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とりあえず、異世界の労働問題を解決しようと思います  作者: 高月怜
とりあえず、異世界の労働問題を解決しようと思います
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必ず道は開ける

ー時間は少し遡るー


“ザン”


目の前に繁る枝や草は右手に抜いたままの剣で切り落とし、ロディアはひたすらに前を見つめて歩き続ける。


「早く行かなくちゃ………」


そう呟くほどロディアは焦っていた。ずっと女性だからという理由で差別的扱いを受けてきたロディアにとって第5竜騎士団の面々は初めて出来た仲間だった。ただひたすらに前を急いでいたロディアは森の終わりを見つけて思わず叫んだ。


「見えたわ!」 


その声にロディアと同じように仲間を助けるためにひたすら全力で歩いていた面々は間に合ったと安堵の息をつく。更に足を早めて森を抜けるロディアに続いて出た面々の前にそれは現れる。


「え………っ………」


“なんて大きいの………”


一番初めに森を抜けて平野に出たロディアは目にしたものの予想外の大きさを誇っていた。空気を震わすほどの咆哮を上げて暴れる魔獣の前を魔術師の盾になるべく竜騎士達が飛び回っている。目の前にいるのはキマイラを3倍ほどにした魔獣の姿。三つの首がそれぞれの意思で動き、竜騎士を翻弄する。思わず、息を飲んだロディアの耳につけたイヤリングを模した通信石が熱くなる。慌てて魔力を通す。


『ロディア、布陣は済んだか?』


そのいつもと変わらない声に思考が止まっていたロディアは我に返る。そしてホッとする。


ー私は間に合ったのだとー


我知らず綻ぶ口許をそのままにロディアはスッと背を伸ばして目の前の魔獣を見据えて口を開く。


「お待たせしました。すみましたわ」


勝ち気な表情で立つロディア・オリオンはニヤリと微笑んだ。





「了解」

 

ロディアの声にニヤリと笑ったレイはユークリッドとこちらを見つめる3人を振り返る。


「責任の取り方、見せてやる。よく見とけよ?」


そう告げてぐるぐると両肩を回したレイは暴れ狂う魔獣を前にスタスタと歩き出す。


「だ、団長!?」


いきなり無防備に歩き出した相手にユークリッドは目を見開いてその背に声をかける。


「ん?なに?」


いつの間に呼び出したのかキウイを肩に乗せたレイはユークリッドの呼びかけに振り返る。その顔に浮かぶ表情にユークリッドは言葉を失う。


ーその顔に浮かぶのは紛れもなく笑みー


まるでこれから楽しい事が始まるとでも言わんばかりの表情にユークリッドは言葉を失ったのだ。ユークリッドが自分を見て驚愕するのにレイはくくっと喉を鳴らして笑う。


「ユークリッド、責任の取り方見せてやるからよーく見てろよ?」


そういうとレイはスッと手を上げる。すぐに騎乗出来るほどの大きさになったキウイにひらりと跨がり、浮上する。


「これが俺の責任の取り方だ」


そう告げるとレイの姿は目の前から消えた。




ー ギャー!! ー


断末魔のように放たれる咆哮を前に騎手を魔獣に向けたレイは自身が高揚するのを止められずにいた。口元がニヤリとつり上がる。目の前にいるのは脆弱な人間の驕りをまるで薙ぎ払うかのような絶対的な存在。


「キウイ………」


魔獣がその気になればすぐに危害を加えられそうなほどの至近距離に自身を下ろし、子猫ほどのサイズになった竜が甘えるように鼻面を自身に擦り付けるのにレイは擽ったそうにはにかむ。


「すぐに終わらせるからちょっと待ってて」


そう囁くと一声鳴いたキウイが大人しく、姿を消す。キウイへの魔力供給を断ったのだ。


「さぁ………やるか」


結界に閉じ込められて暴れる竜を目の前にレイは片腕をその前に掲げた。





「団長、一人でなんて無理です!あんな規格外のキング○ドラを!」


あまりの事態に思考能力を失っていたユークリッドはようやく我に返ると慌て出す。そのわりに周囲の魔術師達は静かに立ち上がると魔獣を覆うよう陣形に移行し始める。


「!?」


いったい何が起きるのかと周囲を見回すユークリッドの前に新たな人物が降り立つ。


「そんなに慌ててどうしたんだよ?」


「アルフレット!」


そこには砦にいるはずのアルフレットが竜を消して降り立つ。


「どうしてここに!」


目を見開いて問いかけるユークリッドを前にアルフレットは肩を竦めてみせる。


「ん………どうしても団長の殲滅魔術が見たいと思ってじいちゃん達に拝み倒してきた」


罰の悪そうな表情で頭をかいたアルフレットはユークリッドに苦笑する。ユークリッドが飛び立った後の連絡とは別に上司からあった再度の魔獣討伐任務の奥の手を聞いたアルフレットは逸る心を押さえられずにここに来た。罰則を加えられるとわかっていても目にしたいと思ったのだ。それほどまでにこれから起こる光景はそう見れるものではないのだ。


「砦はベテランの隊長達に拝み倒して来たから大丈夫だぞ!」


「そういう問題ではありませんが………っと、アルフレット!団長が………」


「ああ………やるらしいな」


ユークリッドの訴えにアルフレットは魔獣の前に単身降り立った上司を振り返る。それと同時に魔獣の気を引くために飛んでいた竜騎士達が騎手を上げて魔獣から離れてゆく。先程上空から見た景色では魔術師達が魔獣を囲うように布陣していた。落ち着きを払ったアルフレットとは別に焦ったユークリッドは訴える。


