仕事の信念
ーあなたが仕事をする理由は?ー
そう聞かれたら実に様々な答えが返るだろう。
ー生活のためー
ー金のためー
ーなんとなく………ー
最後のは流されたんだろうなと生暖かい視線を向けて見守って欲しい。少し話はそれたが仕事をする理由は人それぞれ。それは図らずも二度目の人生を歩む事になったユークリッド・コンフリートも変わらない。ユークリッド・コンフリートの人生の目標は言わずとも知れているが。
ー安定安心の公務員生活 健康寿命の謳歌ー
である。そのためには仕事をしてお金を稼ぐ事の必要性も分かっている。だから、仕事にも信念を抱く。これだけは譲れないという一線が誰しもあるのだ。
「これは酷くね?」
ユークリッドに続いて魔術師団の事務課に足を踏み入れたアルフレットは部屋の惨状に頬をひきつらせる。机の上には処理しきれないだろう書類が山積みになり、資料と本が出しっぱなし。床にも書類が無造作に落ちたままだ。固まったアルフレットの様子を気にする事なく、いつも通りに部屋に足を踏み入れたユークリッドは淡々と書類を整えていく。
「前任のクライシス様が不在になってからはここの責任者が来なくなってしまったようですからね」
魔術師というのは基本的に群れるのを嫌う人間が多い………。というか本を読み自身をいかに高めるのかが好きな引きこもりが多いのだ。簡単に言えばコミュ障が多い。着任して一度、図書室に籠っていた責任者に責任の有り処を問い詰めに行ったが“王都に帰して欲しい”と泣きつかれた。
「妻子を王都に残して来たらしく。会いにいけば毎回、王都にどうしたら帰れるかを相談されてます」
「ああ………うん………お疲れ」
無表情で分かりにくいがユークリッドはその場での最善を尽くす。きっとその問題児にも、仕事をさせようと一度は頑張っただろう。アルフレットの労いに書類を整えながらも目を通していくを繰り返しながらユークリッドは遠い目をする。
「彼は王都の知り合いに連絡しました。来月には異動内示が届くでしょう」
何回か訪問してみて“無理”だと判断した。
「まだ一番新しい見習いが見込みがありますからね。彼を育てようと思います」
団長室の書類を片付けるので手一杯だったが、今後はこの事務課も手を入れなくなければならないだろう。天井を見上げて一つ嘆息したユークリッドは目の前の書類を手にとる。
「アルフレット」
「ん?」
うわーと呟きながら自身に近づいてくるアルフレットにユークリッドは手にした書類を渡す。
「よろしくお願いしますね」
ニコリと効果音がつきそうなほどの笑顔を向けられたアルフレットは頷いて書類を受けとる。
「手伝うわ」
団長室に近い惨状を晒しつつある魔術師団事務課にアルフレットはユークリッドの肩をポンポンと叩いた。
ーそれから数時間後ー
「なぁ、今日は休んじゃおうよ」
「でも、スプレッドがいないんだから一応は顔を見せとかないとマズイだろ」
「団長不在なんだから。ま、そんなに仕事はないだろうけどね」
もう本来の始業時間を大幅にズレた時刻にも関わらず、ゆったりと食事を終えて廊下を歩いていた三人は思い思いに口を開く。団長が居ない事を覗けばいつも通りの日常だ。スプレッドがいればイビる楽しみもあるが不在の今は楽しみがない。
「それにしても、昨日の娘可愛かったよな~」
昨日、食堂で家族に手紙を送りたいと言っていた食堂のアイドルの娘の願いを引き受けて代筆した。その瞬間の笑顔にロッドは思いを馳せる。そのにやけた笑みにブレオは呆れたように肩を竦める。
「だいたいお前はなにもしてないだろう」
アイドルの娘に趣味や好きなものを聞いてまとわりついていただけのロッドに対し、文の代筆をしたのはブレオなのだ。
「そうかな………俺はいまいちだったけどな」
「はぁ?お前にはもったいないね!」
あまり乗り気ではない態度のレドリアルにロッドは不満げに吐き捨てる。二人のやり取りに苦笑しつつも歩いていたブレオはいつも通りにノブを回してみて―ピタリ―と動きを止める。
「何してんだよ!ブレオ!さっさと開けろよ」
レドリアルと女の好みについて会話していたロッドは普段とは違うブレオの様子に眉根を寄せる。
「たく………扉ぐらい簡単に開けられるだろうに」
そんなブレオの様子に気付かないレドリアルはブレオを押し退けて扉を開ける。………が………。
「おはようございます………重役出勤お疲れ様ですね」
普段なら聞こえる筈のない声とあるはずもない姿にレドリアルは硬直する。
「あ………………………」
何も言えずに硬直するレドリアルの背後から何があったんだと覗き込んだロッドも予想外の人物の登場に唖然とする。その背後で普段なら開錠を唱えないと開かない筈の扉に抵抗がなかったことにいち早く気づいていたブレオは肩を竦める。
そんな三人を前にユークリッドは知らず知らず冷たい笑みを口許に刻む。
「さて、今は何時でしょうか?」
わざとらしく扉の脇にかかる魔水晶を眺めユークリッドは再び三人に視線を戻す。
「上司からの質問には答えて頂けますか?」
絶対零度の空気を身に纏い………見るものを凍りつかせるのではないかと言わんばかりの冷笑を讃える第5竜騎士団副団長ーユークリッド・コンフリートーの姿がそこにあった。
いつもお読み頂きましてありがとうございます。誤字・脱字がありましたら申し訳ありません。
少しでも楽しんで頂ければ幸いです。
少し短いですが、次は早めにあげたいと思います!




