第86話 パック剥き剥き二剥き剥き
新パックの発売日から一週間もの時間が経った。
けれども勢いは衰えず。
流石に発売日の当日と同じ程ではないけど相変わらず『カードオフ』を始めとしたカードショップは大盛況。
そんな中、俺は何をしてるのかというと。
「はい、これ約束のボックスね」
「ははぁ。ありがたき幸せ」
「うんうん。よきに計らい給えよ」
「……何やってんのよあんたら」
おっと。
軽くふざけてたらメリルに白い目で見られてしまった。
こほん、と咳払いで誤魔化した俺は頂いたボックスを抱えてフリースペースに向かう。
そう。
今日はあの時の件のお礼としてシーラにボックスを買ってもらっていたのだ。
「それにしても本当に三箱で良かったのかな?」
「あー、うん。三箱で……三箱で十分だよ」
「今すごく悩んでたね」
だって仕方ないじゃん。
本当は厄介事に巻き込んだ仕返しで五、六箱くらいせびろうかと思ってたんだけど日に日に罪悪感が……。
でもボックスが欲しいという俺の気持ちに嘘をつくこともできない。
というわけで俺はボックスを三箱だけ強請ることにしたのだ。
「別に私としてはボックス五つでも六つでも良かったんだけどね」
「いや、流石にそれは……悪いだろ」
「お金なら大目に持って来たから大丈夫だよ?」
これは闇の誘惑じゃなかろうか……?
やめろ!
俺を誘惑するな!
煩悩退散!煩悩退散!
見えない札束で叩いてこようとするシーラに必死に抵抗する。
お金なんかに絶対負けない!
そんな俺の様子を見てクツクツと笑う目の前の美少女は本当にイイ性格をしてると思う。
「来たぞー」
「あ、来た!」
「来たか」
「おせーぞ」
返ってきたのは三者三葉の言葉。
そうなのだ。
今回はなんとルードとディエルというシーラ組の面子までいるのだ。
みんなで集まってやることがパック開けとかバトルなんだけど、不思議と悪い気はしない。
むしろ、同じ話題で盛り上がれる仲間がいて嬉しいくらいだ。
ボックスをテーブルの上に置いた俺はアルスの隣にドサリと腰を下ろした。
「よっしゃー開けるぞぉー」
「わあ! クロハル君もう開けるの?」
「おうよ」
「良いカードが出たら私にも見せてちょうだい」
「欲しいのがあったらトレードなら受け付けるぞ」
「わかったわ」
なんてやり取りをしながら早速一つ目のボックスに手を出す。
ぐへへへ。
慣れた手付きで包装を外していたらシーラ組の方からも声が掛けられた。
「それにしてもシーラがまた迷惑を掛けたらしいな」
「へ? あー、うん。ちょっとな……」
うげっ。
済まなそうにしているルードには悪いけどその話題に関してはあまり深堀しないで欲しい。
流石に婚約者うんぬんの話とかはシーラや俺の名誉のためにも大っぴらにはしたくない。
だから、
(わかってるよな?)
チラッと目を向けて凄む。
シーラはパチンとウィンクした。
違う。
そうじゃない。
「? どうかしたか?」
「いやっ、なんでもない」
「そ、そうか。もし何かあったら俺にも相談してくれ。できるかぎり力にはなる……つもりだ」
「おう。その時は頼むわ」
さっきの間がちょっと気になったけど敢えて無視する。
いつも苦労しているであろうルードにはいつか報われて欲しいところだ。
(さーて、何が入ってるかなーっと)
箱を開け、パックを開いて、カード見る。
いくらハズレ寄りのパックとはいえ、ボックスで買えばそれなりに良さげなカードは出てくれる。
「うーん……悪くはないんだけどなぁ」
「どお? クロハル君の使いたいカードとか見つかった?」
「いや、全然。このパックには火属性のカードしか入ってなかったよ。もしかしたらアルスの欲しいカードがあるかもしれないけど見るか?」
「え、見たい見たい!」
「ほいよ」
目をキラッキラさせるアルスに開けたてホヤホヤのカードを渡す。
火属性のカード、と言ってもそこまで良いカードはなかったんだよなぁ。
その証拠にほら。
アルスが俺の渡したカードを返してきた。
「どうだったよ」
「ごめんねクロハル君。全部持ってるカードだった」
「だろうて」
さっきまでのウッキウキが嘘かのような落胆ぶり。
相変わらず感情表現が豊かだなコイツ。
本当にアルスは見てても飽きないし一緒にいても飽きない友達だ。
「剥ーき剥き剥き、剥ーき剥き剥き、剥ーいて剥ーいてアーモンド」
「何よその変な歌は」
「ん、メリルはなんかカード当てた?」
「しかも気にしないのね……残念ながら当たりはナシ。『ファットスライム』が六枚も被っちゃったわ」
「うわー、そりゃあまたすごい」
メリルは五パックしか開けてないのにそんなに被ったのか。
中々にすごい被り方だな。
アプリの『キンマス』だと被ったカードをポイントに変えて他のカードとトレードできたんだけどな。
(いや、カードをお金に変えれば新しいカードを買えるからこっちもそこまで変わらないか?)
