釣れない日は、深く沈める
月曜日。
天気予報は雨だった。
だから、久しぶりに朝八時前に出庫した。
雨が降れば、タクシーを使う人が増える。
ホテルから駅。
家から会社。
病院への移動。
普段なら歩く距離でも、雨が降ればタクシーに乗る人が出てくる。
月曜日という弱い曜日でも、雨が降れば仕事になる。
そう考えていた。
ところが、降るはずの雨は降らなかった。
月曜日の朝。
雨予報まで外れた。
今日は弱い日になる。
そう思った。
八時台の武蔵のホテル群は、俺の中では、それほど鳴るイメージがない。
日曜日から泊まり、月曜日の朝にチェックアウトする日本人観光客は、それほど多くないと思っている。
となると、月曜日の午前中にホテルから動く観光客は、インバウンドが中心になる。
けれど、一昨日は外国人観光客が少なかった。
今日も、おそらく少ない。
だから八時台は、観光需要ではなく、生活需要を狙うことにした。
どうせ狙うなら、近場の千円ではなく、少し距離のある仕事が欲しい。
郊外へ向かい、そこから市内へ折り返す。
そんな流れを考えた。
有松に差しかかったところで、窪からUberが鳴った。
行き先は田上のマクドナルド。
狙いどおりの出勤需要だった。
客を降ろしたあと、山側環状を白山方向へ走った。
もう一本、郊外の生活需要を拾いたかった。
けれど、時間を見ると、そろそろホテルが動き始める頃だった。
野田で山側環状を降りた。
平和町で、おばあちゃんが手を上げた。
千円。
短い仕事だった。
それでも、時間当たりで考えれば悪くない。
そのまま武蔵へ向かう。
犀川大橋の上で、ホテルアマネクからUberが鳴った。
行き先は金沢駅。
朝の読みは、悪くなかった。
アマネクには、まだ客が残っているかもしれない。
そう考えて片町へ戻った。
アマネクでは捕まえられなかった。
けれど、キララ前で手が上がった。
行き先は卯辰。
細い道へ入り、坂を上がり、何度も曲がっていく。
二千百円。
本数は出ていない。
けれど、午前の単価としては悪くない。
その時点で、今日の戦い方を決めた。
今日は、数を追っても出ない。
ならば、単価を取りに行く。
釣りでも、魚が簡単に出ない日がある。
瀬を流しても反応がない。
チェイスも見えない。
バイトもない。
そんな時に、同じ場所へ同じルアーを投げ続けても仕方がない。
魚が浮いていないのなら、淵で重めのミノーを深く沈める。
表層を泳がせるのではない。
魚が潜んでいそうな深い場所まで落とす。
簡単には釣れない。
何度投げても、何も起きないこともある。
それでも、深い場所には大物がいる可能性がある。
今日のタクシー営業は、それに近かった。
本数が出ない日に、短い仕事を数多く拾おうとしても勝てない。
そもそも客が少ないのだから、数を追えば空振りが増える。
だから、観光地まで乗せた時に、運賃が二千円を超える距離になる外周を意識して走った。
東山。
兼六園。
武家屋敷跡。
客が出る場所だけを見るのではない。
その場所へ向かう客が、どこから乗れば単価が伸びるのか。
客がいる場所ではなく、客と目的地との距離を見る。
広岡では、観光地のように手上げを狙わない。
ホテル需要と会社需要を、アプリで同時に待つ。
ホテルが弱くても、会社から呼ばれるかもしれない。
会社が静かでも、ホテルから観光客が出てくるかもしれない。
月曜日のような弱い日は、ひとつの需要だけに賭けない。
もちろん、すべてが狙いどおりになるわけではない。
武家屋敷跡は人が多かった。
二周した。
けれど、誰も手を上げなかった。
東山も、朝から一本も取れなかった。
曇り。
気温は三十一度ほど。
湿度はある。
でも、歩けないほどの暑さではない。
人はいる。
けれど、タクシーには乗らない。
そんな日だった。
午後四時過ぎ。
もう一度、東山へ入った。
今日は、東山では一本も取れないかもしれない。
そう思っていた。
そこで、GOが鳴った。
東山から湯涌。
七千円。
深く沈めたミノーに、突然、大物が食いついた。
そんな感覚だった。
簡単には出ない。
けれど、出た時は大きい。
湯涌で客を降ろし、市街地へ戻る。
空車のまま、真っすぐ広岡へ戻ることもできた。
けれど、小立野、石引、兼六園、橋場、武蔵を通りながら戻ることにした。
帰り道でも、客を拾える可能性がある。
すると、客が次の場所へ連れて行ってくれた。
GOが鳴り、兼六町から長田へ。
Uberが鳴り、新神田から片町へ。
GOが鳴り、片町から広岡へ。
俺が行きたい場所へ、客が運賃を払いながら連れて行ってくれた。
タクシー営業では、こういう流れがある。
自分で次の場所へ移動すれば、ただの空車だ。
客を乗せて移動できれば、それが売上になる。
一本の仕事が、次の仕事を呼ぶ。
そして広岡でも、二千円を超える仕事が続いた。
今日は本数が少ない。
出庫から十時間が過ぎても、平日の最低ラインとしている十五本に届かなかった。
それでも、十四本時点で三万五千八百円。
平均単価は二千五百円を超えていた。
その後、広岡で十五本目。
さらに、武蔵から野町までのUberを取った。
十六本で三万九千五百円。
平均単価は約二千四百七十円。
本数では負けている。
けれど、売上は大きく崩れていない。
もちろん、偶然もある。
東山から湯涌までの七千円は、狙って必ず取れる仕事ではない。
そんな仕事が毎回出るなら、誰も苦労しない。
それでも、すべてが偶然だったとは思っていない。
今日は数が出ない。
だから、単価を狙う。
観光地まで乗せれば二千円を超える距離になる外周を意識する。
広岡では、会社需要とホテル需要を同時に待つ。
東山では、ホテル戻りや郊外行きが出やすい時間帯を意識する。
そう考えて動いた結果、二千円を超える仕事が多くなった。
七千円の一発だけで、数字を作ったわけではない。
千円の仕事もあった。
待たされた時間もあった。
二周して、何も取れなかった場所もあった。
無音の時間も長かった。
それでも、狙いを浅くしなかった。
釣れない日に、同じ場所へ同じルアーを投げ続けても仕方がない。
魚が浮いていないなら、深く沈める。
数が出ない日に、短い仕事を必死に追い続けても仕方がない。
客が少ないなら、狙いを深くする。
簡単には出ない。
待たされる。
外れる。
何も起きない時間が続く。
それでも、たまに大物が出る。
弱い日に必要なのは、強い日と同じ戦い方を続けることではない。
釣れない日の釣り方。
鳴らない日の営業。
それを持っているかどうかだと思う。




