演習初日
「あ~、せっかく使えるようになってきたのに」
黄色い髪にまだまだ甘えの抜けない顔をした青年は目の前の書類に目を通しては机の上に放り投げる。
ー魔術師団の3馬鹿トリオー
そう呼ばれている事を本人達だけが知らない3人組の一人黄色の髪の青年ーロッド・ミハエルーは今年新人として配属されて来たスプレッドの席をみやって吐き捨てる。今日から一週間、小間使いのように使っていた新人が居なくなるため、いつもなら昼からしかこの部屋に来ないが今日は朝からきているのだ。そんなロッドの言葉に自分の評価がよくなりそうな仕事だけを見繕っていた青色の髪の青年ーブレオ・クレオリアーはくっくっと笑う。
「ま、そういうなよ。地獄の演習なんだ。文官だから免除されるなんてそれこそ許されないだろ」
歴戦の兵からすれば“おままごと”に近い演習も新人達にすればそれこそ初めて経験する地獄になる。
「ほんと、ほんと。いきなり雨降りだしたのに泥の中を歩いて靴の中はぐちゃぐちゃだったし、本当に最悪だったよ。なんで、この僕が馬にも乗せてもらえずに一週間徒歩で移動しないとならないんだって父上に言いつけようかと何回思ったか………。」
あれ以来、文官という事を盾に演習を免除されていた赤髪の青年ーレドリアル・サラリアーは唇を尖らせる。今、三人がいるのは魔術師団の塔の一室。全ての申請書類の手続きを行う部署。また上司である副団長と四番隊の隊長を務めるロディア・オリオンに連絡部から預かった情報を清書して上奏するのが仕事。この部署には本来はスプレッドの他にも三人いた。そのうちの一人は上司だったが最初の着任時にボソボソと挨拶して以来、この部屋には来ず実室で仕事をする。いつ来ているのかは知らないが書類が片付いているのだからまだ生存している事は確かだ。他、二人はこの状況に耐えられず、部署を異動していった。
「あのひ弱なスプレッドが泣きっ面で帰ってくるのが楽しみだろ」
「確かに」
「そうだねー」
ブレオの言葉に二人はクスクスと笑う。昨年の配属以降、この状態がずっと続いており、三人にとってはこの状態が普通だった。自分の好きな仕事を選ぶのは当たり前で、いくら自分達に文句を言う高位なものでも、申請書類の話をちらつかせればそれも収まった。だから今年配属されてきたスプレッドにも楽をする事を教えようとしたのだが、平民出身で自身の故郷の期待を一心に魔術師学園を出てきた相手は一向に迎合しようとしない。だから、普通だったら音を上げるような仕事量を振っているが、相手は雑草根性で仕事をやりきる。今では更に凄まじい勢いで仕事を片付けてくる。それがまた勘に触る。
「レド、それは王都提出する書類だから今日中にやってしまえよ」
「はいはい」
ブレオの言葉にレドリアルは選り分けた中でも王都行きの仕事だけに取り組む。
「ロッド」
「はいはい」
文字が読め、正式な文法でかけることが自分の価値でそれ以外、この場所で求められる事はない。放り投げた書類に目を通し、ロッドはペンを握るが………。
「これはあいつにやらせよ」
上司への清書書類が自分の仕事の中にまじっていることに気づいたロッドはそれを新人机の未処理と書かれた書類の箱の中に“内容”も読まずに投げ捨てる。その清書書類が投げ入れた衝撃で他の書類に混じるのに気も止めずにロッドは気を取り直して仕事に向き直る。
「なぁなぁ、今日の昼飯なんにする?」
「今日は奮発するか~」
「僕は肉が食べたいな」
「いいな。昼までに終わらせて、食いに行くか………」
レドの提案にブレオも賛同してニヤリと笑う。それ以後もなんだかんだとお喋りに花を咲かせながら仕事を行う。
ーそしてー
“カーン、カーン”
3時間後に鳴った昼の鐘に3人組は仕事の手を止める。
「出来たか?」
「まぁまぁ」
「後は明日でいいよ。今日はこれから食堂で“手紙”を書く仕事があるんだから」
ロッドはブレオの問いかけに昨日破格の値段で請け負った食堂のアイドルの手紙を書く仕事にニマニマとする。騎士団と魔術師団の中でもアイドルの食堂の給仕と仲良くなるきっかけになるはずだ。
「なら、行くか」
3人組の中心的な存在のブレオの言葉に2人は同意して立ち上がった。
