第五話
『黒曜三刃隊』のマルセラは、正面から迫る真紅の魔導甲冑の群れに、激しい苛立ちを募らせていた。
『灰の灯 -アッシュ・ランタン-』――彼らはいつも、帝国の拠点を適度にかき乱すと、損害が広がる前に霧のように撤退していく。その執拗で計算高い戦術が、誇り高い彼女の神経を逆撫でしていた。
「チョロチョロと……いい加減に、消え失せなッ!!」
マルセラは先頭を走るレオン機へと斬りかかった。魔導盾で受け止められ、激しい火花と魔導素の残滓が舞う。彼女はそのまま剣を強く押し込み、咆哮した。
「今日こそ、その安いブリキの機体ごと灰にしてやるよ!」
だが、レジスタンス側も以前のような「逃げ」の一手ではない。
一機の赤い魔導甲冑が、弾丸のような速さでガルマの機体へと肉薄し、その動きを力強く封じ込めた。
「うおぉ!? や、やるじゃねえか!」
ガルマは魔導盾を突き出し、強引に相手を弾き飛ばすと、即座に魔導銃を連射する。
その光弾の雨を、カイルは極限の回避機動で潜り抜けた。サーシャとの猛特訓が、彼の操縦に確かな「芯」を通していた。
激闘の渦中で、ルナティックだけは静かに、獲物の一機を見つめている。
大気中に漂う魔導素の波形でわかる。あの標準機に乗っているのは、ヴァルキュリアのパイロットだ。
「あの子……あちら側に行ってから、ヴァルキュリアには乗ってないんだね」
ルナティックはノクティスを地上へ着地させた。灰の降り積もる大地を、漆黒の脚部が踏みしめる。
「その通常の機体で、私に追いつけるかな?」
ブーストが爆発的な唸りを上げ、ノクティスがアリアの視界から消えた。
次の瞬間、真横から迫る黒い一閃。アリアは悲鳴を上げる機体を無理やりねじ伏せ、魔導盾でその斬撃を「受け流し」た。真っ向から受ければ砕かれる――今の機体の限界を理解した、冷静な対処だった。
「……魔導核の出力は低い。なのに、あの子自身の動きが格段に鋭くなってる」
ルナティックの追撃。アリアはそれを剣で受け止め、両機は火花を散らしながら激しい鍔迫り合いに陥った。
以前のようなグレイスの「声」による導きではない。アリア自身の反射神経と、必死の覚悟が、最強の魔導戦装を押し留めていた。
「チッ、踊らされてんのはこっちかよ……」
遥か高台から狙撃銃を構えていたリュカが、苦々しく呟いた。
引き金を引く直前、狙い澄まされた一撃が彼の頭部センサーを掠めたのだ。弾道を手繰り、スコープの先に捉えたのは、同じく高台に陣取る狙撃仕様の赤い機体。
「チッ……またお前との狙撃合戦かよ」
リュカは冷めた瞳でスコープを覗き直し、再び指を引き金にかけた。
守るべき基地を背に、黒き精鋭たちは一歩も引かず、迫り来る「灰の灯 -アッシュ・ランタン-」を迎え撃つ。




