表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50/66

第七話

 赤い魔導甲冑マナ・アーマーによる苛烈かれつな砲撃。ガルド帝国の拠点が半壊し、黒煙が天を突いた絶好のタイミングで、レジスタンスの全回線に命令が飛んだ。

『――潮時だ。引き揚げろ、これ以上は無意味な被害が出るだけだ』

 遠方から双眼鏡で戦況を見守っていたイグナスの冷静な指示。それを合図に、赤い機体群が一斉に発煙弾を投射とうしゃした。辺りは瞬時に濃密な白煙に包まれ、風がその幕を押し流したとき、そこにはレジスタンスの影も形もなかった。

 後に残されたのは、無惨に壊された施設と、虚空を睨んで立ち尽くすガルドの魔導兵たちだけだった。


 一方、アルヴェリア王国の最前線基地。

 ルイーズ・ハルバード総大将は、冷え切った廊下を一人歩いていた。

 部下たちの離反、そして度重なる裏切り。本来ならば軍法会議ものの失態だが、レジスタンスの激しい攻勢を前に、王国上層部も今は現場の粛清しゅくせいどころではない。

 ルイーズはある部屋の前で足を止め、三度、硬い音を響かせてノックした。

「ルイーズ・ハルバードだ。入るぞ」

 そこは、ヘルマン小隊に宛てがわれた、かつての栄光とは程遠い狭い待機室だった。

 ダリル、ソフィア、ヴォルフ。三人はルイーズの姿を認めると、弾かれたように立ち上がり、一糸乱れぬ敬礼を捧げた。

「総大将……。俺たちの処分が決まったんですか?」

 ダリルが、手にしていた情報端末を背後に隠しながら問いかける。

「いや、様子を見に来ただけだ。……ヘルマンはどうした?」

「彼は……体調を崩したとのことで、自室に籠っています。ここ数日の心労が、限界を超えたのでしょう」

 ソフィアの答えに、ルイーズは小さく息をついた。元より現場を統率する器ではなかった男だ。崩壊する部隊の重圧に、精神が耐えきれなかったのだろう。

「そうか。……ダリル、あまり無茶はするなよ」

 ルイーズの鋭い視線が、一瞬だけ彼が隠した端末に向けられた。だが、彼女はそれ以上の言及をせず、きびすを返して部屋を去った。


 自身の執務室に戻り、扉を施錠したルイーズは、懐から携帯用の魔導通信機マナ・リンクを取り出した。

「私だ。……レオン。今確認してきたが、やはりダリルの奴、何かを企んでいる」

 ノイズ混じりの返答に、ルイーズの唇が僅かに綻ぶ。

「釘は刺しておいたが、あいつの事だ、納得がいくまで止まらんだろうな。……ああ、わかっている。あの子は嘘を吐くのが致命的に下手だからな。計画については、何も伝えていない」

 彼女の瞳に宿るのは、総大将としての冷徹さではなく、一人の姉としての慈愛だった。

「お前たちが派手に暴れてくれているおかげで、王国政府も私を監視する余裕を失っている。……あぁ、今のやり方に反感を抱く兵士は多い。……そろそろ、限界だな。こちらの話は通してある。私たちは、いつでも動けるぞ」

 通信機越しの弟と、静かに意思を通じ合わせる。

「……あぁ。終わらせよう、この無益な戦争を。王国そのものを、作り直すんだ」

 通信を切り、デスクに広げられた極秘の軍再編計画書をかき集める。鍵付きの引き出しにそれを納めたとき、ルイーズは小さく、祈るように呟いた。

「まさか、あの子が生きていてくれたなんてな……」

 計画は最終段階。あとは引き金を引くだけだ。

 冷徹な総大将の仮面の下で、ルイーズは弟が生きているという奇跡に、震えるほどの安堵あんどを覚えていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