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第六話

 ヘルマン・グレイスナー小隊の待機室は、一瞬にして戦場へと変貌していた。憲兵けんぺい達の構える対人用の魔導銃マナ・ガンの銃口が、一斉にリサ・フェルナーへと向けられる。

「リサ・フェルナー!これはどういうことであるか!?説明したまえ!!」

 部屋の隅で震えていたヘルマンが、責任転嫁の機会をのがさじとばかりに飛び出してきた。リサは机の上に置いた情報端末を見つめたまま、微動だにしない。

「スパイなんて……何かの間違いよね?ねえ、リサ、嘘だと言ってよ……」

 ソフィアがすがるような声を上げるが、リサは答えなかった。

「証拠は既に固まっている。往生際おうじょうぎわあやまるな」

 憲兵隊の隊長が、冷徹な足取りでリサとの距離を詰めていく。ダリルが制止しようと口を開きかけた、その瞬間だった。

 ――リサが、爆発的な速度で動いた。

 データ担当とは思えぬ鮮やかな体術で隊長の腕を制し、その手から魔導銃マナ・ガンを奪い取る。流れるような動作で背後へ回り込むと、隊長の首を腕で絞め上げ、その側頭部に銃口を突きつけた。

「……うまくやれてたと思ったんだけどな。やっぱり、本職プロあざむき通すのは無理があったか」

 リサの声は、いつもの軽快けいかいさを失い、底冷そこびえするほどに落ち着いていた。

「リサ・フェルナー、落ち着け!その男を放すんだ!」

 ダリルが刺激しないよう慎重に間を詰めようとするが、リサは容赦ようしゃなく銃口で隊長の頭をつつく。

「余計な真似をしたら、こいつの脳髄のうずいをブチ撒けるよ!……動かないで」

「止めて、リサ……どうして……。何か困っているなら、私たちに相談してくれればよかったじゃない!」

 ソフィアの悲痛な叫びに、リサの顔が初めて歪んだ。それは、憎悪と悲しみが混ざり合った、鬼のような形相ぎょうそうだった。

「相談?あんたたちに相談して、腹が膨れるっていうの!?この無益むえきな戦争のせいで、外は地獄だよ!物価は跳ね上がり、仕事はない。仕事がないからお金がない!お金がないから、寝たきりの母は病院へ連れていけないし、腹を空かせた弟や妹に食べさせるパンすら買えない!!」

 リサの咆哮ほうこうが、狭い待機室に響き渡る。

「戦場に出るか、国を売るかしか道がないんだ!飯も、薬も、希望も……ない、ない、ない!何一つない!なら、稼げるときに稼いで何が悪い!?国が私たちをないがしろにしてんだ、そんな国を売って何が悪いって言うんだよ!!」

 叫び終えたリサの肩が、激しく上下する。

 静まり返った室内。誰もが、彼女が背負っていた暗闇の深さに言葉を失っていた。

 ふっと、リサの表情からけんが抜けた。どこか遠くを見るような、穏やかな笑みが浮かぶ。

「……でも、いいや。母さんはもう長くないだろうし、弟や妹は……施設が拾ってくれるかな。……まぁ、あんたたちと一緒にいた時間はさ……それなりに楽しかったよ。それは本当なんだ」

 その言葉が、最期の別れだと気づくのが一瞬遅れた。

 リサは微笑んだまま、銃口を自らのこめかみへと向けた。

「あ――」

 ダリルが手を伸ばすよりも早く、魔導銃マナ・ガンの引き金が引かれた。

 乾いた音と共に、白かった待機室の壁が、無慈悲にも赤く塗り潰された。

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