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第六話

 カイルの声が、そして彼の捨て身の行動が、アリアの意識を孤独の淵から引き揚げた。脳裏に浮かぶのは、自分を待つミナの笑顔。自分がいなくなれば、悲しむ人がいる。その当たり前の、けれど何よりも尊い事実が、アリアの心に火を灯した。

「私は……もう、逃げたくないッ!!」

 自分を奮い立たせるように叫ぶと、ヴァルキュリアが爆発的な機動を見せた。迷いを断ち切ったアリアの一撃は、かつてない鋭さでノクティスへと肉薄する。

「もう……許さないからッ!!」

 白と黒、対の魔導戦装マナ・コンバット・ギアが激突し、火花と共に凄まじい量の残滓ざんしが灰となって舞い散る。

 その灰がノクティスの金色の魔導核コアに触れた瞬間、コックピットの中でルナティックは驚愕に目を見開いた。

『――匂いが、変わった?』

 これまでの恐怖は消え、ただ「守る」ための純粋な熱量が残滓ざんしを通じて伝わってくる。

「何かが変わったね、檻の中の少女。……でも、君も私も、檻に囚われていることに変わりはないよ」

 ルナティックは無機質な声で呟き、ヴァルキュリアの攻撃をいなしながら反撃の剣を振るう。

 再び舞い上がる灰。それが互いの魔導核コアに触れるたび、言葉にならない思念が、濁流だくりゅうとなってルナティックの脳内に流れ込んだ。

『――お兄ちゃん。私、もう誰も失いたくないよ……』

 それは、アリアの心の奥底に眠る痛切な祈り。

「檻の中の少女……君は、何を求めているの?」

 帝国の道具として育てられたルナティックには、家族の記憶も、友人の温もりも存在しない。

 だが今、灰を通じて伝わってくるのは、彼女が知るはずのない「色」のある世界。

 食卓を囲む家族の体温。仲間と交わした他愛のない冗談。親友と繋いだ手の温かさ。そのすべてが、彼女の枯れ果てた心にとって、未知の衝撃として突き刺さる。

「この記憶……よく分からない……私には……」

 激しい戦闘は数時間にも及ぶかと思われたが、ついに限界が訪れた。両機の魔導核コアが激しく点滅し、パイロットの魔導素マナが枯渇寸前であることを告げる。

 ノクティスはヴァルキュリアを蹴り飛ばして距離を取ると、金色こんじきの翼を広げて上空へと舞い上がった。そして、機体の拡声器スピーカーから発せられた少女の声が、静まり返った戦場に響き渡る。

「またね、檻の中の少女。……私の名は、ルナティック・ノクターン。魔導戦装マナ・コンバット・ギアノクティス・フレームのパイロット……」

 その名は、アリアだけでなく、ダリルや他の兵士たちの耳にも深く刻まれた。

 ノクティスはどこにそんな余力を残していたのか、黄金の残光ざんこうきながら、彼方かなたへと消え去った。

 同時に、ヴァルキュリアも完全に機能を停止し、力なく地面に膝をつく。

 その時、虚脱感が支配する戦場に立ち尽くすカイルの個人回線に、ノイズ混じりの通信が入った。

『――カイルさん。聞こえますか?』

 聞き覚えのある、冷徹なまでに落ち着いた声。

『そのままヴァルキュリアを担いで、指定のポイントまで来てください。……今から離反作戦を決行します。遅れないでくださいね』

 送信されてきた座標。

 カイルは戸惑いながらも、沈黙したヴァルキュリアを力強く担ぎ上げると、夕闇の向こうへと駆け出した。

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