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第四話

 ミナは、自分の心臓の音が部屋中に響いているのではないかと思うほど緊張していた。アリアとカイルを自室へ呼び入れたものの、どこから切り出すべきか、言葉が喉の奥でつかえて離れない。

「ミナ、大事な話ってなに……?」

 不審な様子を察したアリアが、不安げに小首を傾げる。

「俺まで呼び止めるなんて、よっぽどのことなんだな。……一体、何があった?」

 カイルの瞳にも警戒けいかいの色が混じる。ミナは震える膝を叩き、意を決して顔を上げた。

「……驚かないで聞いてほしいの。ううん、驚いてもいいけど……お願い、叫ばないで。静かに、驚いて」

 二人は当惑とうわくしながらも、ミナの必死な形相ぎょうそう気圧けおされ、ただ静かにうなずいた。

「この前、知らない周波数から通信があったの。……相手は、レオンさんだった」

 一瞬、部屋の時間が止まった。

 二人は目を見開き、反射的に漏れそうになった叫びを両手で塞いだ。その顔は驚愕きょうがくに染まる。

「私も、信じられなかった。でも、あれは間違いなくレオンさんの声だったよ。爆発で大怪我をして、ずっと意識が戻らなかったんだって……連絡できなかったのは、色んな理由があったみたい」

「理由って……?」

 アリアが、掠れた声で囁くように問う。

「レオンさんは今、レジスタンスにかくまわれてる。……そしてね、ここからが本当の本題。……私たちに、軍を抜けてこっちへ来いって言ってるの」

 その言葉の意味を理解するまでに、数秒の空白があった。アルヴェリア王国への反逆――それは、死罪すら免れない重罪だ。

「お前、自分が何を言ってるか分かってるのか!?」

 カイルの声が思わず跳ね上がる。アリアとミナが咄嗟とっさに彼の口をふさぎ、周囲を伺った。

「わ、わかってるよ!でも……このままここにいたら、アリアが壊れちゃう!いつ私たちまで『コスト』として使い潰されるか分からないんだよ!」

 ミナの悲痛な叫びに、カイルは力を抜いた。王国への信頼は、度重なる激戦と非情な采配によって、既にボロボロになっていた。

「……確かに、否定はできないな。この国が俺たちを人間扱いしてないことくらい、分かってる」

「でも、私……戦わないと。それに、きっと……ヴァルキュリアが、グレイスが許してくれない」

 アリアが、自らの胸元を苦しげに押さえた。

「あの時……飛行ユニットを撃たれた時。グレイスは、私じゃ、あの魔導戦装マナ・コンバット・ギアに勝てないと判断して、ヴァルキュリアを沈黙させたの。そうすれば、他の人がどうにかするって判断したみたい。私自身の意志なんて、関係なく……」

「ダメだよアリア!そんなの、もう人間じゃなくてただの部品じゃない!」

 ミナはアリアの肩を強く掴み、その瞳を真っ直ぐに見据えた。

「教えて、アリア。……あなたは、本当に戦いたいの?」

 カイルもまた、祈るような眼差しでアリアの答えを待った。

「アリア。このままじゃ、戦争が終わる前にお前の心の方が消えちまう。俺は、ミナの案に乗る。……軍を抜ける。お前がどうしたいか、聞かせてくれ」

 アリアは長く、深い逡巡しゅんじゅんの果てに、震える唇を開いた。

「……わかった。私、本当はもう嫌なの。戦いたくない……。起きてる時も、夢の中でも、ずっとグレイスが耳元で囁くの。『戦え、戦え』って。……もう、耐えられない」

 ヴァルキュリアに乗るたびに加速する精神の侵食しんしょく。英雄という名の呪縛。アリアは毎日、逃げ場のない夢から飛び起き、一人で恐怖に震えていたのだ。

「次の任務で、私たちが脱出するための車両を用意してくれるって。……絶対に、三人で逃げよう」

「ああ、わかった。……うまくやろうぜ、三人で」

 交わされた密やかな決意。

 三人は運命に抗うことを誓い合い、不穏な静寂が支配する廊下へと消えていった。

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