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ごもっともです

『ユークリッド、お前なぁ………うちは竜騎士団で孤児院じゃやないぞ?』


「あ………………はい………そうですよね」


上司からの“うちは孤児院じゃない”発言にユークリッドはしみじみと現実を噛み締める。アルフレットに格好はつけてみたが誰だって第5竜騎士団が奴隷商の代わりに子供を保護すると聞けばそう思うだろ。遠い目をするもののここで諦めたら何事も振り出しである。だから今、上司から引き出すのは“妥協点” 互いに譲れない主張なら互いが何とか許せる場所を見つけるのが一番だ。そう決意を固めて口を開く。


-自分が今一番優先したいのは子供の保護なのだから………-


「確かに孤児院ではありませんが、今を逃せば“証拠物件”を手に入れる事が難しくなるかもしれません」


『それは………そうだけどな………』


今は子供の保護が優先だとユークリッドは主張する点を切り換る。商人を捕まえるためには言い逃れが出来ないように証拠物件を押さえる必要がある。今回はそれが集められた子供だと訴えるとその意図を理解した上司が魔石の向こうで唸る。だがそれに怯んではいられないが元管理職。上司の反応も理に叶ったものだと分かる。ユークリッド自身の訴える体制が上手くいかなければ第5竜騎士団の抱える負担は大きくなるのだから慎重にもなるだろう。


「………………………………………………」


返答を待つ間もユークリッドはただ祈る。じっと上司の判断を待つ。暫くののち溜め息と共に声が返る。


“………ひとまず、子供たちを証拠物件として確保するのは許可するが俺はお前の案には反対だ。意味は分かるな?”


「はい」

 

“子供達を下働きとして雇用する”

文字にすれば短いがその言葉の中には様々な問題と費用が発生する。何より子供を労働力として見込めるかも不安材料だ。いちがいに子供を労働力として見なすには不安が大きい。あまり色好い返事ではないが“子供の保護”という部分での許可を貰えたので満足する。後の事は子供達を保護してから考えればいい。


「ひとまず、証拠物件として子供達を確保します」


そう頭を切り替えたユークリッドは上司の判断に従う事を決める。そんな自分の声を聞いた上司は何を思ったのか………。


“それなら許可する。手が必要なら送るから連絡しろよ”


上司の表情が浮かぶほど苦い声が耳に届く。上司を悩ませるネタを増やして申し訳ないとは思う。そんな中でも冷静に話を聞いてくれる年下上司の申し出にユークリッドは微苦笑する。


「はい、ありがとうございます。ひとまずはこのままアルフレットと領主館まで行きます。その後奴隷を買いに来た奴隷商を装って領主代理にあって子供達を保護したいと思います」


“無理はするなよ”


「はい。それでは失礼します」


くれぐれもと釘を刺す上司に苦笑しつつも連絡を終えたユークリッドは空を見上げて嘆息する。暫く現実の厳しさを噛み締めていると見知った気配が近づいてくる。


「ユーグ、レイは何て?」


一人馬車にもたれ掛かってたそがれていたユークリッドはその声に振り返る。


「証拠物件の差し押さえならと許可を頂きましたよ」


その声に苦笑をむけるとその表情から“結果”を悟ったアルフレットは嘆息する。確かにユークリッドの案はいい案かもしれないがそこに付随する問題点が大きいのも事実。


「ま、やるだけやってみてから諦めようぜ」


「はい………」


自身の案が子供を救える起爆剤になればと思っていたユークリッドは現実の厳しさを噛み締める。その横顔を眺めたアルフレットはポンとその肩を叩いた。





「はぁ………………」


副団長と通信を終えた上司のため息に自分の仕事に励んでいた面々は顔をあげる。そこにはまだ自分達と同年代の筈なのにどこか哀愁を漂わせる少年の姿がある。ぐったりとした表情で机に突っ伏す姿はあまりにも哀愁が漂っている。そんな上司の姿に古参の隊員が心配そうに声をかける。


