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第二話

 アリアの切実な祈りに呼応するように、ヴァルキュリアの魔導核コアが、凍てついた血のような紅い輝きを放ち始めた。

『――無駄よ。私たちが何をしようと、この呪われた連鎖は終わらない』

 格納庫に響き渡ったのは、凛としていながらも、どこかひび割れたような女性の声だった。初代英雄、グレイス・ヴァレンティア。アリアはその冷徹れいてつな響きに息を呑みながらも、高鳴る鼓動を抑えて前を見据えた。

「そんなことない……! 私たちだけじゃない。この戦争を止めるために、立場を超えて動き出している人たちがいるの!」

 必死の訴え。先日のノクティスとの死闘で、ルナティックが自分を見逃したあの瞬間の違和感――あれは殺意ではなく、共鳴だったと信じたかった。

「お願い、グレイス! ノクティスを、あの悲しい瞳を止められるのは、貴女と私だけなの!」

 しばしの、重苦しい沈黙。それを破ったのは、グレイスの深い溜息のような、魔導素マナの揺らぎだった。

『……そこまで言うなら、好きにするといいわ。どうせ何も変わらない。それでも行くというのなら、その無垢な絶望を見届けてあげる』

「ありがとう、グレイス。私……頑張るね」

 アリアの決意を肯定するように、魔導核コアが一度、強く明滅めいめつした。


 翌朝、夜明け前の蒼い混沌の中。

 非戦闘員と負傷者を乗せた数台の車両が、ベースキャンプから排気煙を上げて出発した。薄闇に紛れ、国境を越える長い旅路。

 見送る戦闘員たちの中に、退避を命じられていたはずのミナとリュシアンが並んで立っていた。

「……残っちゃった」

 ミナが少し照れくさそうに、けれど揺るぎない瞳でアリアに微笑みかける。

「アリアが一番つらい場所に行くのに、私だけ安全なところで眠ってなんていられない。怖いけど……でも、誰よりも近くで応援させて」

 アリアはミナの無謀さを叱りたかったが、その真っ直ぐな愛情に、視界が熱くなるのを堪えきれなかった。

「アリア君。グレイス嬢は、納得してくれたかの?」

 リュシアンが白髭を撫でながら、静かに問いかける。

「はい。……やってみなさい、と言ってもらえました」

「そうか。それは重畳ちょうじょう。それにワシにはヴァルキュリアの行く末を見届ける義務があるでな。ミナ君と共に、ここでキミたちの帰還を待つとしよう」

「よし。……そろそろ俺たちも出るぞ、サーシャ。総員、後の判断は各自に任せる。……健闘を祈る!」

 イグナスの峻烈しゅんれつな号令。武装班が次々と車両に乗り込み、キャンプを後にする。その一挙手一投足を、闇に潜むガルド帝国の調査兵が冷徹に記録し、本国へと打電だでんした。


 一方、アルヴェリア王国軍基地。

 重苦しい静寂が支配する待機室に、ダリル、ソフィア、ヴォルフの三人が集まっていた。ダリルがリサの形見である端末を閉じ、二人を見渡す。

「……準備はいいな」

 その問いに、二人は言葉なく、けれど力強く頷いた。

「よし、行こう。……あいつらには、聞かなきゃならないことが山ほどあるんだ」

 三人は幽霊のように音もなく待機室を抜け出し、兵器庫へと向かう。守るべき軍法も、背負うべき階級も、今はもうない。ただ「真実」だけを求めて、彼らは最新鋭の魔導甲冑マナ・アーマーへと滑り込んだ。

 直後、システムが不正アクセスを検知し、耳をつんざくような警報音が基地中に鳴り響いた。

魔導甲冑マナ・アーマーを起動したわ! あとは時間との勝負ね、追っ手が来る前にぶっちぎるわよ!」

「ああ、全開で行かせてもらうぜ!」

 警報の赤光に照らされる中、三機の魔導甲冑マナ・アーマーは兵器庫のハッチを強引に開放し、夜の闇へと飛び出した。

 それは、誇り高き王国軍人としての最期であり、一人の人間としての、本当の戦いの始まりだった。

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