ーパタンー
スプレッド用に回した清書書類の内容が王都から今日届いたばかりの“討伐依頼”である事を知りもせずに。
ー 同時刻 森の中 ー
“我に力を貸したまえ”
歌のように魔法の詠唱を口ずさみながらレイは軽やかに自分に向かってくる猪に似た魔獣の突進を避けながら首を落とす。右手と左手に構えた刃はそれぞれに長さが違うにも関わらず、レイの手となり自由自在に敵を殲滅する。
“風は刃となり、我の敵を殲滅せよ、ウィンドブレード”
目の前の敵を殲滅し、自分を背後から襲ってきた熊ほどの大きさの魔獣を風の刃で切り刻んでレイはようやく息を吐く。
「俺、もう思い残す事はないわ………」
そう呟いて殲滅を開始して一時間、息すら切らさずに動きつづけていたレイは晴れやかな顔で空をあおぐ。頬と頭に返り血を被りつつも周囲に魔獣の死体の山を築いた中での独白にそれに付き従いながら討ち漏らしがないように距離をとって布陣を組んでいた第2隊の隊長ーキリア・ロベルトーは嘆息する。
「そうですか、良かったですね………ストレス発散出来て」
少し離れた所から響いてくる魔獣の断末魔と隊員の“ロディア様!やめて下さい!”という悲鳴に“ふふふ、我に………”というロディアの声に“ロディア様~!”という悲鳴をBGMが耳に届くのを無視してレイはキリアに満面の笑みを返す。
「おう!めっちゃすっきり!」
自分の剣についた血を水魔法で洗い流してから布で拭いてしまったレイはキリアに肩を竦めながら近寄る。
「体は動かさないと鈍るし、魔力は適度に消費しないと体の中で膨れて調子がよくないしな」
魔力保有量が上級魔術師以上のレイにとって、身体の中で魔力が飽和し始めると体調を崩す。そのため適度に消費するのが一番の方法だと自分で分かっている。
「そんな心配は団長ぐらいですよ。竜をその身に飼いながらも上級魔術を使えるのは」
お疲れさまですと用意していた水袋とタオルを渡しながらBG Mの主達が戻ってくるのを待つ。
「ま、特異体質。生まれつきの体質なだけで、魔術も使えるだけって話だ」
有り難くもらった水袋で喉を潤したレイは顔を拭って布を無詠唱で燃やす。 そのいかにも当たり前と言わんばかりの発言にキリアは苦笑する。殲滅対象種との遭遇から一時間。予定よりも大幅にずれた場所まで魔獣がうろついている事に首を傾げつつも団長は俺一人でいくと双刀を構えて走り出したのだ。こちらを見つつも布陣へ指示を出し、踊るように敵を最小限の動きで仕留める姿に初めてその姿を見た隊員が興奮しているのはご愛嬌だ。
「ロディア達は、まだやってんのか?」
「そうですね。ですが、断末魔が近づいて来てますからもう少しかと」
“私、ちょっとストレス………違いましたわ………殲滅してきますわ”
レイが踊るように敵を殲滅する姿に血がたぎったのか、自身も殲滅作戦に行ってきますと言って森の中に消えていくロディアを担当騎士が慌てて追っていく姿がなんとも憐れだった。きっと彼は違う意味で新しい世界を見てくるだろう。心の中でそんな彼らを拝みながらレイはキリアを見上げる。
「それにしても遭遇予定地域よりかなりずれてるな」
「はい。予定ではもう三キロほどザウルス国寄りの国境近くの筈だったんですが………」
キルアもレイの疑念に眉根を寄せている。砦で演習予定を組み直した時はもっと国境よりで新人とはいえ、ぞろぞろ連れ歩くと隣国を刺激しかねないため、精鋭で一気に殲滅して離脱する予定だった。
「おかしいな………」
「はい………」
普段魔獣が自分達の縄張りから出ない事を考えると明らかにこの分布はおかしい。
「後で砦には追加指示が来てないか確認してからだな」
「そうですね」
何事も思い込みで判断すると痛い目をみるものだ。
「ロディア達が戻れば一度、予定通りにここを離れる。で、予定通りに本隊と合流する」
「はい」
レイが妙に静かになった森を睨み付ける中、キリアは第2隊に撤収の指示を出した。
いつもお読み頂きましてありがとうございます。
誤字・脱字がありましたら申し訳ありません。
今回、ユークリッドの出番はありませんでした………が!
次回はきっと活躍してくれる予定です!
少しでも楽しんで頂ければ幸いです




