第七話
レジスタンスのベースキャンプ付近で、時代の命運を分ける激戦が繰り広げられていたその頃。アルヴェリア王国の王城では、静かな、しかし決定的な足音が響いていた。
集団を率いるのは、軍の総大将ルイーズ・ハルバード。彼女の背後には、腐敗した王政に見切りをつけ、新時代を望む精鋭たちが付き従っていた。彼らの手にあるのは、対人用の魔導兵器。その銃口は、守るべき王ではなく、変えるべき王へと向けられている。
重鎮たちが集う玉座の間を前に、ルイーズは一度だけ深く頷き、合図を送った。
大扉が重低音を立てて開け放たれ、兵士たちが雪崩れ込む。
「アウレリウス・ヴァル=アルヴェリア三世! 貴公の独善に満ちた王政も、今日ここで終幕だ!」
ルイーズの断罪の声が、豪華絢爛な広間に響き渡る。
「貴様たち、何をしているのか分かっているのか!」
中央に鎮座していた壮年の王、アウレリウスが激昂して立ち上がる。だが、その隣に座っていた側近が、無機質な動作で王の側頭部に銃口を突きつけた。
「……これが国民の答えです。アウレリウス陛下、いえ――アウレリウス」
国防政策局長ヘレナ・スターリング。冷徹なまでの静謐さを湛えた彼女の裏切りに、王は絶句した。
「ヘレナ! 貴様まで……!」
「私の職務はこの国を守ること。……そして、国とはそこに住まう国民の命があってこそ成立するものです。民を見捨てた王に、座る椅子などありません」
ルイーズは抵抗する者がいないことを確認すると、速やかな捕縛を命じた。かつての最高権力者が無残に引き立てられていく中、部屋にはルイーズとヘレナの二人だけが残された。
「協力に感謝する、ヘレナ。貴女の呼びかけがあったからこそ、これだけの兵士が立ち上がった」
「いいえ、貴女の人望がなければ不可能でした。……ルイーズ、これからが本当の正念場ですよ」
「わかっている。……あちらも、うまくやってくれているといいんだがな」
ほぼ同時刻。
ガルド帝国の皇都では、イグナス率いる実行班が皇帝「ヴァルツァー・ガルド=ヴァルハイン」の居城へと侵入を果たしていた。
戦争によって子供を奪われ、自由を削り取られた民衆の怒りは既に限界に達していた。民の協力を得たイグナスたちは、難攻不落と呼ばれた城壁を「内部」から容易く突破したのである。
「さて、本丸だ。野郎ども、準備はいいか」
イグナスの低い問いに、サーシャが銃の遊底を引き、実行班の面々が鋭い殺気で応じる。
「向かってくる者は、容赦なく殺してもいいんだな?」
サーシャの冷ややかな問いに、イグナスは灰の空を見上げ、短く言い放った。
「ああ。疲弊させる段階は終わった。敵として立ちふさがる者はすべて処理しろ」
彼らは迷いなく、闇の奥へと消えていった。
かつてヴァルディア大陸を血に染め、二分していた二つの大国。その数千年の歴史が、たった一晩の激動によって、音を立てて瓦解していく。
戦火の先に待つのは、真の平和か、それとも新たな混沌か。
答えを知らぬまま、世界は夜明けへと向かって動き出していた。




