第五話
戦場は、もはや言葉を失うほどの混沌に包まれていた。
本国との通信が途絶したガルド帝国軍は統制を失い、拠点を焼かれたレジスタンスは絶望の淵に立たされている。戦局を完全に見失ったダリルたち三人は、降り注ぐ灰の中で、ただ天を衝く二機の魔導戦装が激突する様子を見るしかなかった。
ベースキャンプを焦土に変え、友の機体を切り裂いたノクティスは、自我を失った獣のようにヴァルキュリアへと襲いかかる。
アリアは、黄金の奔流を纏った凄まじい斬撃を、魔導盾で受け流した。
「グレイス……あの子は、きっと、ずっと独りだったんだよね……」
アリアは自身の神経を削るような高速機動で翻弄しながら、虚空に問いかける。
「仲間はいた。けれど、その絆は凍りついた孤独の中にあった……そんな感情が、マナを通じて流れ込んでくるの」
激突のたびに大気が震え、衝撃波が地を割り、灰を巻き上げる。
「私、あの子を……ルナティックを助けたい!」
彼女の犯した罪を、アリアは決して許さないだろう。だが、同じ「檻」を知る者として、彼女を恨むこともできなかった。憎しみを超えた純粋な「対話」への渇望が、アリアの魂を突き動かす。
『……ならば、あの機体の魔導核に触れなさい』
沈黙を貫いていたグレイスの冷徹な声が、脳内に直接響いた。
『今、貴女たちの魂は極限まで魔導素へ変換され、魔導核へと凝縮されている。すなわち、魔導核への接触は魂そのものへの接触。理屈も言葉も捨て、貴女の剥き出しの声を、あの子に叩き込みなさい』
「魂の声を……!」
アリアは迷わず、ノクティスの胸元へと手を伸ばした。しかし、狂乱する黒き死神の魔導核を捉えるのは、至難の業だ。
それと同時に、アリアの肉体は悲鳴を上げ、磁器のようにひび割れていく。
「届いて……お願い……!!」
もはや腕の感覚はない。指先から光の粒となって消滅していく激痛に耐え、ヴァルキュリアの右腕が、黄金の盾の隙間を縫うようにしてノクティスの中心部へと突き進む。
崩壊が全身に回り、意識が遠のくその刹那――ヴァルキュリアの掌が、ノクティスの深淵で拍動する魔導核へと到達した。
接触。
次の瞬間、物理法則を無視した目映い光がすべてを呑み込み、アリアの視界は果てしない純白へと塗り潰された。




