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第一話 ユメ

 世界は青い。


 空もそれを映す海も。

 建物に遮られた太陽の光も。

 遠くに見える山も。


 全てが、すべてが青い。


 どうしようもなく。


 手に届かないものはすべて青く染まっていく。

 色とりどりな景色が虹色に輝くことはなく、少しずつ鮮やかさを失い、一つの色になる。


 それが青。


 そして、人も。



      * * *


「ああ……暑ぃ」


 なんでこんなにも暑いのだろう。

 まだ春になって、気温が上がり始めて数日しか経っていないのに、家の中では半袖で過ごす僕。何をするでもなく、僕はカーペットを引いた床に座って、テーブルに置かれたノートパソコンに向かってそう呟いていた。

 そう、無意識だ。

 なんで、世界はこんなに暑いのだろう。

 この世界が温暖化によって気温上昇、それによって北極及び南極の氷が溶けて海面上昇。

 それによって、領土を失っていく国も少なくないこのご時世。

 それも仕方ない。

 だって、

「だって、自業自得なんだから」

 人間のせいなんだから。

 オゾン層を破壊するガスを作ったのも人間、室温を低下させるために気温を上昇させる機械を作ったのも人間。

 そもそも資源を無駄遣いしたのも人間。

 生態系をかき乱したのも人間。

 人間によって、世界は壊れていく。

 もっとも、この壊れていく世界で長生きしたいと願っているのもまた人間なのだが……。

 そう考えると、今も懸命に生きている動植物が可哀想に思えてくる。

 人間によって壊れされ始めた世界に危機を感じながらもどうしようもなく滅びていく。

 今も世界のどこかで多くの動物が絶滅の危機に瀕していることを僕たちは考えない。

 ただ目の前のことだけを考える。

 だから、今も。

 ピッとなって、エアコンが動き始める。

 僕はリモコンの冷房のボタンを押して、涼しさという快楽を得ようと昔からは考えられないテクノロジーを使う。

 いや正しくはテクノロジーを使われたモノを使う、だが。

 世界がどれほど暑くなっているのかなんて知ったことではない。

 自分の子ども、孫、そのまた孫の代に世界はどうなっているのかなんて考えない。

 そんなことはその時に考えればいい。今は今できる対処の仕方を取るべきなのだ。だから、僕は暑さを逃れるため、冷房をつけるという策に出た。

「それにしても……」

 そうだ、なんでこんなに暑いのだろう。

 最近までは、このまま氷河期になってしまうのではないかと思うような寒さだったのに。

 そのせいで桜は花を咲かせるのが遅れ、咲いたと思えばたった二日で散ってしまった。

 あまりにも儚い人生のように、あっという間になくなった。

 今ではもうすでに葉桜となっていて、花見をし損なった者も少なくないだろう。

「ま、僕には興味がないけれど……」

 パソコンを起動させて、今日の天気予報を見る。

「え~っと、今日の最高気温はっと……げっ、二十七度っ! どーりで暑いわけだ」

 肩をすくめて、視線を窓に向ける。

 日射しが床を照らし、今日もいい天気だと言わせようとするかのように陰ることはない。外を覗くと、空には雲一つなかった。

 それにまたため息を漏らす。

 なんで今日なのだろう。

 外には出たくないのに。休みの日ぐらい引きこもっていたいのに……。

 なんてことを思いながら、気だるく重い身体をゆっくりと動かして、なんとか立つ。

 そして、部屋の隅に置かれている冷蔵庫に寄ってそれを開き中を確かめる。

 何も入っていない……ことはないが単体で食べられるものは何もなかった。入っていたの調味料のみである。

「買い出しにいかにゃならんのか……」

 別に、何も食べなければいいということなのだが、今日良くても明日は困る。

 なぜなら、明日は仕事だからだ。

 仕事先でぶっ倒れるわけにはいかない。そんなことをすれば、僕は解雇され、職を失い、路頭に迷い、死に至るだろう。

 いやそうでなくても、体調不良になるのは嫌だった。

 はぁっと息を吐くと、合わせて腹もぐぅ~っとなる。

「腹へった……」

 何も食うモノがない。

 つまりエネルギーを摂取するものがない。

 即ち、エネルギーを無駄にすることはできない。

 ということで、

「寝るか」

 僕はさきほどまで使っていた布団に入り、瞼を閉じる。

 買い物は夜にすればいい。それで事足りるし、夜になれば気温も下がって涼しくなるだろう。

 なんてことを考えながら僕はゆっくりと意識を失っていった。




「ねえ、起きてよ」

 ん。なんだ?

「だから、起きてって」

 ああ、身体をゆするなって。もっと寝かせてくれよ。

「だめ、あなたはそうやってすぐにぐうぐう寝ちゃうんだから。わたしが起こさなきゃいつまでも寝ちゃうでしょ。だーから、起きなさぁああいっ!」

 耳もとで叫ばれ飛び起きる。

「もう、うるさいよ! もっと静かに起こせないの?」

 僕は僕を起こした少女に向かってそう告げた。

 だが、少女は肩を怒らせて、

「うるさくない! 何度も静かに起こしてもおきないあなたが悪いの。わたしは何も悪くない」

 ふん! と顔を背けてくる。

 それが少し可愛らしく感じるが、それ以上に何か懐かしい感覚だった。

 別に彼女と面識があるわけではない。

 そう、面識が……

「ん?」

 どこかおかしい。

 というか、明らかにおかしい。

 彼女は誰だ?

 なぜ僕の部屋にいる? どこから入ってきた。

 それにいつもってなんだ? この子は僕のことを知っているのか?

