やっと来た、夏の客
一昨日までは、弱かった。
街に人はいる。
観光地にも人はいる。
けれど、タクシーには乗らない。
歩ける日は、歩く。
バスで足りる日は、バスで動く。
そういう日が続いていた。
人の数と、タクシーの売上は一致しない。
それは分かっている。
分かっているけれど、鳴らない時間が続くと、やっぱり気持ちは削られる。
今日もそんな日になるのか。
そう思いながら、朝、目が覚めた。
カーテンの向こうが明るかった。
陽射しが強い。
ただ明るいだけではない。
もう夏の光だった。
何となく、今日は違う気がした。
根拠はない。
でも、タクシーをやっていると、そういう朝がある。
街に出る前から、どこかで空気が変わっている気がする。
今日は良い日になるんじゃないか。
そう思った。
だから、出庫の時間を一時間早めた。
一時間早く出たからといって、必ず仕事が取れるわけではない。
無音なんて、しょっちゅうある。
早く出ても、時間だけが削られる日もある。
それでも今日は、早い時間から需要があるような気がした。
車を出す。
外は暑い。
まだ午前中なのに、もう暑い。
陽射しが強い。
歩けば汗が出る。
日陰を探したくなる。
こういう日は、歩ける距離が、歩きたくない距離に変わる。
そこにタクシーの理由が生まれる。
街に出て、すぐに違和感があった。
外国人観光客は、いつも多い。
金沢の街では、もう珍しくない。
大人だけのグループ。
若いカップル。
そういう外国人は、普段から目に入る。
でも今日は、少し違った。
ファミリーが多い。
小学校か中学校くらいの年齢の子供を連れた外国人ファミリーが、やけに目についた。
そこで、ピンと来た。
欧米のバカンスが始まったんじゃないか。
春でもない。
ゴールデンウィークでもない。
でも、街の中に家族連れの外国人が増えている。
これは、いつもの観光客とは少し違う。
大人だけなら、歩く。
若い旅行者なら、歩く。
けれど、子供連れは違う。
暑い。
荷物がある。
次の場所に早く行きたい。
子供が疲れる。
そうなると、短い距離でも、タクシーに乗る理由ができる。
思った通りだった。
Uberが鳴った。
観光地から観光地へ。
ホテルから駅へ。
駅からホテルへ。
短い移動が、ぽつぽつと繋がっていく。
一本一本は軽い。
けれど、軽い仕事が続く。
短い距離でも、連鎖すれば売上になる。
回転ができる。
金沢は観光地がコンパクトだ。
だから、単価は伸びにくい。
でも、逆に言えば、戻りが早い。
一回乗せて、すぐ次の場所に入れる。
短い距離の中に、次の客がいる。
やっと来た。
そう思った。
待っていたものが来た。
雨でもない。
イベントだけでもない。
観光の潮目が変わった感じがあった。
外国人ファミリー。
暑さ。
観光地間の移動。
Uber。
全部が噛み合い始めた。
ただ、今日の目標はそれだけではなかった。
夕方には、桑田佳祐のLIVEがある。
会場は産業展示館。
通称、産展。
今日の本番は、まだ先にある。




