第二話
赤い魔導甲冑が、降り積もる灰を蹴散らし戦場を駆ける。クライヴの視界には、高台へ迫る二機の漆黒が捉えられていた。
「アーヴァイン! 俺に何があっても、自分の任務を優先しろよ。いいな!!」
かつては一対一で凌げた相手だが、今回は二対一。分が悪いのは明白であり、最悪の結末も十分に想定できた。クライヴは己の死さえ覚悟の上で、アーヴァインが狙撃手を仕留めることに集中できるよう、釘を刺したのだ。
「……了解です。御武運を」
短く、プロフェッショナルな返答。不満はあれど、アーヴァインはその命令を重く受け止めた。彼はスコープの奥で、高台の冷徹な静寂を睨みつける。
(三箇所の戦場、そのすべてを俯瞰できる場所……自分なら、どこに潜む?)
狙撃手としての思考を同期させ、導き出した座標にレンズを向ける。その刹那、障害物の影で微かな「揺らぎ」が捉えられた。
一方、クライヴは黒い二機に肉薄し、まずはノアの乗る二丁銃の機体へと切り込んだ。遠距離からの火線を押さえねば、勝利の目は万に一つもない。
だが、ノアは紙一重でその刃を銃身で受け流し、クライヴの機動を逸らす。その瞬間の隙を、アンドリューが逃すはずもなかった。背後から振り下ろされる大剣の重圧。クライヴは脚部のブーストを悲鳴に近い出力で稼働させ、死地を脱した。
「大剣は大振りだが……二丁銃がその隙を完璧に埋めてやがるな。いい連携じゃねえか、おい!」
この危機的状況の中でも、クライヴの心は高揚していた。
数年前、ヴァルキュリアに敗れ、戦場で死にかけていた自分をレジスタンスが拾い上げた。その時、兵士としての自分は一度死んでいるのだ。今さら、死の影に怯える理由など何もない。
二機の波状攻撃を掻い潜り、狂犬じみた反撃を繰り出す。だが、劣勢は覆らない。赤い装甲には刻一刻と致命的な傷跡が刻まれていく。
防御が一手、遅れた。
アンドリューの大剣が、赤い機体の左腕を根元から断ち切った。
「しまった……ッ!!」
バランスを崩し、右腕一本で魔導剣を構える。だが、それはあまりに心許ない抵抗だった。両腕を尽くしても押し込まれていた相手を、片腕だけで凌げる道理はない。
漆黒の刃が止めを刺そうと迫ったその時――。
赤い機体の前に、二機の「白銀」が滑り込んだ。
雪のような白い装甲に身を包んだ二機は、手慣れた動作で武器を構え、ガルドの精鋭たちと激しい交戦を開始した。




