第八話
アーヴァインの狙撃が止むと同時に、二機の赤い影が立ち塞がった。
深紅の装甲に、不気味に脈動する緑色の魔導核。一機は盾と剣を構えた堅実な構え、もう一機は二振りの魔導剣を両手に持った変則的な構え。
「油断するなよ、リサ・フェルナー。奴らの機動……ただの暴徒じゃない。相当な『使い手』だ」
ダリルの警告と同時に、盾を持つ赤機が爆発的な踏み込みを見せた。
ダリルは反射的に魔導盾を展開し、その重い一撃を受け止める。至近距離から魔導銃を脚部へ向けて放つが、相手は最小限の動作でそれを回避し、すぐさまカウンターの刺突を繰り出してきた。
「なんなのよ、こいつら……っ!?」
隣では、リサが二刀流の敵機に翻弄されていた。放たれる魔導素の弾丸を、赤い機体は二振りの剣で鮮やかに叩き落とし、狂気じみた速度で距離を詰めてくる。
一方、ダリルは目前の機体と刃を交えながら、言いようのない戦慄を覚えていた。
鋭い刺突。盾による重厚な押し込み。そして、回避の際に僅かに機体を沈める独特の癖。
遠い記憶。かつて共に泥にまみれ、背中を預け、最強の連携を誇った男の輪郭が、目の前の「敵」と重なっていく。
(……いや、まさか。あいつは死んだはずだ)
否定しようとしても、心臓がその「答え」に跳ねる。
遺体すら見つからなかった、灰翼の隊長。
「……本当にお前なのか。レオン、なのか……ッ!?」
ダリルは祈るような、あるいは絶望を拒むような叫びとともに、親友の名を口にした。
激しい火花を散らしながら、レオンは片目と片腕での操縦に歯を食いしばっていた。通信機越しに、隣で暴れるクライヴへと低く命じる。
『分かってるな、クライヴ。リーダーの命令だ。……殺すなよ』
『分かってるっつーの! ――そんじゃあ手足切り落として、ダルマにしてやるよ!!』
クライヴの魔導甲冑が、獣のごとき咆哮とともにリサの機体へ肉薄した。
閃光のような二撃。リサが悲鳴を上げる間もなく、彼女の機体の左腕と右脚が、熱線によって鮮やかに切断された。そして返す刃で右腕と左脚も切り落とす。
「こっちは片付いたぜ! 次はその「隊長さん」だな!」
クライヴが獲物を変えて跳躍した瞬間、アーヴァインからの冷徹な通信が割り込んだ。
『――ヴァルキュリアの収容、完了しました。長居は無用です。さっさとケリを付けて帰還してください』
その報告と同時だった。
ダリルの機体の頭部が、精密な狙撃によって粉砕された。
戦場を把握する「眼」を奪われ、ダリルの機体はその場に膝をつく。
「……悪いな、ダリル。俺たちには、やらなきゃならないことがあるんだ」
沈黙したかつての戦友へ、レオンは届かぬ言葉を遺した。
赤き二機は、ヴァルキュリアを載せた輸送車両を追うようにして、夕闇の中へと消えていく。
残されたのは、ボロボロになった特務小隊の残骸だけだった。




