責任をとるということは………
“キング○ドラが何でここに!”
自身の上司いわく、“キマイラ3倍もどき”と呼ばれる三つ首竜を前にユークリッドは視界に入る魔獣に眉を潜める。
ーここには国会○事堂もないのに!ー
王都でもないのに何を主張したくてこんな平野にキング○ドラ(仮)はやって来たのだろう。
「副団長?」
魔獣を見つめたまま驚愕の表情の副団長に同乗していた竜騎士は肩越しに背後を振り返る。その問いかけにユークリッドは厳しい表情を崩さぬまま、竜騎士に問いかける。
「もっと早く行けませんか?」
災害級の魔獣を前に何が出来るは分からないがユークリッドは竜騎士を急かす。その問いにすでに全速力だった竜騎士は首を振る。
「すいません!これが全速力です!」
「分かりました。後、接敵まで何分かかりますか?」
「後、5分下さい」
ユークリッドの問いかけに竜騎士は前を向いて手綱に込める力を強める。
「最速で、お届けしますから!」
「よろしくお願いします!」
勝ち気に微笑む竜騎士にユークリッドはただ前を見据えていた。
「竜騎士は魔術師のフォローに回れ!」
声を張り上げてレイは指示を飛ばす。魔術師達の詠唱時間を稼ぐために竜騎士達は三つ首竜の前を飛びながら初級魔法で魔獣の意識を剃らし続ける。
「まだか………」
もう戦闘を開始して一時間ほどが経過しているが、待ち望む連絡は来ない。登りきった日が戦場を照らし出す。
「ロディア………」
指示を出しながら呟く。眼下では魔術師達の先頭で上級魔法を詠唱するユリアラの姿が見える。第2ラウンド開始直後にロディアから入った連絡では一キロ地点手前で魔獣の集団と戦闘しているとの連絡が入った後、連絡はない。心配はしていないがやはり気にはなる。
「魔獣の下には回り込むな!踏み潰されるぞ!」
被害を最小限に止め、結界を張りやすくするために雨霰と魔法攻撃を浴びせて魔獣の足止めをしていたレイは地団駄を踏むように咆哮し、足を動かす魔獣のすぐ近くを飛んだ竜騎士に怒声を飛ばす。
「団長、このままだと押しきられますよ!」
横を飛んで、自身も囮役を努めていたオルソは厳しい表情でレイに報告する。
「分かってる!最悪は結界なしで、ぶっぱなすがフォローしろよ!」
「了解です!とりあえず、行ってきます」
「頼んだ!」
怒鳴りあうように言葉を交わすと最善を尽くすために動き出す。
ー後方1キロ地点ー
“ギャアアア”
断末魔を上げる魔獣を冷たく見据えたロディアは更に急所を切りつける。
「これで最後ね!」
ロディアは剣で魔獣を切り倒し、返り血を拭う。その背後で震える新兵達に顎をしゃくりながら叫ぶ。
「さぁ、行くわよ!ついてきなさい!」
後、1キロという地点で魔獣と遭遇した面々は剣をとり、魔獣掃討をしていた。血塗れで叫ぶロディアの後を新兵達が凄まじい速度でついていく。それをロディアから離れた場所で違う魔獣を掃討していたキリアはその姿に見とれる。
「やはりロディア様は美しい……」
ーザッー
それを周囲で聞いていた新兵達がキリアから距離をとり、その顔を驚愕の表情で見つめるが………。
「なにか?」
『いえ………』
自分達を身を盾にして守ってくれる竜騎士からの問いかけに新兵達は揃って首を振る。
「そうですか?ほら行きましょう。隊列が崩れます」
『はい!!』
憧れの竜騎士像がガラガラと音をたてて崩れていく音を聞きながら新兵達は必死の思いで足を動かすのだった。
「副団長!!」
竜の背から降りて来た上司の姿に簡易救護所で怪我人の治療にあたっていた魔術師は声を上げる。それにユークリッドはすぐさま問いかける。
「負傷者は?」
「アルへ領軍のやつが大半です!十数名の囮役をしていた竜騎士が空から叩き落とされて運ばれてますが全員軽症です」
「そうですか………」
自身の部下達に被害がないと分かったユークリッドはホッと息を吐く。ユークリッドを下ろした竜騎士は団長に報告すると場を離れたが3馬鹿トリオを拘束する3騎士は背後に控えている。初めて戦場に来た3名はそこに広がる光景に絶句していた。
“なんて臭い………”
どんな臭いとは形容出来ないが血の臭いに何かが腐ったような腐敗臭。薬草の臭いも混じり悪臭を発している。鼻を押さえる3人を竜騎士達は冷たく見下ろす。これが戦場の臭い。
ー綺麗事ではない、人が死ぬ臭いだー
そんな3人をよそにユークリッドは距離が近づき、見上げないと見えなくなった魔獣を見上げる。こんな魔獣を前によく3日間も耐え抜いたとアルへ領軍の意地を称賛する。この後方三キロ地点には街があるのだ。こんな魔獣が街に来ていたらどれだけの被害が出ていただろう。
ー責任ー
その二文字がユークリッドの背にのし掛かる。
“責任を取る。その姿を見せるのが私の役目です”
遥か上空に見える上司の姿を見ながらユークリッドは覚悟を決めた。
「ユークリッドが着いた?」
「はい、お連れしました!」
指示を出しながら怒声を飛ばしていたレイはその声に振り返る。そこには先程までユークリッドを乗せていた竜騎士の姿がある。その報告に全ての状況を確認し、囮役を交代し戻っていたオルソを見つけて叫ぶ。
「オルソ!!」
「はい!」
「ちょっとの間、お前に指揮預ける!」
「了解しました!」
