第三話
ガルド帝国の最深部、静まり返った格納室。
ルナティックは、修復を受けるノクティスを独り見上げていた。ヴァルキュリアとの激突で、機体も、そして彼女に埋め込まれた魔導核も、消耗して熱を帯びたため、冷却中なのだ。
「アリア・フィオル……。あの子の魂は、何処へ向かっているというの?」
誰もいない薄暗い空間に、少女の掠れた呟きが溶けていく。
家族。友達。仲間。……物心つく前に実験体として選別され、冷たい水槽の中でうずくまっていた彼女に優しく話しかける者などいなかった。唯一の例外は、彼女を「傑作」と呼び、観察し続けた最高責任者――ドクター・ハーヴェイだけだ。
ルナティックにとって、未来とは「破壊」でしかなかった。
何かを望む心は、度重なる精神調整の果てに削り取られたはずだった。だというのに、胸の奥にこびりついた「違和感」が消えない。
「私の先には……何もない」
俯きながら吐き出した言葉は、暗闇に吸い込まれて消える。
広げた両手を、ルナティックはじっと見つめた。魔導素の残滓を通して知った、アリアの記憶にある温もり。この手で、破壊以外の何ができるのか。考えても、空っぽの頭には数式と殺戮のパターンしか浮かばなかった。
「……私はルナティック・ノクターン。魔導戦装ノクティス・フレームのパイロット」
自分に言い聞かせるようにコードネームを口にし、思考を強制的に遮断する。
「あなたも、私と同じだね」
感情を殺し、再び冷徹な「部品」としてノクティスを見上げた――その時だった。
重厚な扉が開き、不躾な光と共に『黒曜三刃隊』の三人が足を踏み入れてきた。
「ちょっとあんた、こんな掃き溜めみたいな場所で何をしてるんだい?」
マルセラが呆れたように言いながら、壁のスイッチを叩いた。
突如として曝け出された眩い照明に、ルナティックは目を細め、不快そうに視線を逸らす。
「ノクティスを見ていただけ。……貴女たちには、関係のないこと」
「関係ない、ねぇ。残念ながら、私たちはあんたの『世話係』を仰せつかってるんだよ。この前みたいに勝手に無茶をされて、傑作機を壊されちゃ私たちが責任を取らされるんだ」
マルセラの言葉に、背後の二人も同調する。
「ドクター・ハーヴェイがお呼びだよ、ルナ。……僕たちと一緒に研究室まで行こう」
リュカが、ルナティックに哀れむような視線を向ける。
「また俺たちに、面倒事を押し付けようって魂胆か。少しはこっちの身にもなってもらいたいもんだな」
ガルマが深いため息をつき、首を鳴らす。
「仕方ないさ、ドクターは政府のお気に入りなんだ。ほら、行くよ!!」
マルセラを先頭に、ガルマ、リュカが続く。
ルナティックは最後にもう一度だけ、闇の中に佇むノクティスを振り返り、音もなくその後に続いた。
主を失った格納室には、ただ修理機械の虚しい駆動音だけが響き続けていた。




