第六話
黒き精鋭たちの背後から、魔導戦装ノクティス・フレームがその姿を現した。漆黒の機体は、翼型ユニットから黄金のマナを優雅に噴射し、重力を嘲笑うかのように宙を舞う。
アリアもまた、白銀の翼から真紅のマナを迸らせ、ノクティスの前に躍り出た。
「思い出せ……訓練したすべてを。グレイスがいなくても、私は……私の意志で飛べるはず……!」
アリアは自分を鼓舞するように呟き、剣と盾を構えた。呼応するように、ノクティスも静かに得物を構える。
一瞬の静寂。
直後、二機は爆発的な加速で激突した。魔導剣が魔導盾を打つ重低音が響き渡る。
「ぐっ……重い……!?」
一撃の重さに体勢を崩したヴァルキュリアは、翼型ユニットを逆噴射させ、紙一重で追撃を回避した。
「勝たなきゃ……私が、この戦争を終わらせるために……!」
迫り来るノクティスの連撃を、アリアは正面から受け止める。だが、黒き機体の圧倒的な出力はヴァルキュリアの防御を強引にこじ開け、その機体を地上へと弾き飛ばした。
アリアは短い悲鳴を上げながらも、執念で着地し体勢を立て直す。しかし、漆黒の死神は休む間もなく頭上から襲いかかった。
その窮地を視界に捉えたレオンが、通信機へ怒号を飛ばす。
「カイル、アリアの元へ行け!こいつらの相手は俺がする!」
カイルは一瞬、躊躇した。黒曜三刃隊の二人を相手に、いくらレオンでも一人で立ち向かうのはあまりに無謀だ。
「カイル! 俺のことはいい、アリアを守れ!! ノクティスを止められるのは、彼女だけなんだ!!」
レオンの叫びがカイルの背中を押した。彼は意を決して戦域を離脱し、アリアを狙うノクティスへと全速力で駆けた。
ノクティスのコックピット。ルナティックは、冷徹な瞳でヴァルキュリアを射抜いていた。
同じ「檻」に囚われた、似た者同士だと思っていた。彼女もまた、自分と同じ孤独の中に生きているのだと。
だが、それは間違いだった。
アリアには、愛してくれた家族がいた。
そして今は、命を懸けて守ってくれる仲間がいる。帰りを待つ、親友がいる。
ルナティックは、自分が決定的に「持たざる者」であることを思い知らされた。
「仲間……友達。……でも、そんな甘いものじゃ、何も守れないよ」
ルナティックは、胸の奥で疼く得体の知れない苛立ちをぶつけるように、ヴァルキュリアへと斬りかかった。
「君はここで終わる。そして、君の仲間も、友達も……皆死ぬ」
体勢の崩れたヴァルキュリアに、逃げ場はない。魔導核を貫こうと、黒き刃が真っ直ぐに突き出された――その時。
地上から放たれた光弾が、ノクティスの動きを止めた。
ルナティックは反射的に視線を地上へ走らせる。そこには、一機の赤い魔導甲冑が、煙を吹く銃口をこちらに向けて立っていた。
「……あれが、君の『仲間』?」
意識の外にいたはずの存在。アリアを助けるために飛び込んできた、その赤き機体。
ルナティックが僅かに動揺した隙を、アリアは見逃さなかった。ヴァルキュリアが翻り、反撃の刃が黒き装甲を削る。
再び激しく散るマナの残滓。
だが、先ほどまでとは違う。ヴァルキュリアには、彼女を支える「手」が増えていた。
ルナティックは、自分に欠けている「絆」の輝きを、激しい嫉妬とともに見つめていた。