「団長、どうしたんですか?」


「………厄介事が超高速で走ってくる幻聴が聞こえだした」


「え?」


「ん………大丈夫だ。気にすんな………」


その心配そうな視線にヒラヒラと手を振って苦笑を向けた後、自身の仕事に視線を落とす。


「………………………………………………」


-奴隷商の代わりに子供達を第5竜騎士団で受け入れる-


ユークリッドの提示した案にすんなりと頷く事は出来なかった。その案が実行されれば奴隷商に売られる子供は少なくなり、同時に子供達は衣食住を保証される。ノワール領の悪しき習慣を変えるにはもってこいの案かもしれないが、同時に第5竜騎士団のメリットが見えにくいのが問題なのだ。子供とは言え、不特定多数の人間を受け入れれば団の機密が漏れる可能性は格段に跳ね上がる。そこまでしながらも子供を受け入れるメリットがあるのか………。しかし、受け入れが可能になれば団内の下働き者が不足している現実を解消する一手にはなるかもしれない。


“俺も変わったな………”


そう思い至って苦笑する。前なら第5竜騎士団の利益にならないならば即座に却下しただろう。それが今はどうしたら出来るかを考えるようにもなった。人に言わせれば小さな変化かもしれない。無理かもしれない。それでもやってみたら変わるかもしれないという期待が胸に沸き起こる。そんな自分に“ふっ”と笑いながらも再び目の前の仕事に意識を戻す。


『………………………………………………』


一人百面相をする上司に顔を見合わせた面々はその様子を見つめた後、自身の仕事に戻った。




その夜………


「………って事があってさ」


「そうでしたか………」 


夕食の席で向かい合って座るキリアにレイは昼間のユークリッドの話を語る。その間無言で上司の話を聞いていたキリアは顎に手を当てて思案する。その様子にキリアに話を聞かせてみたレイは苦笑する。


「そんな真剣にならなくて大丈夫だぞ」


自分が目の前で助けを求める子供達の手を振り払うような判断を下した事に苦い思いを消化出来ずに口にした愚痴にキリアは真剣な表情で悩んでいる。それが心苦しくて苦笑するレイの前で無言を貫いていたキリアはようやく顔をあげる。


「団長、確か………前期の騎士団の試験の時に竜騎士特性がなく竜騎士にはなれないけど、騎士にはなれるので雇って下さいと押し掛けて来た変わり種がいませんでしたっけ?」


「ん?」


キリアの問いかけに視線をさ迷わせたレイは“ああ”と頷く。


「マール?マールなら今も事務課のエースとしていかんなくその腕を発揮してるぞ?」


“竜騎士にはなれなくても誰かを守る騎士になりたいです”

そう言って昨年度の試験を大いに沸かせ、春先は一緒にその計算能力をもって団を支えた事務課のエース。商家出身のその実力をいかんなく発揮している第5竜騎士団唯一の会計担当者-マール・ブランチ-だ。商会の三男坊だったが自分の居場所は商会にないと自ら騎士団にやって来た変わり種。


「マールがどうかした?」


自分の話を聞いていたキリアの発言に目を瞬く。それに思案していたキリアはレイを真顔で見据える。酒に寄った団員達が作り出す喧騒をよそに裏腹に真剣な表情で口を開く。


「彼は商家出身ですよね?彼ならいい案を持ってませんかね」


「ん?」


キリアからの予想外の言葉にレイは目を瞬く。そんな上司を前にキリアは微笑む。


「その副団長の案。無理かどうかは専門家に聞いてから判断しませんか?」


-その言葉が後に“ノワールの奇跡”を生み出すことになる-

いつもお読み頂きましてありがとうございます。誤字・脱字がありましたら申し訳ありません。


さて、こういう話を繋ぐかいを書くときに自身の筆力の弱さが悔しくなります。私に文章力があればもっと彼らを輝かせてやれるのに………と。


この回は副題“すれ違い”ですね。


少しでも楽しんで頂ければ幸いです

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