第七話
その瞬間、戦場にいたすべての者の時間が止まった。
ベースキャンプ跡地から立ち昇る巨大な爆炎。地図から拠点が消滅したことを、誰もが網膜に焼き付けた。そして間髪入れず、ヴァルキュリアを庇った赤い機体が火球となって四散する。
「カイル――ッ!!」
レオンの絶叫が、ノイズ混じりの魔導通信機を貫いた。
直後、ヴァルキュリアとノクティスの激突により発生した衝撃波が、物理的な暴力となって周囲の機体を弾き飛ばす。地面が波打ち、降り積もった灰が猛吹雪のように視界を遮った。
「……ベースキャンプの反応、消失。生存者との接触……不可能です。おそらく、皆……」
高台からすべてを俯瞰していたアーヴァインの声は、冷徹なほどに震えていた。
「クソが……ッ! だから逃げろって、あれほど言ったのによぉ!!」
クライヴが地を這うような声で唸る。
『皆、こちらの制圧は完了した。そっちでは何が起きているんだ』
ガルド帝国を強襲したサーシャからの緊急通信。
「ベースキャンプとカイルがやられた……! それに、ノクティスが暴走しているようだ」
レオンが辛うじて現状を報告する。
『……了解した。イグナス、どうする』
『……全機、ガルド兵の無力化を継続しろ。アリアを信じるしかない』
イグナスの苦渋に満ちた決断と共に、通信は一度途絶えた。
一方、絶望の光景を目撃したソフィアは、操縦桿を握る手を震わせていた。
『嘘でしょ……今の、カイルじゃないわよね……?』
『落ち着け、ソフィア! 前を見ろ、まだ戦闘中だ!』
ヴォルフが怒鳴りつけるように励ますが、彼の声にも動揺が滲んでいた。
その時、ダリルの機体に、秘匿回線を通じた外部通信が割り込む。
『ダリル! 何をやっているんだ、お前は!!』
鼓膜を叩いたのは、ルイーズ・ハルバートの悲鳴に近い怒号だった。
『無茶をするなと言ったはずだ! なぜ独断で動いた!!』
「ルイーズさん……すみません、でも俺は確かめないといけなかった」
ダリルは状況の混乱も相まって、弱々しく返事を返した。
ルナティックの「戦果」を眺めていたノアが、口笛を吹くような軽薄さで通信を繋ぐ。
「ルナちゃん、派手にやったねぇ。……さて、俺らもとっとと片付けようぜ」
目前には片腕を失った赤い機体と、二機の白い機体。
「あいつらを潰せば、この面倒臭い仕事も終わりだ……!」
アンドリューが大剣を構え直した瞬間、神域の衝撃波が再び彼らを襲った。
「ねえ皆……本部との通信が途絶した! 反応がない!」
高台のリュカから、初めて焦燥の色が漏れる。本国では既にイグナスたちが皇帝を捕らえ、指揮系統が死滅していることを、彼らはまだ知らない。
「ルナ! ルナ、返事をしな!!」
マルセラが残滓の灰が舞い散る中で必死にノクティスへ呼びかけるが、返ってくるのは獣のような咆哮だけだった。
「ルナの野郎、どうしちまったんだ……なぁ、マルセラ!」
ガルマの悲鳴が混じる中、ヴァルキュリアの手がノクティスの魔導核を捉えた。
刹那――。
すべてを拒絶し、すべてを融解させるような鋭い閃光が二機から溢れ出し、世界は音を失った。