「何を悠長に眺めてるんですか!団長を助けないと、キング○ドラに踏み潰されしまう」


「キング○ドラ………………」


3つ首竜を指差して叫ぶユークリッドにアルフレットは遠い目をする。


「とりあえず、お前の中ではアイツはキング○ドラで間違いないんだな………」


ユークリッドの台詞にすっかり突っ込み役が板についたアルフレットはユークリッドの慌て具合に苦笑しながらも突っ込む。焦るユークリッド前にアルフレットは自分が興奮している事実に苦笑しながらも断言する。 


「ま、そう慌てんなよ。凄いぞ………そう見ることなんてないからな」


2年前の情景が甦り、アルフレットは柄にもなく興奮する。アルフレットが食い入るように前を見るのに気づいたユークリッドはその眼差しを追って目を見開いた。呆然とするユークリッドの視界は色とりどりの花が咲いていく。


あか………あお………みどりいろ………様々な属性の色を持つ魔方陣が竜を取り囲む結界の中で綺麗に咲き乱れる。


ーそれは………まるでー


淡い色合いから発される色は美しく。空を彩る花火のような幻想的な光景だった。


「なっ………」


「凄いだろ………」


言葉を失ったユークリッドを前にアルフレットは総毛立つ。この場に集まってくる精霊の量も魔力の濃さも全てが圧巻の一言になる。


ー2年前の情景が脳裏に甦るー


“さぁ~、生きて帰るぞ!”


新兵達を逃がし、散り散りになっても戦っていた面々が更に増員されてやって来る敵兵を目にして絶望を感じた時、実質的に指示を出したことで中心的な存在となっていた少年はそう言ってニヤリと笑ったのだ。全員が困惑する中、乗っていた竜から崖の上に降りたち少年は言葉を紡いだ。………。ただ一人………その少年だげが自身の勝利を疑っていなかった。


“今から、ぶっ飛ばすから。巻き込まれんなよ”


そう言って自分達を見上げる少年が起こした奇跡に自分達は忠誠を誓った。




「綺麗ですわ………」


結界の中では色とりどりの結界が発行して華を咲かせる。消えていく光を補うかのように結界が強い光を発する。色とりどりの魔方陣にうっとりとしながらロディアは結界維持の中心を務めながらも息を吐く。


「………ああ………あの時を思い出すわ………」


自身の全力を尽くしても負けてしまうのだと絶望したあの時に自分達を救った魔術がそこにある。“ほう………”と小さく息を吐いたロディアは瞳を潤ませながらも今、自身の展開する結界だけでは団長の展開する魔術の発動威力に押し負けると気づく。


「でも、私もあの時よりも腕を磨いてますのよ………」

 

ただてさえも数百人に及ぶ魔術師達の力をコントロールしているロディア自身には既にかなりの負担がかかっている。


ーそれでもー


「意地の見せ所よ」


一度、瞳を閉じて勝ち気に微笑んだロディアは更に結界を強化するための詠唱を開始した。




『………………………………………』


ユークリッドに引きずられるようにして連れて来られた信号機達も予想外の光景に瞬く事を忘れてそのあまりに幻想的な光景を食い入るように眺める。防戦一方に見えた筈の光景は一気に戦局を変えた。色とりどりの魔方陣を描きながら紡がれる詠唱に負けるものかと徐々に声を大きくしていく詠唱の声に周囲を見回せば、自分達とユークリッド………そして初めての戦場に動揺する新兵達をよそに至る所で魔術師達の輪唱が広まっていく。


ー自分の仕事が一体、何を守っているのか分からないなら辞めてしまいなさい!ー


初めて聞いた副団長の怒声の意味を今、ようやく理解する。


「俺たちが守るのって………」


「ああ………」


「忘れてたな………」


キラキラと輝く未来に自分達が守る者を夢見ていた筈だったのに。目の前で光を強めていく結界が押し合う力に互いに必死に抵抗し、たわんでは硬くなる。その凄まじいまでの力が結界に注がれる。戦いと呼べるほどこの場の全員が自身の持てる技術の全てを注ぎ込む姿に三人は自らを恥じた。



ーああ………綺麗だなー


次から次にと宙に掲げた右腕で魔術の魔方陣を書き上げながらレイは嘆息する。まるで空に絵を描くように色んな属性の魔方陣を散りばめていくのだ。だからかこの魔術を使うといつも楽しくなる。差し上げた右腕でリズムを取りながら、緻密な魔方陣を描いていく。謳うように………請うように………魔術の詠唱をレイは紡ぎ続ける。魔方陣は人間に音としてしか認識出来ない旋律を紡ぐ事が大事になる。自身が使える最強の魔方陣を底無しの魔力に任せていくつもいくつも結界の中に咲かせてゆく。同時に自身の中で燻っていた魔力が抜けていくのが分かる。


ー戦い方はひとつじゃないんだよ、レイー


そう言って魔術が上手く使えなくて泣きじゃくる自分に微笑んだ人の声が甦る。竜騎士でもなく、魔術師でもない異端な半端者。そう言って蔑む人々の中で唯一道を示した存在の言葉を噛み締める。


「ようは魔術師でなくても竜騎士でなくても俺は俺であればいい………」


魔術師に劣る魔術でも数を増やせば、その威力は跳ね上がる。上級魔術師を上回る威力を発揮するのだと教えてくれた人。


「さて、そろそろいきますか」


視界一面を覆い尽くす程の魔方陣を前にニヤリと笑ったレイはあげていた右腕を一気に降り下ろした。

いつもお読み頂きましてありがとうございます。誤字・脱字がありましたら申し訳ありません。

少しでも楽しんで頂ければ幸いです。


後………2話………。されど2話………1章簡潔に向けて早めに投稿したいと思います。

お付き合い頂ければ嬉しいです。

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