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1.侯爵令嬢は思い出す

転生したのは、社会人経験のある大人たちでした。


一周回って結婚より仕事。

根性論より仕組みづくり。

困ったら、とりあえずお茶を飲んで会議。


今はまず、ごはんを食べていける人生設計が先です。


そんな三人の侯爵令嬢が、

自分たちの未来のことを考えながら、

少しずつ人を育て、まずは半径5mの範囲を良くしようと試行錯誤します。


コツコツ積み上げる物語がお好きな方に楽しんでいただければ幸いです。


幼い頃から、ぼんやりした子どもだったと思う。

何かをなぞって生きているような感覚。

侯爵令嬢として生まれ、父母に愛され、兄にも可愛がられていたし、

不満はない。

けれど、どこか息苦しかった。

水の中で生活しているような鈍い感覚。

それが一生続くのだと思っていた。

侯爵家定例のパーティの日までは。

 

9歳の私は、笑顔を貼り付けながら客人たちに挨拶をしていた。

侯爵家同士が顔を合わせる年に数度の交流会。

大人たちは領地の話をし、子どもたちは愛想を振りまく。

私の仕事はもちろん後者で正直、退屈だった。

 

「もー、しんどいわ」

その言葉が聞こえるまでは。

 

小さい声だったが、聞き慣れた響き。

聞いたことがあるはずなのに、この世界では聞いたことのない言葉。

私は思わず振り返った。

 

目が合った。

 

大きなリボン。

巻き髪。

少し釣り目の美少女。

アイスブルーの瞳がこちらを見ている。 

「……ほんまにそう思わん?」

 

なぜか懐かしかった。

私は反射的に

「・・・ほんまやねえ」と応じる。

 

次の瞬間。

 「なあ!」

どこからともなく銀髪の少女が飛び込んできた。

信じられないというような顔をしながら私たちを交互に指差す。

 

「今の言葉!ねえ、関西弁しゃべってた?」 


その声と同時に胸の奥で何かが弾けた。


知らないはずの駅。

知らないはずのコンビニ。

知らないはずの蛍光灯の白い光。

一瞬で流れ込んでくる。

熱いコーヒー。

紙の資料。

パソコンの画面。

誰かと笑いながら食べた昼食。

電車のアナウンス。

残業帰りの夜道。

私は思わず額を押さえた。

頭が痛いわけではない。

むしろ逆だった。

ずっとぼやけていた世界に、急に輪郭が戻ってくる。

息が吸いやすい。

目の前が鮮明だ。


私は知っている。

知らないはずなのに。

そして、やっと理解した。

ああ。

私は今まで閉じ込めていたのだ。

()()()()()事実を。


私は転生していたのだと気づいた。

だが、脳内は混乱している。

このままどちらの記憶が勝つのか、ぐるぐる天井が回る感覚に床を踏みしめ、

少女たちを見た。

―――

 大きなリボンのアイスブルーの瞳の少女が

「わたしはマリカ・ウェストン」と名乗ると、続けて

 

「ユイナ・ベルグレイス」と笑う少女の銀髪が少し揺れた。

 

「わたしは、セリナ・ハルフォード」

 

名前を言い合っただけ、もう前の名前は思い出せないのに妙に安心した。

話をすると、3人とも現在同じ年齢の転生者。

しかも3人とも【前】は、結構な大人だった様子。


やっと同じ空気を吸える人に出会えた気がして、思わず笑ってしまう。


自分の笑い声にはっとしてあたりを見渡したが、

大人たちには私たちがしゃべっている内容は聞き取りづらいらしく、

「小鳥のさえずり」と噂されていたと後から父に聞いた。


――

「前、何歳やった?」

最初に口を開いたのはマリカだった。

 

私たちは人目を避けるように庭園の東屋へ移動し、侍女たちには休憩したいと伝えて下がってもらった。


「それ、聞く?」

わたしは思わず笑う。

「だって気になるやん」

銀髪の少女――ユイナがマリカの言葉に肩をすくめた。

 

「わたしは今日思い出したところで、まだ記憶、整理できてないわ。」

「私もさっき関西弁聞いた瞬間、思い出したけど、まだわからんことも多いわ。」

 私とユイナが思い出したのがほぼ同時、どうもまだ脳内が混線しているようだ。


 マリカは目をつむり、

「私は一年くらい前かな。大人やった自分が急に子ども扱いされるんやで。ほんま混乱したわ」

そう言ってため息をつく。

  

正確には思い出したというより、焦点が合った感覚だった。

ずっとぼやけていた世界が、急に鮮明になったような。

思い出せないことは多いが、少なくとも私は二度目の人生を生きている。

その事実だけは、不思議なくらいすんなり受け入れられた。


お読みいただきありがとうございました。

素が関西弁で、コツコツ派の3人を一緒に見守っていただけると嬉しいです。

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