第三話
通信機を置いたレオンは、薄暗い部屋に集まった面々へと向き直った。彼の右目には黒い眼帯が当てられ、顔の半分には消えない傷跡が刻まれている。
「……というわけだ。イグナス、車両の準備と輸送の援護、それからミナの収容を頼みたい」
腕組みをして会話を黙って聞いていた男――「灰の灯 - アッシュ・ランタン -」のリーダー、イグナスが低く唸るような声で応じた。
「任せろ。リュシアン、魔導甲冑の稼働状況はどうだ?」
リュシアンと呼ばれた初老の男は、長く白い髭を弄りながら、モニターに映るボロボロの機体データを眺めた。
「万全と言えるのは二機じゃな。他は修理中で、とても実戦には出せんよ」
「十分だ。クライヴ、そしてレオン。お前たちが乗れ」
指名された黒髪の青年、クライヴが獲物を見つけた獣のような笑みを浮かべた。
「オーケー。久々に派手に暴れてやるよ!」
好戦的なクライヴとは対照的に、レオンは言い知れぬ葛藤を顔に滲ませた。
「待ってくれ、イグナス。俺はまだ本調子じゃない。爆発のせいでこの様だ……サーシャの方が適任だろう」
レオンは無意識に、右肩から先が失われた空っぽの袖口を掴もうとして――空を掴んだ。右目だけでなく、あの「暴走」は彼の右腕をも奪い去っていたのだ。
「私は、リーダーの指示に従うだけだ」
金髪の女性、サーシャが肩で切り揃えた髪を揺らし、感情の読み取れない瞳でイグナスを見つめる。
「これは戦争を仕掛けに行くんじゃない。救出作戦だ。アリアたちだって、見知らぬ他人が来るより、お前がいた方が安心するだろう。……サーシャはミナを迎えに、アルヴェリアの本部へ潜入しろ」
イグナスの決定は絶対だった。一度口にすれば、二度と撤回されることはない。
「……分かったよ、リーダー」
レオンが苦く承諾すると、長い茶髪をポニーテールにした女性、エマが宥めるように肩を叩いた。
「まぁまぁ。何かあってもクライヴがいるし、向こうで『アイツ』も合流するんだから、大丈夫だって」
「おい、クライヴ」
イグナスが、危うい熱を瞳に宿した青年に釘を刺した。
「こっちは戦争を吹っ掛けに行くわけじゃない。いいか、くれぐれもやりすぎるなよ」
「分かってるって……殺さなきゃいいんだろ?」
どこまで理解しているのか怪しい返事だったが、イグナスは溜息とともに言葉を飲み込んだ。
「よし。車両と二機の魔導甲冑、即座に動かせるよう調整しておこう」
最年長のリュシアンが話を締め括るように告げると、重苦しい空気がようやく解けた。
「エマ、アイツにも知らせておけ」
「りょーかい。次の定期連絡で伝えておくよ」
エマの返答を合図に、一人、また一人と自室へ戻っていく。
一人残されたレオンは、残された左手で眼帯に触れた。




