表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
80/85

朝の戦略の見直し

平日の朝は、武蔵のホテル群を狙う。

そう決めていた。

インバウンドの観光客がチェックアウトする。

荷物を引き、スマホを開き、駅へ向かう。

行き先は、だいたい金沢駅だった。

距離は短い。

だが、8時台、9時台、10時台。

それぞれの一時間で三本取れれば、それは勝ちだった。

発の場所は分かっている。

御宿野々、三井ガーデンホテル、東急ステイ、インターゲートホテル。

ホテルの名前は、もはやポイント名に近かった。

渓流で言えば、岩の裏、落ち込み、瀬尻。

魚が着く場所があるように、客が立つ場所もある。

発の時間も、ある程度は読めた。

新幹線の時刻表を見ればいい。

出発の一時間前に駅へ着きたい客もいる。

十五分前でいいと考える客もいる。

どちらにせよ、発車時刻から逆算すれば、ホテルの玄関先に需要が立つ時間は見えてくる。

調子が良い時は、GOとUberが同時に鳴った。

それは一人の客ではない。

武蔵というエリア全体に、同時に需要が立ったということだ。

時合だ。

朝の金沢の、短い時合。

新幹線に乗る客の波は、長くは続かない。

釣れる時間は一瞬だ。

外せば終わる。

俺は時刻表を眺めながら、いつも考えていた。

この時間の、この新幹線の客を捕まえてやる。

なるわ営業所を出る。

橋場町を右折し、博労町を左折する。

まず山楽ホテルを見る。

博労町南を右折し、下堤町を左折。

御宿野々、三井ガーデンホテル。

南町を左折し、裏道へ入る。

尾山神社を右折し、東急ステイを見る。

また南町へ戻り、インターゲートホテル。

そこで向きを変え、KUMU金沢を拾いにいく。

このルートで、武蔵のホテル群はだいたい電波に掛かる。

流しているだけではない。

点を拾いながら、面を押さえている。

だが、最近は鳴らない。

三月、四月、そして五月の半ばまではイージーだった。

一時間に三件。

短距離でも構わなかった。

迎車料金込みで千二百円、千四百円、時には千六百円。

五月二十五日に料金が上がってからは、なおさら一件の重みが増した。

ボッタクることはできない。

メーターはメーターだ。

それでも正直、千四百円は超えてほしいと思っている。

一時間に三件。

それで目標にしている時給四千円を超える。

だが、三件取れていた朝が、二件で止まるようになった。

たった一本の差だ。

けれど、その一本が重い。

タクシーの朝は、ただの足し算ではない。

三本なら、だいたい勝ち。

二本なら、単価次第。

一本なら、ほとんど負けだ。

駅前では、必ず赤信号が重なる。

武蔵から駅までは近い。

近いはずなのに、朝の信号は妙に長い。

客を降ろし、メーターを切り、空車に戻す頃には、さっきまで見えていた時合がもう薄くなっている。

俺はハンドルを握りながら思う。

場所は間違っていない。

ルートも間違っていない。

なら、何がズレているのか。

観光が落ち着いたのか。

客が歩くようになったのか。

ホテルの稼働が落ちたのか。

それとも、俺の入る時間が数分ズレているだけなのか。

答えはまだ分からない。

ただ一つだけ分かっている。

朝の戦略を、見直す時が来ていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