 何がなんだかわからない違和感だらけのその空間に、僕の意識は再び溶けていく。

「え、どうかしたの?」

 心配そうに見つめてくる。

 声は震え、手は震え、何かに怯えたように僕を見つめてくる。

「ねぇ、ねえったら」

 どうやら泥棒ではないらしい。でなかったら、堂々としすぎている。それに、それをする年齢には見えない。実際はそれより年上なのかもしれないが、外見は小学生のような面持で上背もそれほどしかないのだ。

 だからこそおかしい。

 なんだ、君は誰だ。

 どうしている。どうして、僕の前にいる。

「どうして、僕の世界にいる?」

 え?

 自分でも自身の言葉に驚いた。

 何を言っているのかわからない。意味がわからない。僕は何を言ったのだ。

 僕の世界ってなんだ。

 僕の部屋のことか? それとも、僕の視界のことか?

 わからない、わからないわからない。

 もしかして――

「この世界のことか?」


 瞬間。

 

 世界は真っ白に染まり何も見えなくなる。そして、灰色がかって徐々に黒くなっていく。

 気が付けば、世界は真っ暗だった。

 窓の外に灯った街灯だけが、僕の部屋を照らしていた。

 夜になっていた。

 気温はぐっと下がっていて、時計に備えついている温度計を見ると十七度と書かれていた。

「――気温差の激しいことで」

 僕は身体を起こし、上着を手に取って靴を履く。

 そして、玄関から外へ出ると、辺りは真っ暗で空には星が輝いていた。

「えっとあれがオリオン座で……って、それしかわからない」

 僕は自嘲気味に笑いながら、歩きだす。

 昔、学校の授業で春夏秋冬の星座を習ったが、特徴的で覚えやすく見つけやすいそれしか覚えていなかった。

 思い出そうとすると、靄がかかる。あの星の名前がなんだったのかなんてことはまったく思い出せない。

 記憶は曖昧なものだ。

 何かを思い出すのには不向きなものだ。

 だが、さきほどまで見ていた妙な夢を思い出す。

 あれは何だったのか。

 狂乱する夢。

 

 夢とは、脳が記憶を整理するために行う際に発生する現象だというが、あんな記憶、僕にはない。

 先日呼んだ小説にもあのようなシチュエーションはまったくなかった。

 見たこともない少女が僕を起こしにくるなんてシチュはまったくもってあり得ない。

 あれは本当に何だったのだろうか。

 

 そんなことを考えているうちに、僕はコンビニに辿り着く。

 辿り着くという表現もおかしな距離にある場所なのだが、僕はあえて使う。

 空腹のために死にそうだとか歩くのが嫌いだとか様々な理由があるが、何より家から出たくないという理由だったから。

 休日ニートな僕は根っからのヒキコモリなのだから、そう考えるのも無理ないなのだ。 

 だから、先ほどの夢も妙なモノだったのだと言わざるを得ない。

 だが、それも買い物を終えて帰路に着く頃には忘れていた。


「さて、帰るか」

 たまたま目に留まり立ち読みしていた雑誌を戻す。そして、店内に懸けられた時計で時間を確認すると、僕はそこを出た。

 後ろのレジの傍にいた、

「ありがとーございやしたー」

 やる気のない若い男性店員から心の籠っていない挨拶が聞こえる。

 だが、無視して家への道を辿る。

 僕の住むアパートまで徒歩で三分ほどのはずなのだが……。

「あれ?」

 僕はそれも永く永く感じていた。

 だが、それは違和感でも何でもなく本当に家に辿りつけなくなっていた。歩いても歩いても着かない。

 角を一度曲がればすぐのはずなのに、アパートがまったく見えない。

 なんだ? 何が起きている。

 ふと立ち止まって、上着に入れていた携帯電話を取り出しスリープを解除する。すると、時計がそこに映し出される。

「ウソだろ……」

 僕は一時間以上歩き続けていたらしい。

 三分で着くはずの場所も帰れなくなるほど社会から外れてしまったのかと思ったが、もともと方向感覚いい方なのでそんなことはあり得なかった。

 だったら、どうして?

 小時間考えてみたが、結局答えは出ず、再度歩いてみる。

 相変わらず、時間は進む。刻々と過ぎていく。

 僕の生きている時間が失われていくように。

 もうどれほど歩いただろうか。

 変わらぬ風景を眺めながら、思う。

 

 ――人がいてくれたら。

  

 もし、昼間であれば人通りはもっと多く、これほど同じ道に立っていれば誰か一人すれ違うこともあっただろう。そして、この現象を回避することもできただろう。

 だが誰もいない。

 誰一人としてこの道を通らない。

 まだ多くの人が眠る真夜中ではないはずだが、これほど人が通らないのも不思議なものだった。

 誰もいないのであればしょうがないたどり着くまで歩き続けるしかない。

 そう、考えた。

 刹那。

「ねえ、道迷ったの?」

 不意に肩を叩かれた。

 僕は思わずびくっと肩を震わせ、恐る恐る振り返る。

 足音がしなかった。気配がしなかった。

 視線をゆっくりと下から上へ移らせると、一人の少女が立っていた。

 闇に溶けるような黒く長い髪に、それに反する白い肌に長く足まで隠すワンピース。

 見たこともない少女がそこにいた。

二日連続で書きましたよ!

なんだかんだで書くスピードが今までよりも早いです。

それほど続きが書きたいのですかね。

今回は読みにくいところもあるかもしれませんが、ぜひ読んでくださいね!

よろしく。

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