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2.侯爵令嬢は人生を計画する

しばらくすると侍女が紅茶とお菓子が運んでくれた。

侍女が少し離れたところにいるのを確認してから、3人とも黙ってお茶を飲む。

マシンガントークにも休憩が必要だ。

 

最初に口を開いたのはマリカだった。

「私、この世界の仕事に不満がある」

 

「いきなりやな」

「いや、ずっと思っててん」

一年先に覚醒していただけあって、かなり溜まっていたらしい。

 

「うち港町やろ?」

私たちは頷く。

ウェストン家は国内有数の商業港を持つ侯爵家だ。


「商売のやり方がな、全体的に雑やし性善説なんよ。性善説やし、効率悪いねん」

マリカは深いため息をついた。

 

「お父様はええ人やで」

「めっちゃ分かる」

ユイナも私も同意した。

 

侯爵家同士の交流で何度も顔を合わせている。

ウェストン侯爵は優しい。

とても優しい。

 

「優しすぎて騙されるねん」

 

「ああ」

「なるほど」

納得した。

 

「そのたび家令とお母様が走り回っとる、それでもうちが潰れてないのが不思議。」

 とややあきれ顔。

「それは大変」

「誰も疑問に思わへんの?」

 

「思ってへんし、それが一番怖い」

マリカは即答した。

 

前世を思い出した今だから気付くことがあるのだろう。

マリカは私より前に思い出しているので、歯がゆい思いもしていただろう。


「まあ」

ユイナがクッキーを一枚取った。

 

「今の私ら9歳やし?・・・でも子どもの特権は使える」

ユイナが笑った。

 

「特権?」

 

「質問しても怪しまれへん」

私とマリカは顔を見合わせた。

 

「なんでですか?どうしてですか?それ何?って聞いても子どもなら許される。」

 大人なら詮索と思われるが、子どもなら聞いてもただの質問に映る。

 

「今のうちに情報集めよう、まだこの世界に来て10年も経ってない。このまま妃候補になったらややこしいし。」

ユイナはさらりと言った。


今日だって侯爵家同士の交流会で領地の話を聞いていたが、

覚醒する前のわたしもどこか違和感は感じていたようだった。

 

特産品、観光、流通、市場。

今までも気付けば興味を持って聞いていたような気がする。

聞いていただけだが。

 

「ああ、そういえば」と、マリカが突然顔をしかめた。

「さっき大人らが話しとったやろ、国母がどうとか」

父たちが妙に機嫌よく話していたことを思い出した。

 

ユイナもうつむき、ため息をついた。同じことに気付いたらしい。

「あれ、うちらのことやな」

部屋が静かになった。 


「侯爵家の令嬢三人は王太子妃候補やで」

 

「は?」

これが貴族か・・・。

 

「侯爵家は五つあるけど、残り二家は男児だけやろ」

さすがはマリカ、その辺の情報収集力がすごい。


「つまりは消去法ってことか」

「嫌すぎる」

三人同時だった。

 

「まだ9歳やで?」

「せやで?考えられへんわ。」

 

マリカが紅茶を一気に飲み干した。

「というか、なんで本人らより先に周囲が盛り上がるかな。」

 

「貴族らしいわ、今考えてもどうしようもないけど。」ユイナがあっさり言う。

 

王太子妃候補、確かに面倒そうだ。

転生に気づいた今、この3人で争いたくない。


話変わるけど、と

「せっちゃんは企画とか運営してたんちゃう?」

マリカが言う。

 

「せっちゃん?」

「セリナやと長いやん」

急に勝手に愛称が決まる。

 

「領地の話めっちゃ聞いてたし。」

「売り方の話にも反応してた。」

ユイナも頷く。

 

「マーケティングとか広報系かもあり得るわ。」

「そんな気はする、あんまり思い出されへんけど」

三人で話していると不思議と前向きは話に聞こえる。

 

マリカが紅茶を飲んで、二人をみる。

「せっちゃん、ゆーさん、最終目標どうする?」

大恋愛、世界平和、国家改革、転生ものならありがちなテーマだ。

そういう大それたものは案としては出ず、全員同じ結論になった。

 

「ちゃんとごはん食べていける人生」

「大事」

「大事やな」

満場一致だった。

悪役とかざまあとか、そんなドラマチックなこと、この3人には縁遠そうだなとも思う。

正直、王太子を取り合うとかこの3人に限ってないだろう。

家門のことは置いといて、

ひとりが手を挙げたら、あとの二人が大笑いして「どうぞどうぞ」となるに違いない。


「来年から学園やし、王太子さんとも顔合わせることになる。」

マリカが言う。

「学園?」

 そういえば、兄が行っているような・・今までどれだけぼんやりしていたか分かる。

「知らんかったん?」

まあ、ええわといいながらも説明をつづけるマリカ。

どうやら十歳になる年に王都の学園へ入学し、一般教養、淑女・貴族としての教育を受ける。

将来のための人脈作りも目的にしているらしい。


そして、マリカは

「やっと父母から離れられる」

「それが一番大きいな」

ユイナが真顔で言う。

三人とも妙に納得した。

どうやら過保護なのは我が家だけではないらしい。

 

「じゃあ半年、学園入学まで情報収集やな。」

マリカがニヤリと笑う。

 

「情報収集もするけど、手紙も交換しよう、成果は記録しておくわ。」

「学園で答え合わせか、面白そう」私は思わず笑った。

 

その日、私たちは人生で初めて、自分の意思で未来の約束をした。

お読みいただきありがとうございました。

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