第四話
ノクティスの随伴機として初陣を飾ったノアとアンドリューだったが、彼らに「連携」という言葉は存在しなかった。それぞれが己の獲物を定め、一対一の死闘へと没頭していく。
「魔導拳……珍しい武装だな。……おい、まさか。数年前に失踪した教官じゃないだろうな……」
「二刀流の機体か……。一人心当たりがあるんだが、戦死したってきいてんだけどな」
アンドリューの呟きに、ノアが通信越しに同意する。ガルド帝国軍人であれば、その戦歴を知らぬ者はいない「亡霊」たち。
その直後、魔導拳を構えた赤い魔導甲冑が、脚部のブーストを爆発させてアンドリューの懐へ潜り込んだ。さらに腕部のブーストが咆哮を上げ、右拳が真空を切り裂く。
「っ……!?」
アンドリューは反射的に大剣の腹で防御したが、衝撃波がコックピットを揺らす。続けざまの振り下ろしを辛うじて躱し、反撃の大剣を叩きつけるが、相手はその刃を左拳の装甲で平然と弾き返した。
「……あり得ないだろ。ダルいなんてレベルじゃなんだが……」
精密なまでの無駄のない動き。どれほど攻撃を重ねても、まるで「手本」を見せられているかのようにいなされる。
何よりアンドリューを苛立たせたのは、相手の攻撃に一点の殺気もこもっていないことだった。
「俺程度、本気を出すまでもないってことかよ。……ふざけやがって」
レジスタンスは不殺を貫くという。だが、精鋭を自負するアンドリューにとって、それは慈悲ではなく屈辱でしかなかった。倦怠感を殺意が塗り潰し、彼は初めて「本気で殺す」ために大剣を握り直した。
一方、ノアは先手必勝とばかりに二丁の魔導銃を連射し、火線を網のように張り巡らせていた。
だが、その弾丸の嵐を、二振りの魔導剣で鮮やかに弾き落としながら、赤い二刀流が肉薄してくる。
「マジで、あの『ガルシア大佐』なのか!? あんな戦闘狂とやり合うなんて、冗談じゃねえぞ!」
クライヴ・ガルシア。戦場を愛し、戦うことにのみ悦楽を見出す変人として、帝国の魔導兵たちに畏怖された男。公式には戦死とされていたその「怪物」が、今、目の前で笑っている気がした。
「くそっ、これだけ叩き込んでるのになんで当たらねえんだよ!」
ノアは引き金を引き続けるが、相手は最小限の機動でそれを躱し、いつの間にか至近距離に立っている。その度にブーストで距離を置くが、逃げ場は刻一刻と失われていく。
銃身で斬撃を辛うじて逸らすたび、フレームが悲鳴を上げる。
ノアの背筋を冷たい汗が伝った。相手の切先から伝わってくるのは、「いつでもお前を殺せる」という圧倒的な実力差。
「遊んでんじゃねえよ……。俺を、舐めるなッ!!」
手加減という名の絶望に、ノアの余裕は完全に消え失せた。




