第四話
イグナスとサーシャが率いる先遣隊がベースキャンプを発って数時間後。静寂を守っていた拠点の空気を、劈くような警報音が切り裂いた。
『緊急事態発生! 緊急事態発生! ガルド帝国の戦闘部隊が本拠点に接近中です。戦闘班の方々、直ちに迎撃をお願いします! 繰り返します――』
スピーカーから流れる悲鳴に近いアナウンス。緊迫したベースキャンプ内を、戦闘用ブーツの足音が激しく打ち鳴らす。戦闘班に選ばれた兵士たちは、迷いなく自身の魔導甲冑が待つ格納庫へとひた走った。
レオンとクライヴも互いに視線を交わし、短く頷き合う。
「アーヴァイン、お前は俺と来い! 俺が守ってやるから、お前は敵の狙撃手を叩き落とすことだけ考えろ!」
クライヴが咆哮に近い声で告げると、アーヴァインは「了解」とだけ短く返し、その背を追った。
「お前達は俺と行くぞ。カイル、アリア、行けるな?」
「いつでも行けます!」
レオンの問いかけに、カイルは弾かれたように答える。
「私も……ヴァルキュリアも、準備はできています!」
アリアも決意を込めて応じ、各々が自身の機体へと駆け寄った。
ハッチを開け、アリアが機体に乗り込もうとしたその時。格納庫の重い扉が開き、ミナが姿を現した。
「……アリア、カイル。絶対、戻ってきてね? 約束だよ」
そう絞り出すように告げるミナの瞳には、ぬぐい去れない不安の色が浮かんでいた。胸の奥を冷たく撫でるような、嫌な予感。それがミナに、引き止めたいという衝動を突き動かしていたのだ。
「大丈夫、必ず帰ってくるよ……!」
「当たり前だろ! 俺たちがそう簡単にくたばるかよ!」
二人はミナへ力強い言葉を遺し、それぞれのコックピットへと滑り込んだ。
「カイル、俺たちはいつも通り黒曜三刃隊の近接組を叩く。アリア、お前はノクティスを頼むぞ!」
通信機越しに響くレオンの指示。二人が力強く了解を返すと、三機の魔導甲冑は爆発的な機動音を響かせ、戦場へと躍り出た。
「……あの子たちは、行ってしまったようだの」
いつの間にか背後に立っていたリュシアンが、ミナの隣に並んで呟いた。
「キミもエマ君たちと共に退避しなくてもよかったのかね? 今回の戦域はあまりにベースキャンプに近い。ガルドの狙いはここを根こそぎ破壊することじゃ。残るのは、あまりに危険すぎる」
リュシアンの憂慮に、ミナは静かに首を振った。
「わかっています。でも……私はここでみんなを待ちたいんです。帰ってきたみんなに、真っ先にお帰りって言いたいから」
「そうか、そうか……。ならば、ワシも一緒に待つとしよう。……皆、何事もなければよいがのう」
二人は、仲間の機体が消えていった格納庫の出口を、祈るように見つめ続けた。
外には、絶え間なく魔導素の残滓が降り注ぎ、荒れ果てた大地を灰色に染め上げている。




