第一話
レジスタンス組織『灰の灯 -アッシュ・ランタン-』のベースキャンプ。
砂塵を上げて到着した輸送車両を待っていたのは、大きく手を振り、声を枯らして名前を呼ぶミナの姿だった。
アリアとカイルがヴァルキュリアから降りるなり、三人は互いに駆け寄り、言葉にならない感情をぶつけ合うように抱き合った。
「よかった……! 二人とも、本当によく無事で……っ!」
ミナの明るい、けれど涙で濡れた声が響く。アリアはふらつく足取りで、親友の肩に頭を預けた。
「ミナ……よかった、ミナも無事で」
感動が去った後、押し寄せてきたのは凄まじい疲労感だった。張り詰めていた精神の糸が、信頼できる温もりに触れて、ようやく緩んでいく。
「やっぱアリアはすげぇよ……。あのノクティスとかいうやつ……俺たちなんて、まったく追い付けなかったぜ」
カイルが誇らしげに、けれどどこか切なげに呟き、崩れそうなアリアの体を横から支えた。
そこへ、重厚な足音が近づいてくる。
「――よぉ。久しぶりだな、お前ら」
三人が顔を上げた先に立っていたのは、死んだと聞かされていた男――レオン・ハルバートだった。
眼帯で覆われた右目、そして空っぽになった右袖。変わり果てた、けれど紛れもないかつての隊長の姿に、三人は息を呑んだ。
「レオン隊長……その、体……」
カイルの遠慮がちな問いに、レオンは自嘲気味な笑みを浮かべた。
「とりあえず中に入れ。積もる話は、それからだ」
レオンに導かれ足を踏み入れた作戦本部は、精密機械の駆動音と熱気に包まれていた。最奥で待ち構えていたのは、一癖も二癖もありそうな精鋭たちだ。
「ようこそ。俺がリーダーのイグナス・クロウだ。元アルヴェリア軍所属だが……今は見ての通り、この『亡霊たちの家』の家主をやっている」
筋肉質の巨躯を揺らし、イグナスが低く響く声で言った。
「ワシはリュシアン・フェル。かつては王国の研究所で、魔導核の基礎理論を捏ねくり回しておったよ」
初老の男が白い髭を撫で、知性的な瞳でアリアを見つめる。
「エマ・シルヴァ。元はガルド帝国の医療班。怪我したら、いつでも診てあげるよ」
ポニーテールの女性が、レオンの失われた腕を気遣うような視線で微笑んだ。
「僕はアーヴァイン・カスティア。お二人とは同じチームで活動していたので、僕の紹介はこのくらいでいいですよね」
いつもの貼り付けたような微笑み。けれどその瞳には、今や隠しきれないプロの鋭さが宿っている。
「自己紹介なんて時間の無駄だ……と言いたいところだが仕方ねぇな。俺はクライヴ・ガルシア、戦闘担当。よろしくな」
「私が最後かな。サーシャ・ヴェイル。元ガルドの兵士だ。ここでは戦闘部隊を率いている」
一通りの紹介を終えると、レオンは重々しく口を開いた。
「……灰翼中隊のことは聞いている。よく生き残ってくれた。俺の方は見ての通りだ。魔導核が『意図的に』暴走させられ、死にかけた。右腕と右目、それが真実に近づこうとした代償だ」
「政府が……仕組んだ? どうして……そんなこと!」
アリアの声が震える。レオンに詰め寄ろうとする彼女を、カイルとミナが静かに制した。
「俺が調べたことを、今からすべて話そう。特にアリア、お前には知る権利……いや、知る義務がある」
レオンは机の上に、使い古された紙の束を広げた。
一番上に置かれた資料。そこには一人の女性の顔写真と、アリアの脳裏に焼き付いているその名が記されていた。
その女性の名は『グレイス・ヴァレンティア』――英雄と呼ばれた女性だった。




