離された部屋で。午前三時に。観客など一人もいない場所でね」

アンパロはその言葉の重さを推し量った。

「それは退屈、ということかしら」

「好奇心よ」と、リンセルは訂正した。

「その二つの状態は明確に異なっているわ。退屈は受動的なものよ」

画面のスクロールが、コードの行から別のファイルフォーマットへと切り替わった。

それは全く異なるデータ形式だった。

「古い学部のニュースレターに、奇妙な言及を見つけたの。学生のプロジェクトではないわ。現在の教職員よりも古い時代、もっと過去のもの。その設計ドキュメント(仕様書)……それには、

偶然の産物とは思えない特徴があったの」

それ以上の詳細は伏せられた。

前進するモーションが、完全に終了した。

ルシアがステアリングホイールをスーパーマーケットの駐車場へと切ると同時に、重い溜め息が漏れた。


―― 徒歩 ――

容赦のない太陽が、すでにその権利を主張していた。

高まる熱気がアンパロの糊の効いた白い制服を圧迫し、パリッとした生地を鈍いクリーム色へと変色させていく。


二キロメートルに及ぶコンクリートの路肩が、目の前に引き伸ばされていた。

開け放たれた金属製のシャッターは、近くの金物ベンダーたちの一日の始まりを告げている。

角のところで、見慣れたストリートベンダーがアルミ製のカートの後ろで待機していた。変化し続けるこの近隣において、彼は一つの固定された座標だった。


自転車の機構に備え付けられた巨大な金属シリンダーから蒸気が立ち上り、朝のラッシュに向けて準備された、温かくシルクのように滑らかな豆腐タホの甘い香りを運んでいく。

深いバケツの内部では、透明なシロップとタピオカの黒い真珠が、加熱された大豆のカスタードを甘く飲める朝食へと変貌させる瞬間を待っていた。

早朝の通勤客の安定した列がプラスチックのカップを差し出し、それぞれの「朝の燃料」を待っている。

学校の外壁が、セクションごとにその姿を現した。あまりにも巨大すぎて、一度にすべてを視界に収めることはできない。

バロック大学(Colegio de Baloc)。

私立。

その土台には、古いマネー(旧家)の匂いが存在していた。

新しく舗装し直された歩道が、小道のラインを形成している。

上院議員や将軍を輩出してきた歴史がこのキャンパスにはあったが、それを誇るようなブローシャ(パンフレット)はどこにも存在しない。

鉄のゲートが開け放たれ、眠気眼の学生たちの列を次々と飲み込んでいく。

視線を向けることもなく、手が白いポケットの内部へと伸ばされた。

「鍵」

開かれた手のひらが、金属のリングをインターセプト(遮断)した。

「ん」と、リンフィンが呟いた。


―― 東棟 ――

レストルームの内部で、四分が経過した。

火曜日からペーパーディスペンサーが空のままだったため、湿った両手はプリーツスカートの生地で拭い去られた。

肩が重いドアを押し、通路へと足を踏み出す。

ルシアが硬直した。

異常な光景が、壁を占拠していたのだ。

タイル張りの床から一メートル半ほどの高さの場所で、一つの肉体が石造りの壁にしがみついていた。

フルボディの、クリーム色をしたキツネのコスチューム(着ぐるみ)がその人物を包み込んでいる。 ascent(登攀)の圧力によって、ぬいぐるみの耳と尻尾が横にねじれていた。

