第三話
ガルド帝国の本拠地。ガルマとリュカを引き連れたマルセラは、険しい表情で廊下を突き進んでいた。レジスタンス『灰の灯 -アッシュ・ランタン-』に動きあり――その報せは、彼女たち『黒曜三刃隊』にとって、屈辱を晴らす絶好の合図だった。
マルセラは待機室の扉を乱暴に蹴開け、中にいた三人に吠えた。
「レジスタンスの連中が尻尾を出したよ! ベースキャンプを空にした隙に、あいつらを根こそぎ叩き潰してやる!!」
今まで翻弄され続けてきた借りを返す。その執念が、彼女の声を鋭く震わせていた。
「留守を狙うなんて、随分と空き巣じみた作戦だな」
ノアが後頭部を掻きながら、不満げに鼻を鳴らす。
「面倒だけど仕方ないだろ。……ほら、行こうぜ」
アンドリューが椅子から重い腰を上げ、出口へと歩き出す。ノアもそれに続くように、気怠げな足取りで扉をくぐった。
「ルナ、早くしないと置いてくよ」
いまだ椅子に座ったまま動こうとしないルナティックに向け、リュカが言い放ち、兵器庫へと消えていく。
ルナティックは一人、静寂の戻った室内で自分の指先を見つめた後、導かれるように彼らの背を追った。
巨大な兵器庫。そこには、パイロット各々の特性に合わせて調整された漆黒の魔導甲冑が、出撃の刻を待っていた。ルナティックもまた、自身の半身ともいえる魔導戦装ノクティス・フレームへと滑り込む。
「……前みたいにさ、面倒なのがいなきゃいいけど」
「ま、そうなったら次は共闘といこうぜ、アンドリュー。俺たちが組めば、意外といけるかもしれないだろ?」
通信機越しに冗談めかして笑うノアに対し、アンドリューは鼻で笑うと、出撃口へと機体を進めた。
「あいつらにどれだけの拠点を潰されたか……。この屈辱、きっちり償ってもらうよ!!」
マルセラの苛烈な号令が、全機の通信機に響く。
「了解だ!」
「当たり前でしょ」
ガルマとリュカの応諾。三機の黒き影が、夜霧を切り裂いて外へと飛び出した。
「私の仲間……。仲間って、本当に必要なものなのかな」
ルナティックは機体のモニター越しに前を行く五機を見つめた。
自分よりも脆く、弱い存在。なのに、彼らは何かに突き動かされるように戦場へと向かっていく。
(私は……何のために、戦っているの?)
『ルナ!! ボサッとしてないで行くよ!!』
自問自答を遮るように、マルセラの怒声が割り込んだ。
『ヴァルキュリアが現れたとき、あいつの相手が出きるのはあんただけなんだよ。しっかりやりな!』
その声には、自分では『英雄』に届かないという、隠しきれない悔しさが滲んでいた。
(……そうか。私の役目は、あの子と戦うこと。私と同じ、檻の中に囚われた少女と……)
ルナティックは、宿敵であるアリアの姿を脳裏に描き、微かな期待を胸に背面の翼型ユニットから魔導素を爆発させた。
基地から飛び出した六条の黒い軌跡が、死神の爪痕のようにレジスタンスの拠点へと伸びていく。




