七月一日の、フレックスタイム
七月一日。
今年も半分が終わった。
毎年、ニュースで言われている。
そして、俺も言っている。
今年も、もう半分終わったな。
何か特別なことを言っているわけではない。
ただ、毎年そう思う。
そして今日から、新しい半期が始まる。
連日、弱い日が続いていた。
街に人がいないわけではない。
観光地にも、人はいる。
東山にも、近江町にも、兼六園にも、人はいる。
けれど、多くはない。
賑わっていると言うには弱い。
かといって、完全に死んでいるわけでもない。
ただ、タクシーに乗る理由が薄い。
歩ける。
バスで足りる。
雨もまだ降っていない。
だから、タクシーには乗らない。
ここ何日か、その弱さを痛感していた。
人がいないわけじゃない。
街が死んでいるわけでもない。
でも、タクシーの仕事にはならない。
その差が、しんどい。
それでも、嘆いてばかりもいられない。
下半期の初日。
気合いとは少し違う。
よし、やってやるぞ、みたいな暑苦しいものでもない。
けれど、気は締まる。
今日は、どう戦うか。
そう思って、ウェザーニュースを立ち上げた。
金沢の天気を見る。
朝はくもり。
夕方以降は雨。
なるほど。
朝から出ても、たぶん弱い。
くもりなら歩ける。
観光客も動く。
でも、タクシーに乗る理由としては弱い。
なら、午前中の空白時間を減らす。
出庫時間を遅らせる。
夕方以降の雨で動く需要を取りに行く。
夕方以降なら、主戦場は観光地ではない。
片町だ。
雨が降れば、夜の街の判断は変わる。
夜のお姉ちゃんでも、毎回タクシーで出勤するわけではない。
店用のヒールとは別に、歩くためのスニーカーを履いてる人もいる。
でも、雨の日は話が変わる。
濡れて出勤したいわけではない。
髪もある。
服もある。
化粧もある。
傘を差して歩けばいい。
そう簡単に済まない人たちがいる。
店までの距離。
雨。
時間。
身支度。
その全部が、タクシーに乗る理由になる。
そして、そこに呼ばれた男も同じだ。
雨の中、片町まで歩くか。
バスを待つか。
それとも、タクシーを呼ぶか。
答えは難しくない。
タクシーで来た客は、タクシーで帰る。
雨なら、なおさらだ。
片町は、着でもあり、発でもある。
店に向かう人がいる。
店から帰る人がいる。
誰かに呼ばれて来る人がいる。
誰かを呼んで待っている人がいる。
雨は、その流れをタクシー側に寄せる。
俺の狙いは、そこだ。
歩ける距離が、歩きたくない距離に変わる。
俺は、その変わり目を取りに行く。
そう決めた。
その少し前、ある人へのLINEを考えていた。
今日は休みというより、非番です。
隔日勤務って奴です。
消防士みたいな勤務?
そんな説明をしながら、自分で少し笑った。
確かに、普通の会社員とは違う。
朝出て、夕方帰る。
月曜から金曜まで同じ時間に働く。
そういう働き方ではない。
長めに出て、次の日は休む。
一日おきに働く。
しかも、フレックス制なので、働く時間はある程度、自分で決めている。
そう書いた時、改めて思った。
俺の仕事は、自由だ。
もちろん、楽な意味の自由ではない。
長く出れば、身体は削れる。
弱い日に出れば、心も削れる。
判断を間違えれば、何時間も無音で終わる。
誰も教えてくれない。
誰も責任を取ってくれない。
出る時間も。
狙う時間も。
休む場所も。
勝負する場所も。
全部、自分で決める。
自由というのは、気楽な言葉に見える。
けれど、本当は違う。
自由には、責任がくっついている。
朝から出て負けるのも自分。
昼から出て外すのも自分。
夕方の雨を信じて当てるのも自分。
誰のせいにもできない。
だから面白い。
フレックスタイム。
自分の時間は、自分で決める。
ある人に説明するための言葉だったはずが、気づけば、自分自身に言い聞かせていた。
今日は七月一日。
今年の半分が終わった日。
そして、新しい半期が始まる日。
朝は捨てる。
夕方以降の片町を取りに行く。
気合いではない。
作戦だ。
俺には、この働き方が合っている。




