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第六話

(私は、何のために生まれてきたんだろう……)

 真っ白な、音さえも死絶した世界に、少女の震える声が響き渡った。

 それは自らの存在を呪い、ゆるしをうような、あまりに悲しい懺悔ざんげの響き。

(誰かを殺す……ただ、それだけのために生まれてきたのかな……)


 アリアが重い瞼を開けると、そこには一人の少女が、今にも消えてしまいそうなほど頼りなく立ち尽くしていた。戦場で見せる冷徹な『ルナティック』ではない、剥き出しの心を持った一人の子供の姿。

 アリアは、優しく微笑みかけた。

「はじめまして、ルナティック。……私はアリア・フィオル。貴女と同じ、檻に囚われていたパイロット」

 ルナティックは動くことも忘れ、不思議なものを見るような瞳でアリアを見つめていた。

「こうして、顔を見て話すのは初めてだね」

 アリアは一歩、また一歩と、ルナティックに歩み寄る。その瞳に憎しみの色はなく、ただ、過酷かこくな運命を受け入れた者だけが持つ静かな慈愛じあいが宿っていた。

「……君は、私が憎くないの? 仲間を、友達を、君の全てを奪った、この私が」

 アリアの清らかな眼差しに耐えかねたように、ルナティックはうつむき、声を絞り出した。

「憎くない……と言ったら嘘になるかもしれない。けれど、貴女を恨み続けても、失ったものは戻らないよ。それに、私だって……貴女の仲間をたくさん、殺した」

 アリアはルナティックの目の前で足を止め、逃げ場のない正面から、彼女の瞳を真っ直ぐに射抜いぬいた。

「もう、終わりにしよう。こんな悲しい連鎖、私たちで断ち切るんだ」

「そんなこと、本当に……できるの?」

「できるよ。……ううん、やろう……!」

 アリアは静かに、けれど鋼のような意志を込めて頷いた。そして、戸惑うルナティックに、握手を求めるようにそっと右手を差し出す。

「……私、もう、戦わなくてもいいの?」

「いいよ。もう、誰にも貴女に銃を握れなんて言わせない。……戦うのは、もうおしまい」

 その言葉が、ルナティックの心を縛っていた最後の鎖を解いた。

 溢れ出した涙が白い空間にこぼれ落ち、少女は差し出された手を、壊れ物を扱うような手つきで握りしめた。アリアはその冷え切った手を強く握り返すと、そのまま彼女の小さな体を、包み込むように抱き寄せた。

「もっと別の形で出会えていたら、私たち、きっと友達になれたよね……」

 アリアの呟きは、涙に濡れて震えていた。

 腕の中のルナティックは、子供のように声を上げて泣き出し、アリアの背中にしがみついた。

「友達に……なりたかった……! ずっと、君みたいに……笑いたかった……っ!」

 魂からの慟哭どうこく。ルナティックが抱きしめる腕に込めた力は、彼女がこれまでどれほど愛を渇望かつぼうしていたかの証だった。アリアもまた、彼女の温もりを噛み締めるように涙を流した。

 静寂の中、二人の少女の魂が溶け合うように、周囲から柔らかな光が溢れ出す。

 その光は残酷な戦場の記憶さえも白く塗り潰し、果てしない優しさで、二人の最期を包み込んでいった。

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