とりあえず、異世界の労働問題を解決しようと思います
「………おう………お疲れ………」
「お疲れ様です。大丈夫ですか?」
救護テントの片隅で眠っていた相手は眠たそうに目を擦りながらもやって来た自分を見上げる。身体を起こし、目を擦りつつも欠伸を繰り返したレイは苦虫を噛み潰したような顔で相手に謝る。
「悪いな。寝こけてて………」
「いえ、アルフレットが粗方指示を出して下さったので目処はつきましたので大丈夫です」
限界まで無茶をした上司の謝罪にユークリッドは遠い所を見ながら首を振る。
ーそれは20分前の出来事………ー
“なら、そろそろあいつも起きるだろうから俺帰るわ!”
日も中天に昇り、全ての作業にある程度目処がついた途端、アルフレットはそう言い出した。負傷者の帰還の振り分け。戦死者の遺骨、または形見の品の収集。魔獣に踏み潰された死体の弔いなどなど………。部下の振り分けを知らない自分に指示を仰ぐような形をとってはいるが非常に効率よく振り分けていった。それを誰一人、不思議に思うことなく上手く動いていた。
ーなのに………ー
“は?”
思わずそう問い返した相手は肩を竦めて衝撃の一言を言い放った。
“じいちゃん達を拝み倒して来たからさ………”
そう言い残して去って行った相手はこうなる事を見越してやって来たのだろう。
ー本当に敵わないー
彼らは皆、それぞれが自分の出来る事に最善を尽くすのだ。遠い所をみやって報告する相手にレイはくつくつと笑う。
「ユークリッド、これが俺達の責任の取り方なんだよ」
額に手を当てて唸る部下をレイは見上げる。その言葉にユークリッドは視線を上司に向けた。
「魔術師一人………竜騎士一人が居たって救える人間には限りがある」
切なげに髪をかき揚げながら微笑む相手をユークリッドは目を見開いて見つめる。自分を見つめるユークリッドを前にレイはニッと笑った。
「アルフレットにはアルフレットなりの責任の取り方がある。俺も俺がその場にいる限りは“誰も犠牲にしない”と決めてる。これは魔術師にもなれないし、竜騎士とは違う半端者と言われる俺だから出来る責任の取り方なんだ」
竜騎士では災害級魔獣を仕留めるだけの魔術を使うことは出来ない。反対に魔術師では一人で魔獣の前に躍り出て人を救うことは出来ない。半端者。そう呼ばれる自分がどうしたら自分の信念を曲げずに生きれるか。そう考えたゆえの結論。
そこで言葉を切り、ユークリッドを見据える。
「ならお前は?ユークリッド」
自分を見据えて告げられる言葉にユークリッドはごくりと口内に溜まった唾液を飲み込んで喉を湿らせる。
「生きてるお前だから出来る事はなんなんだろうな………お前が目の前の命を救えなかったと………二度とこんな悔しい思いをしなくて済む責任の取り方は何なんだろうな………」
そう問いかけられたユークリッドは覚悟を決めて上司を見つめる。ずっと後始末をしながらこの事件を引き起こした自分に何が出来るかを考えていた。
「私は………」
情けない事に喉の奥から出た声は掠れていた。しかし、その答えを聞いた第5竜騎士団団長ーレイ・アルフォードーは満面の笑みで頷いた。
「いいじゃん………それ。やってみろよ」
「はい」
その答えにユークリッドは初めて自信に満ちた笑みを上司に返した。
………後にその功績を讃えられたユークリッド・コンフリートが老年に差し掛かった頃。一人の研究者がこう問いかけた。
ー貴方はなぜ成功したんですか?ー
幾多の人がユークリッド・コンフリートと同じように貴族と平民の間にあった垣根を取り除こうとしたが誰一人として成功しなかった。ではなぜ貴方は成功したのか?そう問いかけられたユークリッド・コンフリートは穏やかに微笑んだと言われている。
ー人の和、時の輪、知恵の環。その全てがただ巡りあっただけだー
………と。そう告げたユークリッド・コンフリートに納得がいかないと更に問い詰めようとした研究者に対して更にこの様な言葉を残している。
ー自分を変えるのは自分のみ。自分が変わらなければ全ては変わらない。私がしたのは自分で自分が変わる事を決断をしただけ。若人よ、だから何かを変えたいと思うならまずは自ら変わる事を恐れない事だ。そうすればおのずと道は開かれるー
時の権力者にも負けず、ただ己の信念を貫き通した男の生涯はこの言葉を残して終わる
ー現在ー
災害級魔獣の討伐も無事に終わり、演習の慰労会も無事に終えた第5竜騎士団副団長の姿は砦内一の広さを誇る合同訓練所にあった。
「ふぅ………………………」
満足げに“それ”を眺め、竜騎士と魔術師の合同訓練所の中に仁王立ちする男はまだ何も知らずにいた。
己が後世に“銀の参謀”とよばれ、その智謀を讃えられるようになることを。
「これで完璧です!」
ひたすら満足気な表情でユークリッドが見つめるその先にはつい先日までなかった文字の書かれた新しい板がデカデカと設置されていた。そこにはユークリッドがこの団を変えるために最初に掲げた目標が書かれていた。
ー情報の共有、識字率の上昇ー
それは異世界初………その後、スローガンと名付けられるもの。それを前にユークリッド・コンフリートはただ満足気に頷く。
「………とりあえず、異世界の労働問題を解決しなくては………」
目指せホワイト企業。サービス残業の廃止だ。自分が変わらなければ何も変わらないと知った男はここから始まりの一歩を踏み出す。
ーだが………その道のりは果てしなく遠いー
「………なぁ、なんだあれ?」
「さぁ………………………」
満足気に頷くユークリッドの背後ではたまたま通りかかったとある騎士団の面々が訓練所に新しく飾られた板を前に首を捻っていた。
ー後に“銀の参謀”と呼ばれる男がその事実を知るのはー
また別の話………。
ー了ー
いつもお読み頂きましてありがとうございます!
誤字・脱字がありましたら申し訳ありません。
やっと一章が終わった!!
ずっと書きたくて書きたくて仕方ないところまでようやく書き終わりました。
予告通り誤字脱字の校正を済ませてから二章に行きたいと思います。一章、お付き合い頂きましてありがとうございます!引き続き二章もよろしくお願いします!




