第八話
ダリルの心臓は、いまだに早鐘を打っていた。
ルイーズ総大将の突然の訪問。咄嗟に端末を隠したものの、彼女の鋭い眼光がそれを見逃したはずはない。
「……っ」
ダリルは震える指先で、リサの端末を握りしめた。今さら足掻いても始まらない。彼女が自分たちの叛意を見逃してくれたのだと、今は信じるしかなかった。
「おい、ダリル……顔色が最悪だぞ。大丈夫か?」
ヴォルフの分厚い手が、ダリルの肩を強く叩いた。その温もりに、ダリルは我に返る。
「ああ……すまない。時間がないんだ。急ぐぞ」
ダリルは再び椅子に座り、リサのアルゴリズムに最新のデータを流し込んでいく。
先日のガルド拠点襲撃の記録。そこに刻まれていたのは、ノクティスや黒曜三刃隊と渡り合うレジスタンス側のデータだった。
「……ノクティスとやり合ってるこの機体の動き、おそらくあの子たちね」
ソフィアが端末を覗き込み、確信に満ちた声で呟く。
入力される座標、交差する予測経路。やがて画面上に、確率 P \ge 98\% を示す一点が赤く点滅した。周囲には何もない、地図から忘れ去られたような空白地帯。
「ここだ。レジスタンスのベースキャンプは、この地点にある」
ダリルは端末を置き、背後に立つ二人の顔を交互に見つめた。その表情は、軍人としての「隊長」ではなく、生死を共にする「戦友」のものだった。
「俺は、準備ができ次第ここへ向かう。……ヴォルフ・エーデル、ソフィア・シュタイン。もう一度だけ聞く。本当についてくる気なのか? 一度この基地を離れれば、二度と戻ることはできない。反逆者として、追われることになるだろう」
神妙なダリルの問いに、二人は顔を見合わせ、同時に吹き出した。
「今さら何を言っているのよ。もう戻れないことくらい、とっくに承知の上で決めたことよ」
ソフィアがいたずらっぽく笑う。
「そうだぜ、ダリル。戻る場所なんてのは、自分で作るもんだろ」
二人の揺るぎない結論に、ダリルの強張っていた頬がようやく緩んだ。
「……まったく、お前たちというやつは。……わかった、一緒に行こう。ヴォルフ、ソフィア……準備を急げ!」
「了解だ。まぁ、俺には家族もいなけりゃ、仲間と言えばお前らくらいだ。アルヴェリアに置いていく未練なんて、微塵もねぇよ」
ヴォルフは太い腕を組み、不敵に笑う。
「私も。親兄弟はとっくにいないわ。この国に未練があるとしたら……城下町で有名だったあのケーキ屋さんに行けなかったことくらいかしら?」
ソフィアが冗談めかして言うと、待機室に束の間の明るい空気が流れた。
三人は互いに頷き合うと、決意をその胸に、ヘルマン・グレイスナー小隊の待機室を後にした。