ジッパーが開けられたフリース素材の隙間から、標準の制服の断片が視認できる。

公式の学生 ID が、ランヤードの先で自由に揺れていた。


ルシアはその構成(設定)を処理するために、湿った両手を静止させたまま硬直していた。

排水パイプを握るリンフィンのグリップには、絶対的な集中力が宿っている。

顎を低く傾けることで、滑り落ちそうになるフードを強引に押し戻す。

「サイドゲートが」と、リンフィンはレンガの壁に向かって囁いた。

「より優れたアングルを提供しているわ」

「……リンフィン」と、ルシアが声をかけた。

「予想外に素早い出口ね」

手が石造りの壁、 plushぬいぐるみの耳、そしてそのフレーム全体の不条理さへと向けられた。

「どうして壁なんか登っているの?」

「先週から、二年生の集団がメインエントランスを占拠しているのよ」

リンフィンは組織的な忍耐強さでさらに一段ノッチを登りながら答えた。

「彼らはインタラクション(接触)を求めている。私はそれを回避しているの」

「だから……」

「オルタナティブ(代替)ルートよ」


頭を回転させると、リンセルの姿が視界に入った。

片方の肩にバッグをかけたまま近くに佇む彼女の顔には、完全な『見慣れた日常』の表情があった。

「よくある事象よ」と、リンセルは平然と言い放った。

「その……」ルシアは再びぬいぐるみの毛皮に視線を戻した。「その着ぐるみで?」

「ゲートでの取り外しは、かろうじて交渉によって免除されたわ」

「ベリフィケーション(確認)には ID が必要だったのよ」

リンフィンがさらに高いブラケットから呼びかけた。

「認識はガード(警備員)から得られたわ」

短い静寂が定着した。

資格情報クレジットが認識を提供したのよ」と、リンセルが明確化した。

「あるいは、そのフリースね。二つのどちらであるかを識別することは困難だわ」

パイプのジャンクション(最上部)に到達した。

反対側への descent(下降)を開始する前に、フードの位置を再調整するためのポーズが挟まれる。

plush の尻尾が揺れた。


プラスチックの ID が、朝の眩しい光を反射する。

「視認性が上がれば、行政処分(お上の指導)が下るわよ」と、ルシアが警告した。

「不可避ね」

「それで、自覚はあるの?」

「完全に」

「それと――」

「ルシア」

リンセルのトーンには忍耐が満ちていた。それは、受け入れられた計算から生まれる特異な冷静さだった。

「視認性は管理部門の領分よ。回避は二年生の領分。意図された結果は達成されたわ」

尖った耳が、コンクリートの頂点を超えて消失した。


一分後、ヘビーヒンジのサイドドアが重々しく開いた。リンフィンが通路へと戻ってくる。彼女が引きずっているキャンバスバッグの内部には、先ほどのキツネのコスチュームがすでに綺麗に押し込まれていた。


彼女の茶色の髪は、フードの圧力によってわずかに非対称アシンメトリーになっているだけだった。


―― 看護学科棟 ――

看護学科棟の廊下に辿り着いたときには、スマホの画面にスケジュールアプリが既に開かれていた。「214号室よ」と、アンパロが指示を出した。



「三階ね」三人の影の間に引き伸ばされた虚空へ、鍵が差し出される。「ここから先は、車の管理はあなたたちの責任よ」


金属のリングが手から手へと渡った。あの着ぐるみはもうそこにはなく、キャンバスバッグの内部へと綺麗にパッキングされている。制服の着こなしに乱れはない。


ただ、その茶色の髪がわずかに非対称アシンメトリーになっていることだけが、ついさっきまでフードが存在していたことを静かに物語っていた。「学生の一団がね」と、

アンパロが観察するように言った。


「第一週目からずっと、面会を求めてきているわ」

「その通りよ」と、リンフィンが応じる。「許可は、下りるのかしら?」その問いに対する答えに、

いかなる審議ディリバレーションの余地も必要なかった。「いいえ」と、

リンセルが簡潔に言い放った。

アンパロが、その妹の方へと視線を向ける。


「いいえ」と、リンフィンもまた繰り返した。「……分かったわ」そう言い残し、アンパロは階段室の方へと身体を反転させた。「正午までには、車を移動させなさい。


駐車場の管理人がナンバープレートを監視しているからね」コンクリートの階段を下りていく足音が、次第に遠ざかり、消えていく。


残された空白の空間を、周囲の環境音アンビエント・ノイズが満たしていった――ロッカーが重々しく響くエコー、無数に動く足、そして広い床タイルに反射して跳ね返る早朝の雑談。リンフィンの瞳は、何も映していないかのように虚空の一点へと固定されていた。


あるいは、彼女の焦点フォーカスが向いているのは、このありふれた廊下というコンテナには到底収まりきらないほどの、深い深淵の領域なのかもしれない。


その執着デタッチメントの原因は、決して彼女の冷酷さによるものではなかった。彼女の精神はただ、世界の他の場所へとアクセスしており、周囲から隠された未知の変数パブリック・バリアブルを冷徹に計算していたのだ。静かな一歩が、リンセルを彼女のすぐ隣へと運んできた。


「あのニュースレターのタイトル」と、リンセルが静かに指摘した。「把握しているわ(アウェア)」「設計ドキュメント(仕様書)」「把握しているわ」一拍の、完全な沈黙が二人の間を通り過ぎた。


「あのパブリッシング・スタジオ」と、リンセルが呟く。「レジストリ(登録名)には、私たちの家族の名前が記述されている」廊下が曲がった。平坦で、暴力的な朝の光が東側のウィンドウを貫き、床のタイルを一瞬だけ、血のような白さへと漂白していった。


「把握しているわ」と、リンフィンは言った。


歩進が止まることはなかった。そのペースは完全に均一ユニフォームなままだ。


しかし、二人の間に定着した沈黙の質は、すでに全く別のものへと変貌していた――重く、高密度に膨れ上がり、まるで激しい雷雨が襲いかかってくる直前の、急激な気圧変動のようだった。


それ以上、いかなる言葉も交わされることはなかった。

プロローグを最後までお読みいただき、ありがとうございます。壊れかけた肉体と、世界のシステム。作者コンピューターヒューマンゼロが描く、この『バイキョー』という物語を楽しんでいただければ幸いです。また、読者の皆様へのお願いですが、本作のプロローグは複数(プロローグIIやプロローグIIIなど)に分かれて構成されています。


上昇負荷ライジング・アクションが始まる最初の1日はすべてプロローグとして描かれ、本当の意味で物語が本格始動するタイミングが「第1章(チャプター1)」となります。


もし気に入っていただけましたら、画面下部より【ブックマーク登録】や【☆評価】をいただけますと、今後の執筆の大きな励みになります。


次の更新でお会いしましょう。

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