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とりあえず、異世界の労働問題を解決しようと思います  作者: 高月怜
とりあえず、異世界の労働問題を解決しようと思います
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演習2日目

ー演習2日目 早朝ー


「は?国からの連絡?」


一人で何もない空間に向かって話をしていたアルフレットは眉間に皺を寄せた。隊長室の並ぶ寮の一角で上司からの連絡に気づいて廊下の壁に凭れたアルフレットは腕を組む。


「………いや………こっちには上がって来てないが………ユー………副団長の所に上がってるかは………確認出来てないな」


壁に寄りかかったアルフレットは通信石に向かって話す。耳元にカフスのようにつけられた石は一見装飾品に見えるが遠く離れた場所からでも魔力を込めれば会話出来る代物だ。多少、値は張るが距離なく離れた場所にいる相手とタイムリーに会話が出来るので結構使用されている。


「ああ………それ以外は特に問題ない………は?………ああ………分かった」


通信石の存在を知らなければ一人で喋るおかしい人認定だ。


「ああ………これから行くから確認する………分かった………分かったから………だから、確認してやるって!ああ、切るぞ」


通信石の向こうからユークリッドが生きてるかと繰り返す相手にアルフレットは呆れた面持ちで怒鳴り返すと石に魔力を籠めるのを止める。“アルフレ………”という所で上司の言葉を聞くのを止めた。通信石は互いに魔力を込めなくては会話出来ない。連絡が入れば石が熱を持つので分かるのだ。


「お前はユークリッドの母親か………」


何度も繰り返された言葉にアルフレットはため息を吐く。


“ユークリッドに連絡がつかない”


相手は演習中なのでこの時刻から活動していたとしてもおかしくないが、確実に副団長様は寝ているだけだろう。まかり間違っても暗殺されてはないと思うのだが………。


「とりあえず、ユークリッドの所に行くか………」


朝練に行く予定をユークリッドの部屋に行く予定に切り換えながら、上司からの連絡内容を頭の中で整理する。


「まず………指示された範囲よりも魔獣の出没地域が広いか………」


トントンと階段を上り、アルフレットは眉根を寄せる。普通、魔獣は自身の縄張りからは出てこない。自分よりも強いのか弱いのかを本能で察するらしく、最弱の魔獣達が森の中で食料を手に入れられず、街道に出て人を襲うので駆除する。農業の邪魔をする野獣達も駆除の対象となる。それでも夏の子育ての時期に住み慣れた場所を離れるとは考えにくいのだ。


「おかしいな………」  


上司からの連絡では何とも言えないが国境間近の魔獣の生息範囲が変わっているなら、演習とは別に調査隊を編成する必要がある。考えられる手を打つしかないなとぼんやり考えていたアルフレットは目的の場所についたのを確認して扉を叩く。


「朝早くにすまない。起きてるか?」


まだ朝練のある人間しか起きてない時間のため、ユークリッドの実室を直接訪れたアルフレットは扉を叩く。1度目は返事もなかったが、2度目のノックを入れると何かが落ちる音や転ぶ音が響く。


「………なにかありましたか?」


「その言葉、まずお前に返すわ」


明らかにベットから落ちて、なにかにつまづいて転けた音を響かせて現れた相手にアルフレットは真顔で返す。明らかに眠そうな顔で現れたユークリッドは普段は一つに纏められている髪を無造作に足らし、よほど慌てて出てきたのか寝間着の簡素なデザインのズボンと上着姿の出で立ちのままだ。自分の突っ込みに顔を半分手で覆ったユークリッドは恥ずかしそうにため息を吐く。

   

「とりあえず、大丈夫です………いえ………おはようございます」

  

