第五話
アルヴェリア王国、最深部の作戦会議室。
重厚な円卓を囲む重要人物たちの顔は、一様に石像のように強張っていた。
ヘレナ・スターリング国防政策局長が、手元の端末に映る「成果」を冷淡な眼差しで眺め、沈黙を破った。
「本日、王国軍の機密情報をガルド帝国へ流していた内通者の特定に成功いたしました。現在、憲兵隊の実行部隊が身柄の確保に動いています」
その報告に室内が波立ち、進行役が慌てて静粛を促す。
「……まさか、魔導兵部隊の直属に紛れ込んでいようとは。私の監督不行き届きだ」
ルイーズ・ハルバードが苦虫を噛み潰したように眉間を寄せ、端末に送られた情報を凝視した。
ホログラムとして浮かび上がったのは、見慣れた眼鏡の女性――リサ・フェルナーの顔写真と詳細なプロファイルだった。
「ハルバード総大将、今は悔いている時間などございません。速やかに事態を収拾した後、貴女の管理責任についても検討させていただきます」
ヘレナの言葉には、政敵を追い詰める冷たい愉悦が混じっていた。
「父親は戦没。母親は重度の魔導欠乏症により寝たきり……弟が二人、妹が一人の五人家族。生活は困窮。……なるほど、帝国が付け入る隙はいくらでもあったというわけか」
リサの家庭環境を淡々と読み上げるルイーズの声は、どこか虚しく空気に消えていった。
一方、軍本部の待機室では、ヘルマン小隊の面々が重苦しい空気の中で方針を話し合っていた。
英雄機ヴァルキュリアを奪われ、部下であるアリア、カイル、アーヴァインに離反を許した。その責任を追及され続けたヘルマンは、今や部屋の隅で脂汗をかきながら縮こまっている。
「ヴァルキュリアだけでも奪い返さねば……私の地位が、首が危ないのである……」
「わかっている。だが、奴らの拠点を割り出せなければ、どこへ撃って出ればいいかも分からん」
苛立ちを隠せないダリルが吐き捨てた。ヴォルフやソフィアも、かつての仲間を追わねばならない現実に沈痛な面持ちで座っている。
そんな中、唯一リサだけが周囲の重圧を撥ね退けるように、猛烈な勢いで情報端末を叩いていた。
「ちょっと待っててよ。今、ヴァルキュリアの消失点と、各地で報告されてるレジスタンスの活動範囲を照合してるんだから! これで拠点の位置を割り出してやるわよ」
最近活動を活発化させている「灰の灯 -アッシュ・ランタン-」は、両軍の兵を可能な限り殺さず、機体のみを戦闘不能にするという奇妙な戦術を徹底していた。それは結果として、王国と帝国の双方に「修繕コストと人的資源の浪費」という甚大な損失を与え続けていた。
「……すまない。頼んだぞ、リサ」
ダリルがその献身に感謝を告げた、その時だった。
待機室の扉が、耳を劈くような音を立てて蹴破られた。
「リサ・フェルナー! ガルド帝国への通敵およびスパイ容疑で捕縛する!!」
なだれ込んできたのは、対人用の魔導銃を構えた数名の憲兵たちだった。
「――え?」
驚きに目を見開くリサに向けて、憲兵達の銃口が向けられる。




