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第一話

 レジスタンス組織『灰の灯 -アッシュ・ランタン-』。そのベースキャンプ内の作戦会議室には、重苦しい熱気が立ち込めていた。

「――状況は佳境かきょうに入った。ガルドに潜入させている諜報員によれば、帝国側は既に我々の位置を捕捉ほそくしている。今は我々がどう動くか、網を張って様子を見ている段階だろうな」

 リーダーのイグナスが、地図上に並ぶ敵軍の駒を睨みながら告げ、レオンに視線を送り続きを任せた。

「アルヴェリア王国側は、内部の派閥争いが想定以上に激化している。軍として組織的に動く余裕はないはずだ。……ただ、俺の『知人』が、独自にこのベースキャンプを特定しようとしている」

 レオンが言葉を継ぐ。姉ルイーズから秘密裏に届けられた警告――ダリルたちの独断専行が、すぐそこまで迫っていることを彼は確信していた。

「……つーまーりー、ガルド帝国は私たちが動き出すのを待ってて、アルヴェリア側はそのタイミングで横槍を入れようとしてる、ってこと?」

 エマが不安げに身振り手振りを交え、現状を確認する。

「簡単に言えば、三つ巴の睨み合いだ。従って、敵が動き出す前に、非戦闘員と負傷者の退避を完了させたい」

 イグナスは椅子に深く座り直し、毅然とした態度で宣告した。

「リュシアン、エマ、……そしてミナ。お前たちは退避班と一緒に明日早朝、ここを離れろ。他に剣を取る意志のない者も同様だ。これは命令ではない。生き残るための権利だ」

「何言ってんだよ、イグナス。今さらビビって逃げ出すような奴は、この組織にはいねえよ」

 イグナスの言葉に、クライヴは鼻で笑った。

「そうだな。他の戦闘員も、そんななまっちょろい鍛え方はしてないよ」

 サーシャも軽く頷くと、クライヴの言葉を肯定こうていする。

「……そうか。ならば、明日早朝までに最終的な判断を仰ぐ。作戦開始はその後だ。俺からは以上だ」

 その言葉を合図に、集まっていた面々はそれぞれの持ち場へと散っていった。


 その後、アリアは独り、暗い格納庫でヴァルキュリアの足元に立ち尽くしていた。

 そびえ立つ白き機体。英雄とうたわれたグレイス・ヴァレンティアの「魂」を宿した檻が、無言で彼女を見下ろしている。

「グレイス……。ついに、すべてを終わらせる戦いが始まる。……貴女の気持ちは、まだ変わらない?」

 返る言葉はない。鉄とオイルの匂いだけが、重くアリアを包み込む。

「私は、この戦争を止めたい。もう大切な人がいなくなるのも、誰かが泣くのを見るのも、嫌なんだ。……これは私のわがままかもしれない。でも、私はもう、誰も傷つけたくないし、私も傷つきたくないの」

 アリアは胸の前で細い指を組み、静かに瞳を閉じた。

「貴女も、そうだったんじゃないの……? 英雄なんて呼ばれる前、本当は……ただ、大切な誰かを守りたかっただけじゃないの?」

 かつてグレイスが、孤児として、兵士として抱いていたかもしれない「祈り」。アリアは、自分の中に残る彼女の思念に、必死に語りかける。

「お願い、グレイス……。もう一度だけ、私に力を貸して。一緒に、この連鎖を止めよう」

 祈るようなその言葉が、静寂の底へ沈んでいった。

 その刹那。

 死んだように眠っていたヴァルキュリアの魔導核コアが、アリアの鼓動に呼応するように、一瞬だけ――眩い光を放ち、脈動した。

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