低血圧なのかどこかぼんやりとした碧い瞳を向けられたアルフレットはそうかと肩を竦める。


「とりあえず、生きてるようで安心したわ………」


「は?」


自分の言葉に虚を抜かれた顔をしたユークリッドにアルフレットは苦笑する。


「俺と副団長の上司様から連絡があって………お前に連絡がつかない、生きてるか?と非常にご心配されててな」


「生きてますが………それは………」


アルフレットの言葉をようやく働いてきた頭で考えたユークリッドは今度は凄まじく顔を青くして身を翻す。それに扉に背を預けたアルフレットは苦笑する。また何かにつまづいた音がした後、寝室から連絡石を持って罰の悪い顔をしたユークリッドが部屋の入り口に戻ってくる。


「後で連絡してやれ」 


「そうします………」


アルフレットの言葉にがくりと肩を落としつつもユークリッドは髪をかきあげなら顔を上げる。


「こんな朝早くに連絡があったという事はなにか?」


「いや、一分一秒を争うほど緊急ではないが………すぐに調べた方がいいとは思う」


「中で聞きます。どうぞ」


アルフレットを部屋に招き入れたユークリッドの顔にも緊張

の色が浮かんだ。




「まだ寝てたんだな………」


部屋に招き入れられたアルフレットは初めて見る副団長室にキョロキョロとする。レイの部屋と同じ作りらしく、風呂に応接間と書斎を兼ねた執務室。そして寝室になっているらしい。


「昨日、遅くまで前の記録を漁ってたんですよ。慰労会の………」

 

ようやく頭が働いて来たユークリッドはアルフレットの言葉に苦笑しながらも向き直る。


ー昨夜ー


慰労会のために何を準備すべきなのかを参考にするべく、昨年の記録はなかったので一昨年の記録を漁っていたのだが………一向に自分の欲する情報には辿り着けなかった。


「で、何ですか?」


「魔獣に関する新たな報告を聞いてはないか?」


ユークリッドの言葉にスバッとアルフレットは切り込む。それに眉を寄せたユークリッドは顎に手を当てる。


「団長が出立してからですか?」


「ああ」


「………まだ聞いてませんね………」


眉間の皺を深くしながらユークリッドは首を振る。


「昨日は特に新しい情報は聞いてません。団長はなんと?」


「魔獣の出没地域がおかしいと」


「国境近くでしたよね」


いきなりの演習日程の延長に悲鳴を上げたのは記憶に新しい。アルフレットの報告に顎に指を当てたユークリッドは考え込む。


ー今年は魔獣の出没数の増加が報告されているー


その一文と伴に演習日程の延長が指示されていた。


「予定では昨日、先行した第2隊と団長とロディアで国境近くは殲滅後離脱。隣国境を刺激しないと決めていましたが」


「だよな………地図あるか?」


「ここに」


持ち帰った書類を片付けられるように設置された机の引き出しに入れておいた地図をすぐに出すとアルフレットを手招く。


「現在地はこの付近。昨日の殲滅予定地域はここです」


指で地図をなぞるとアルフレットの眉が寄る。


「おかしい………」


「なにが?」


「今日の報告では、その地域よりも数キロ手前で魔獣の団体客を殲滅してる。で、この国境から一キロと遭遇するまでの間が空白地帯だ」

 

アルフレットの言葉に地図から弾かれたように顔を上げたユークリッドは厳しい顔をする。魔術師である戦う手段を持つ自分でも魔獣の種類によっては命の危険がある。戦う手段を持たない一般人になれば更に魔獣の被害は深刻な事態を招く。


「すぐに確認します」


「俺も連絡室に行って、昨日魔術師団に何か王都からの連絡が来てないか確認するわ」


団長のもたらした情報で事の次第を粗方理解した二人は即座に動き出す。だが………すぐに連絡室に行こうとしたアルフレットはすぐにでも飛び出したい気持ちを抑えて振り返る。


「ユークリッド」


「はい」


地図を食い入るように眺めていたユークリッドはアルフレットの言葉に顔を上げる。


「とりあえず、着替えてからにしろよ」


「………………すいません………あなたは私の母親か何かですか………」


寝起き姿でアルフレットを迎えたままのユークリッドはその言葉に肩をがくりと落とした。

いつもお読み頂きましてありがとうございます。

誤字・脱字がありましたら申し訳ありません。


少しでも楽しんで頂ければ幸いです

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