48武田のくノ一(戦国、カケルのターン)チェック済み
木陰がキラッと光った。
カケルを力強く持ち上げた大膳が、何かに力を奪われたように、ヘナヘナヘナとカケルもろとも膝から崩れ落ちた。
降ろされたカケルは何が起こったか分からず、突然、足元に崩れ落ち「グガ~ッ、グガ~ツ」と、大いびきをかきはじめた大膳とその場に残されキョトンとしている。
すると、木陰から、ニタ~っと、吹き矢の筒を握った、前歯の抜けた親爺が顔を出した。
「アッ! 鳶加藤さん!!」
「へへへ、左近の旦那お久しぶりです」
猪突猛進、菅沼大膳を吹き矢一息。眠り薬を仕込んだ針であっさり止めた武田忍、鳶加藤はニタニタとカケルへ肩をぶつけた。
「聞きましたぜ左近の旦那、作手亀山の里のお内儀様から城への抜け道の絵図面を手に入れなすったそうで」
「鳶加藤さんは早耳だね。とても、オレたちを売り飛ばしてとっ捕まってる間まったく顔を見せなかった人物とはおもえないよ」
鳶加藤は悪びれもなく人懐っこく前歯の抜けた歯を剥いて、
「へへへ、すいませんねアッシは忍ですから、手のひらを返すような裏切り行為は朝飯前ですぜ」
カケルは、そう言った鳶加藤をまっすぐ見つめて、
「オレは、きっと、来てくれると思っていたよ」
「へへへ、左近の旦那はいけませんや、心の内を真っ正直に言葉にされちまう。いけやせんよ、忍はあまり信用なさらぬ方がいい」
カケルは鳶加藤の忠告を、わかったようなわからないような素振りで、牢へ閉じ込められて何日も風呂へ入ってないのでボリボリと胸元の垢を掻きながら聞いて、
「そう言う、もんかな?」
と、まるで他人事のようにあっけらかんと返事をした。
鳶加藤は声をひそめて、
「左近の旦那、これからどうしやす?」
「う~ん、寝ちゃった大膳さんを連れてはいけないし、起きたら起きたで、また、奥平のご城主様を一人で討ち取るなんて大声で喚かれたらどうしようもないし、どうしたもんだろうね」
「任せてくだせえ」
鳶加藤がそう言って片腕を上げると、サッと、黒い影数人が木陰から現れた。
「スゴイね。鳶加藤さん」
「へへへ、これでもあっしも頭ですから」
「彼らがいわゆる武田忍、透波者だね」
鳶加藤は、声に出さずに、カケルに不敵な笑みを向けて静かに頷いた。
カケルは、頭の後ろで手を組んで、
「それじゃ、大膳さんは、透波者の皆さんにあずけて、鳶加藤さんとオレは、作手亀山城城内へ散策へでも参りましょうか」
鳶加藤は、透波者へ目くばせすると、部下たちは大膳の巨体を戸板へのせて、まるで、野垂れ死にのそぞろ神にでもするように、蓆ををサッとかぶせて、男数人で連れて行った。
すると、大膳を連れて行った透波者にあぶれて取り残されたように、一人の忍が片膝ついて残っている。
「彼は?」
鳶加藤は、不敵な笑みをカケルへ向け、
「へえ、左近の旦那。先ほども申しましたが、あっしはこれでも透波者の頭でございまして、いくら左近の旦那が親しく目を掛けていると申しましても、徳川との戦の折、山県殿のそば近くにいて忍の采配を振るわねばなりません。今後、あっしがいくら旦那のそばで働きたいと申しても中々難しくなりました。そこで……」
「そこで、どうすんのさ。鳶加藤さん見たいに、経験を積んだ人が近くでアドバイスくれなきょオレ、やってけねーよ」
「ご安心くだせえ、おい、千代女、面を見せろ」
と、鳶加藤が片膝ついた千代女へ命令すると、顔を隠した覆面をサッとほどいた。
「アッ、お内儀様……」
片膝ついた透波者、鳶加藤に千代女と呼ばれた忍は女、こともあろうに作手亀山の里の領主で、ついこないだカケルへ作手亀山城の絵図面を渡したお内儀様であった。
「此度は、失礼申し上げました嶋左近殿。わたしは武田忍として作手亀山の里へ長く潜伏しておりました。昨今申し上げたわたしの身の上、心の内はすべて事実にございます。敵を欺くにはまずは味方から、頭の加藤段蔵と示し合わせて、左近殿と菅沼父子を捕らえ里のために働いてもらったのにござります」
「えっ、えっ、えっーーーーーーーーーーーーーーーーーーー! 忍者怖ぇーーーーーーーーーーーーーーーーーー!! 信用できないよーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
鳶加藤は、不敵に笑って、
「忍とはそういうものにござります。この者は、武田忍、透波者のくノ一で名を望月千代女と申す。武田の徳川侵攻作戦が決まる数年前から先行して、作手亀山へ潜伏させておりました。それが、城下の視察へ参った奥平のご城主がそうとは知らず見染めて手付きにしました」
「おおっ!」
「われらは千代女の子を奥平定能の世継ぎにして、お家乗っ取りを企てましたが、定能の嫡子、信昌は徳川家康の養女、亀姫を迎えただけのことはあってなかなかに切れ者。一筋縄にはいかず返って、千代女の子、弟を手打ちにして、おのれが世継ぎの座を安泰にしよりました」
「それで、それで?」
と、カケルが前のめりに千代女の裏話に膝をすすめると、鳶加藤は、話を断ち切るように、
「左近殿、これからわたしと左近殿のつなぎは、この千代女がつとめます。深い話は追々、千代女から直接聞きだしてくだされ」
「で、オレはこれからどうすればいいの?」
「千代女!」
鳶加藤は、静かに呼びかけると、千代女は懐から密書を取り出して、鳶加藤へ渡した。
鳶加藤は、それをカケルへ渡して、
「山県殿からの密書にござります」
「いやいやいや、オレ、山県さんの文字達筆すぎて読めないから鳶加藤さん代わりに読んで」
鳶加藤は、パラリと密書を広げて、
「左近よ、作手亀山城の米蔵もろとも調略せよ! とのことにございます」
カケルは、
「山県さん、また、ムチャぶりーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
と、天を仰いで叫んだ。
カケルの叫びが、作手亀山の里に、
「山県さん、また、ムチャぶりーーーーーーーーー! ムチャぶりーーーーーーーーー! ムチャぶりーーーーーーーーー!」
と、とめどないやまびこがこだました。
つづく




