終わりよければ後始末
形容出来ないほどの音と光が視界を埋め尽くし、爆発音が耳をつんざく。あまりの衝撃に結界が弾け飛ぶのが感覚で分かる。
「………………………………っ」
目の前からの暴風と砂塵に腕を翳して顔を庇っていたユークリッドはあまりの衝撃に言葉を失う。なんとか前を伺おうと目を細めながら前を見据えていると砂塵がようやく晴れていく。
ー魔獣がいない!ー
先程まで咆哮を上げていた魔獣はおらず、そこには地面が剥き出しになった場所だけがぽっかりと空いている。その先程までとの光景の差に呆然としていたユークリッドの視線の先には団長の姿が入る。
「団長!!」
思わず声を張り上げると前を向いていた相手が振り返り、満面の笑みで手を振っているのが分かる。口元に手を当てて嬉しげに何か叫んでいる。
「ん?」
一体何を言ってるのかと少し近くと上司の声が届き始める。
「団ち………」
“何でしょうか?”とと問いかけようとした自身の声に上司の声が被さる。
「ユークリッド!! やったな!これで厩舎の雨漏り直るぞー!」
「………………………………………」
今にも跳ねんばかりに全身で喜びを表す態度にユークリッドは自身の高揚が治まっていくのを感じる。満面の笑みでこちらに手を振る相手の背後にはすさまじい熱量と衝撃を受けて地形を変えた平野のなれ果て………。災害級魔獣を倒して、全員がわーと歓声を上げているなか………。
「なんで………第一声が厩舎の雨漏りなんですか………」
災害級魔獣を倒した後の最大の名場面を台無しにする台詞にユークリッドはがくりと肩を落とした。
「………………ふ………っ………」
凄まじいまでの爆音が耳をつんざき、光に奪われた視界がようやく戻ってくる。全身を伝う汗をそのままにロディアは前を見据えて詰めていた息を吐く。
「………………………いない……」
魔獣の姿がない事を視界に確かめ、“ふっ”と笑った。
「ロディア様!」
その身体が力を失って崩れる姿に周囲で同じように魔力切れにより座り込んで喘いでいた魔術師が声を上げる。
「無茶しすぎです………」
今まさに地面に崩れ落ちそうになったロディアの腕を掴んで支えたキリアはロディアに切なげに微笑む。それにロディアはふふふと勝ち誇ったように笑う。
「………そ………うね………でも………悔いは………ないわ」
「はい」
その言葉にゆっくりとロディア地面に横たえながらキリアは頷く。
「でも、カッコ良かったですよ。ロディア様」
その言葉にロディアは目を見開き、ふっと笑う。
「あら………そう」
それだけをキリアにつげるとロディアは襲ってくる眠気に意識を手放した。
「よ!ユークリッド、お疲れ」
目の前まで近づくとニッと笑って相手が手を上げる。
「………お疲れ様でした」
色々残念な思いを抱いて団長に近づいたユークリッドはそう声をかけられて冷静に頭を下げる。なんかもう全てが厩舎の雨漏り発言に押し流されてそれしか気にならない。先程の感動をどうか返して欲しい。部下がそう思っているとは露もしらないレイは腰に手をあてて感慨深げに呟く。
「それにしても………まさか俺の依頼料で今年諦めなくちゃと思ってた厩舎が直るなんて思わなかったな。あんまり使い道ないけどA級ライセンスって持ってるとこう言うときに助かるんだな ~」
「………………………………………………」
非常に嬉しそうな顔で言われてユークリッドは言葉に詰まる。きっと世の中のA級ライセンス保持者は自分の仕事場の厩舎の雨漏りを直すために仕事をしている訳じゃないだろ。しみじみとA級ライセンスの素晴らしさを噛み締める上司をユークリッドが切なげに見つめているとその背が叩かれる。
「はいはい、お疲れさん。二人とも感動してる所悪いけど後始末始めるぞ」
背中をどつかれ、つんのめったユークリッドをよそに現れたアルフレットにレイは肩を竦める。
「で、お前なんでここにいんの?」
ーお前には砦を任せたよな?ーと暗に問いかけてくる年下上司に苦笑しつつもアルフレットは指で背後の救護テントを指差す。
「そんなの後々。ほら、お前は救護テントで寝てこい」
「は?」
「キリアからロディが魔力切れで意識飛ばしたと連絡があった。お前も普通にしてるけど結構キツいだろ」
「別に………」
「ならキウイと遊んでろ」
「………お前ら俺の判断基準おかしくね?」
オルソからも暇ならキウイと遊んでろと言われたレイはアルフレットをうろんげにみやる。
「お前、無駄に魔力あるから常にキウイを肩か頭に乗せてるだろ。戦場にいるとき」
「…………………………」
アルフレットからの“何言ってんだ!”という視線を受けたレイは視線を逸らす。言いたくない事があると視線を逸らす癖のある上司を前にアルフレットは促す。
「ほら、お前にぶっ倒れられると困るから休んで来い」
「へいへい………ちっ………」
「レイ」
「行くって!」
舌打ちはしたがアルフレットの指示に従う事を決めたレイは振り返って後悔する。
「あ………」
「ほらな」
目眩を起こした相手を抱き止めたアルフレットは呆れたようにその後頭部を見下ろす。
「無茶しすぎなんだよ。で、ユークリッド………お前も大丈夫?」
「………大丈夫です………ちょっとついた手に小石が食い込んで痛かっただけですから………」
アルフレットの急襲に耐えられず、地面に手をついたユークリッドは気心のしれた二人のやり取りに参加したかったが痛みにそれ所ではなかったのだ。地味な痛みに耐えて涼しい顔で身体を起こしたユークリッドはアルフレットの肩を借りて唸る上司に苦笑する。その顔は不満げだが、意識は眠気に意識を奪われつつあるのか欠伸を噛み殺している。その姿にユークリッドはふっと笑ってしまう。
「お疲れ様でした」
「おう………」
気が抜けたのか欠伸を繰り返す相手を呆れたように見下ろしたアルフレットはユークリッドに視線を戻す。
「ほら、後始末すんぞ」
「はい」
アルフレットの指示にユークリッドは笑みをたたえながら頷いた。
“こいつ、置いてくるわ”
そう言って半分寝ている上司を引きずっていたアルフレットを見送り、ユークリッドは青く晴れた空を見上げて気合いをいれる。
「………よし!」
腰に手をあてて空を眺めたユークリッドは眦に浮かぶ涙をそのままに頷く。
「とりあえず、後始末ですね」
周囲に広がる悪夢のような光景がそこにある。
ー決して戦場は綺麗事では済まないのだー
いつもお読み頂きましてありがとうございます!
誤字・脱字がありましたら申し訳ありません!
少しでも楽しんで頂ければ幸いです。
ようやく第1章。後1話ですね




