信念から流儀は生まれる?
ユークリッドには前世から仕事をする上で大事にしてい信念があった。
ーそれは如何なる事であろうと部下の失敗の責任を一緒に担ってやる事であるー
前世からも仕事をする上での責任を取れない奴がユークリッドは一番嫌いだった。人間だれしも失敗する。失敗しない人間はいない。だからこそ責任者は部下の失敗を一緒に担ってやる必要があると思っている。それが部下を成長させるのに必要だと思うのだ。だからこそ責任者には責任者の仕事があるし、部下には部下の仕事があるとも思っている。ただ一つどの仕事でも言えることだが責任者に一報が届かなければ対処は出来ない。更に師団に属するのであれば一報が遅れれば遅れるだけそれだけ多くの命が危険に晒される。そんな簡単な事も理解せずに入ってくる人間の多いこと。師団という軍組織にはー守るべき命ーを託されているのだ。自分のミスで多くの人間が死ぬ。情報が遅れれば遅れるだけ仲間の命が対価になる。
だからユークリッドは決めている。
“目の前仕事には全力で取り組む”
………と。それがユークリッドの仕事をする上での流儀だった。やりもせずに無理だとは言いたくない。何より事務仕事だとしてもそこには多種多様な訴えがある。一つの地方の訴えを見逃せばそれが波及して甚大な被害を被る。だからこそ、ユークリッドには彼らの仕事に対する姿勢に怒りを感じていた。
「さて、今は何時でしょうか?」
立ち尽くす部下に冷ややかな冷笑を浮かべたユークリッドは扉脇にかかる魔水晶の色を確認しながら再度問いかける。ユークリッドに視線を向けられて硬直していたロッドとレドリアルがアワアワと顔を見合わせる。
「私はいったい今何時かと聞いているんですが?」
責任者のようの机に座り、顔だけ笑顔を浮かべたユークリッドは怒りを湛えた瞳で事務課の問題児ー3馬鹿トリオーを見据える。叱責の声に身を竦めて青ざめる二人の後ろからブレオは微かに笑みを浮かべながら入室する。
「おはようございます。副団長」
昼休憩まで一時間ほどにしかない時刻に姿を現した癖に詫びる様子も見せない相手にユークリッドはピクリと眉を動かす。ユークリッドの隣で書類を確認していたアルフレットもその態度に無言で視線を動かす。二人の視線を受けてもブレオは笑みを浮かべたままだ。
「ご説明が遅くなりまして申し訳ありません。本日は朝から各部署に処理しました書類を届けに行っておりました。二人ともさきほどその通路で会ったところなんです」
青ざめる二人の態度からどう見てもおかしい筈なのにブレオはにこやかに“な?”と二人を促す。その促しにバレバレな態度で二人が壊れた人形のように頷く。
「………………………………………」
その人を食ったような態度にユークリッドの三人対する不快度が増す。元々、この部署を機能不可にさせたのは確かに自分達責任者の職務怠慢。だが、彼らの態度も成人した大人としてもあまりに幼稚すぎる。
「そうですか………では、今から今日の仕事をされるんですね?」
「もちろん」
堂々と言い訳をしてみせたブレオが部屋に入ってくると自分の席に腰を下ろす。その姿に意を決したレドリアルとロッドは顔を見合わせるとおそるおそる部屋に入ってきて席に腰を下ろす。アルフレットは書類を手に持ったままユークリッドの背後に回る。ブレオはいつも通りと言わんばかりの態度で書類を確認している。二人もワタワタと書類を確認しているのが分かる。三者三様の様子を見守っていたユークリッドは余裕を持った態度で三人に問いかける。
「今日は不在時に来てしまったようで申し訳ありません。少しお聞きしたい事があります」
「なんでしょう?」
真面目に書類を片付けていたブレオが顔を上げる。それにユークリッドはニコリと微笑む。
「いえ、昨日。とある報告書がこちらに届いていると聞きました。王都からの緊急依頼書ですが、見ていませんか?」
あえて内容は話さずに問いかけると残りの二人も弾かれたように顔を上げるが困惑したように顔を見合わせている。そんな二人をよそにブレオは少し考えた後、首を振る。昨日は今日より一時間ほど早く来たが誰も来なかった。いつも通りに出勤したら入り口脇の手紙の山が出来ていたぐらいだ。
「いえ、何も。連絡部が間違えているのでは?」
「………………………………………………」
穏やかな表情を崩さないユークリッドとは裏腹にアルフレットは眉を寄せる。緊急の報告書は必ず担当者が待っているものだが、一時間も二時間も待てるものではない。この状態だとヴァイゼが清書した書類から“緊急”の二文字が抜けていたために連絡部の担当者がいつも通りに不在の部屋に置いて帰った可能性が高い。アルフレットが三人の言い訳に眉をひそめる横でユークリッドも嘆息する。たぶん、書類はこの部屋にある。それは直感。だが、行方はこの散らかった部屋で見つけるのはほぼ難しいだろう。この部屋に早々に見切りをつけたユークリッドは席を立つ。彼らの仕事態度を改めさせるには今は切り札が少なすぎる。貴族の皆様に左遷されて一つ賢くなった事があるのだ。
「分かりました。ありがとうございます。再度、連絡部に確認しましょう。この部屋にないと言われるからには責任の所在をはっきりさせないとなりませんからね?」
嫌味は分かりやすく、ハッキリと。そして、言葉の責任を取れよと匂わせる。相手を断罪するのには全力で取り組まなくてはならない。
「アルフレット行きましょう。連絡部に」
そうと決まれば行動は素早くだ。自分の凄まじく綺麗な笑顔にアルフレットがコクコクと頷くのを促して部屋を退出させるとユークリッドは扉の前で一度立ち止まる。
「ああ………この部屋にないと言うことを教えて頂きましてありがとうございました」
ゆったりと微笑んで一度ユークリッドは振り返ると事務課を後にする。
「ブレオ」
「負け惜しみだ。そんな書類はここになかっただろ?」
ロッドの不安げな声に肩を竦めたブレオは嘆息する。書類はここに届いていない。いないから、強気でいればいい。そう自分に言い聞かせた。
「ユークリッド」
部屋を出たユークリッドの後をアルフレットは追いかけて問いかける。
「あの部屋にあるのは確かだぞ?」
アルフレットが連絡部で調べて来た情報は確かで足跡は確かにあそこで止まっているのだ。なぜ?と問いかけるアルフレットに足を連絡部に急がせていたユークリッドは足を止めて振り返る。その顔に浮かぶのは青筋と満面の笑顔だ。
「彼らを問い詰めるのに時間を割いてる場合ではありませんからね。彼らを問い詰めるののは証拠を揃えてからですよ。アルフレット」
「ああ………………………」
ユークリッドの凄まじく綺麗な笑顔にひくりと頬をひきつらせたアルフレットは続いた台詞に言葉を失う
「こんな時は使えるものは何でも使うんですよね?アルフレット」
左遷されてこれ以上、失うものも怖れるものもないユークリッド・コンフリートはアルフレットを見据えてニヤリと笑った。
ー王都 魔術師団のとある一室ー
「フラン~!お前に呼び出しだぞ!」
「んぁ?」
元ユークリッド・コンフリートの座っていた席に座るフラン・キャドルはその声に顔を上げた。
いつもお読み頂きましてありがとうございます。誤字・脱字がありましたら申し訳ありません。
フラフラとしていたユークリッドがようやく覚悟を決めてきました。
ユークリッドの無双が始まる予感………




