第二話
第二話
リサがこの世を去ってから、数ヶ月。
ヘルマン・グレイスナー小隊に新たに割り振られた待機室は、以前の半分にも満たない狭さだった。窓はなく、中央に置かれた無機質な机が一つ。かつての賑わいを知る者にとって、その静寂は耳を劈くほどに重かった。
ダリルは軋む椅子に腰を下ろすと、手に持っていた端末を起動させた。
「……ダリルさん。それ、リサの……?」
ソフィアが、その特徴的なカラーリングを見て息を呑む。本来、裏切り者の私物は政府の検閲部隊が即座に押収するはずのものだ。
「おい、ダリル。それはマズいんじゃないのか。反逆者の物なんて、持ってるだけで首が飛ぶぞ」
ヴォルフが眉間に皺を寄せ、嫌悪と不安の入り混じった視線を投げかける。
「独断で回収した。政府の能無し共に任せていたら、レジスタンスの尻尾を掴むまでにあと数年はかかるからな。……だが、場所の特定に必要なデータが、あと一歩足りない」
ダリルはリサが残した独自の解析アルゴリズムをなぞりながら答えた。それは重大な軍規違反だが、今の彼に迷いはない。
「最近のレジスタンスの出現地点と頻度……。この数値をあと数件入力すれば、リサが予測していた『真実』に辿り着けるはずだ」
「な、何てことをしているのであるか! 私、私は一切関知していないのである!!」
部屋の隅で脂汗をかいていたヘルマンが、裏返った声で叫んだ。ダリルは画面から目を離さず、冷徹に言い放つ。
「ヘルマン隊長。部下の不始末は、上司であるあんたの責任だ。……余計な密告をすれば、あんたも道連れだということを忘れるな」
その言葉に、ヘルマンは金魚のように口をパクつかせ、沈黙するしかなかった。
「ガルド軍の攻勢に加え、レジスタンスの妨害も激化している。上層部も混乱の極みにあるようで、幸い、俺たちの処分は保留中だ」
ダリルは端末を机に置き、腕を組んで二人の顔を見据えた。
「俺はこのまま拠点を突き止め、独断で叩きに行くつもりだ。……言っておくが、これは俺の個人的な暴走だ。お前たちが付き合う義理はない」
「……何言ってやがる。やられっぱなしで終わるなんて、俺の性が許さねぇんだよ」
ヴォルフが拳を握り、鼻を鳴らす。
「二人が行くなら、私も行くわ。……離れ離れになったみんなに、ちゃんと会って話を聞きたいもの。私たちはまだ、チームですものね」
ソフィアが優しく、けれど揺るぎない決意で微笑んだ。
ヘルマンは、そんな三人から目を逸らすように、震える手で空になったコーヒーカップを握りしめていた。