レイの叫びにオルソも叫び返す。オルソが了承の意を返すのを確かめ、レイは横に騎手を寄せてきた竜騎士に指示を出す。
「オルソを補佐しろ」
「了解です!」
団長の命令に竜騎士は背を伸ばして返事をした。
「戦闘中に申し訳ありません」
「責任の取り方は決まったか?」
目の前に降り立った団長からの問いかけにユークリッドは歩みを進めると片膝をついて頭を下げる
「はい。この度は誠に申し訳ございませんでした」
頭を垂れたユークリッドは静かに瞳を閉じ、覚悟を決める。ぎゅっと地面についた拳を握ると顔を上げる。
「責任を取り、あの魔獣を命に代えても討伐させて頂きたいと思います」
自分を見上げるユークリッドをレイは冷静に見据える。
「………勝算はあるのか?」
その問いかけにユークリッドは首を振る。
「わかりません………」
あんな規格外の魔獣に遭遇した事などない。だが………。
「なら………」
「ですが、報告の遅延がアルヘ領軍の死者を悪戯に増やしたのは明白です」
団長の言葉を遮り、ユークリッドは17歳の年下だが命の重さを理解する上司に言葉を紡ぐ。
「我らが救えるかもしれない命を見捨てました」
軍規違反は死罪。そう分かってはいる。だが、この惨状を見て自分達に責がないと誰が言えるだろう。目の前で自分の責任でもないのに頭を垂れる相手の背を3馬鹿トリオは呆然と見やる。ここに連れて来られたのは“こいつらがやりました”と責任をとらされるためだと思っていた。だか、実際に頭を下げているのは上司だ。
『………………………………………………』
ユークリッドのその姿を眺めた3人は言葉を失う。
「………………………………………………」
部下を後ろに自分に頭を下げるユークリッドを前にレイは無言で見下ろす。ユークリッドが来ると聞いてはいたがまさかこの為だとは思わなかった。
「自分の言ってる事が分かってるのか?」
「はい」
暗に軍規違反と自分が認めればー死罪ーもまのがれないと聞けば顔を上げたユークリッドは迷いなく自分を見上げて頷く。
「責は私にあります。彼らに指導出来なかった私の責任です」
「………………………………………………」
その言葉にレイは“ハァー”と溜め息を吐いて空を見上げる。まさかユークリッドがここまで覚悟を決めてるとは思わなかったのだ。空を見上げて一度、目を閉じたレイは息を吐く。その間にも恥ずかしいがユークリッドは握った拳が震えるのは止められなかった。ふぅーと息を吐いたレイはユークリッドに視線を戻す。
「ユークリッド、死に逃げるなよ」
「は?」
予想外の言葉にアホ面を晒したユークリッドは自分を見下ろす上司を見上げる。自分を見つめてくる相手にレイはニッと切なげに笑う。
「確かに。今回の事は許しがたい」
「なら………」
「でもお前が死んだからって死んだ人間が返る訳じゃないだろ」
ユークリッドは突きつけられる事実に目を伏せる。そう自分が死んだからって死んだ人間は生き返る訳ではない。でも、自分がもっと早く気づいていたら救えた命もあったのではないか良心が痛む。項垂れ、青い顔で唇を震わせるユークリッドを見やり、呆然としている3馬鹿トリオをレイは見据える。
「だから俺達は被害が最小限に抑えるために全力を尽くす」
3馬鹿トリオが自分の言葉に絶句するのがわかる。
「罪を償うっていう大義名分で死ぬのが一番楽かもな。……けど…死は逃げ場所じゃない。死は必死に生きて生き抜いた人間が行く場所だ。だから何も償ってないお前が行くには早いし、死者に失礼だ。だが、今回の事は本当に許しがたい出来事だ。もっと早く報告が来ていれば救えた命もあったかもしれない」
「はい」
何が言いたいのかと困惑するユークリッドを前にレイは自分の背後で飛び交う怒声と咆哮を背に空を見上げて視線を戻す。
「ユークリッドを含む、以下4名とも今回は減給処分に、半年間の厩舎掃除で勘弁してやる。だから、みんなで生きて帰るためにキリキリ働け!生きて償え!二度と同じ事を起こすな!」
「ありがとうございます!!」
上司の言葉に頭を下げるユークリッドを見ながらもレイはその背後で固まる3馬鹿トリオを殺気混じりの視線で射抜く。
「でもな………次はないと思え」
冷え冷えとし、今にも視線で人を殺せるなら確実に始末する団長の視線をまともに受けた3人は壊れた人形のように頷いた。
「よし」
ユークリッドの後ろでコクコクと壊れたように頷く3馬鹿トリオを眺めたレイは空を見上げる。
「ユークリッドも来た事だし、一気に畳み掛けるか」
コキコキと首を鳴らし、レイは耳につけた魔石に手をやる。
「ロディア、布陣は済んだか?」
『お待たせしました。すみましたわ』
即座に返る声にレイはニヤリ笑う。
「了解!頼んだぞ!」
魔石から返る声にレイは頷くとそこに立ち尽くす4人を振り返る。
「責任の取り方、見せてやる。よく見とけよ?」
勝ち気にニヤリと微笑むとレイはキウイを呼んだ。
いつもお読み頂きましてありがとうございます。誤字・脱字がありましたら申し訳ありません。
少しでも楽しんでいただければ幸いです。
もうそろそろ終幕ですね………
とりあえず、一章が完結したら誤字・脱字を修正してから二章に行こうと思います(笑)