需要や供給に合わせて価格が変動するところも同じ。
そう考えるとこの世界って思ったより俺の知ってる『キンマス』のシステムと同じだな。
こんなところでシンパシーを得とうなかった……。
そんな調子で残りのボックスもパパッと剥いていく。
やがて生まれるは小さなカードの山。
使いそうなカードと使わなさそうなカード。
二つの山に分け終えた俺はプフーっと息を吐いた。
「随分とカードだくさんになったね」
「三箱も開けたからな」
「良ければ俺もカードを見せてもらってもいいだろうか? さっき気になるカードが見えてな」
「別にいいけど戻す時は綺麗に戻してくれよ。持っていくときに大変だからさ」
「心得た」
「……俺にも見せろ」
「えー。じゃあ代わりにお前のゲットしたカードも見せてよ」
「くっ、やむを得ないか……」
俺の残したカードの山にルードとディエルが興味を示したので快く大公開。
「私もちょっと覗いてもいいかな?」
「あ、どうぞどうぞ」
シーラも興味があったみたいなのでルードたちに混ざってもらう。
さて、パック開封も落ち着いたところで。
「デッキ作るか」
お待ちかねのデッキ構築。
俺は使いそうなカードの山を手繰り寄せると、そこから一枚一枚カードを選ぶ。
(これは入れて。こいつはいらないかな。これは……一応入れとくか。後で抜けばいいし)
優柔不断という言葉は俺のためにある。
最初はまとまりそうに見えたデッキも気が付けば四十枚オーバー。
おかしいな。
俺としてはそこまでカードを入れたつもりもないんだけど。
仕方ないので今度はカードを抜く作業。
カードを抜いて抜いて、たまに入れ直してまた抜いて。
そうやって黙々とデッキ作りに勤しんでいるとアルスがグイッと顔を寄せてきた。
「あれ、何してるの?」
「デッキ作ってる」
「え、もしかして新しいデッキ!?」
「まあ、そうなるかな。今すぐに完成はできないけど」
「へえ! そっか! いいなぁ!」
羨ましそうにアルスが目を輝かせてくる。
それを横目に見ながら、当時の環境で使われていた闇デッキのレシピを必死に脳内検索。
(大コントロール時代だったのは確かなんだよなぁ)
カウンタースペルやアサルトスペル、それに∞スペルなど強力なスペルカードの登場によってもたらされたのはコントロールデッキによる環境の支配。
……は過言だったかもしれない。
ただ、コントロールデッキが猛威を振るったことに変わりはない。
それまでの『キンマス』では相手のターンに使えるようなカードというのがあまり多くはなかった。
仮にあったとしても大体が条件付きで、自由に打てるようなカードはゼロ。
そこに現れた相手ターンに打てる妨害カードは劇的なくらいに環境を一変させたわけだ。
(一応、俺の『死皇帝』デッキも環境には入ってたんだけどねぇ……)
俺が愛用している『死皇帝』デッキは元々コントロールに近いミッドレンジのデッキ。
『苦鳴の龍ベルギア』や『死の皇帝ネメシス』といったカードを使ってゲームの流れを抑えつつ、隙をついて一気に攻め込む――というのが従来の戦い方。
しかし、その『死皇帝』デッキはこの環境ではデッキに採用するカードの比率を切り替えることで環境の荒波を堂々と泳いでいったのだ。
(うーん、普通に化け物かな?)
それまでの環境デッキたちが軒並み勢いを失う中で一人だけ悠々と生き残る『死皇帝』。
対面でそのデッキとぶつかった時に「お前らまだ生きてたのかよ」と軽く言葉を失ったのを今でも覚えてる。
(とはいっても『死皇帝』自体が元々少ないカードでも回せるデッキだったからなぁ)
展開のスタートに必要となる『死皇帝の愛犬』三枚と『死皇帝の愛猫』三枚。
デッキの潤滑油となる『死皇帝の家臣』三枚と『死皇帝の細工人』を一枚から二枚。
そこに当時新しく登場した『死皇帝』のエースカードを一枚の全部で十一か十二枚。
これさえあれば『死皇帝』デッキは最低限の形にはなる。
そう。
ここまで言えばわかると思うが、残りの二十九から二十八枚は自由枠。
つまり、好きなカードを入れることができちゃうのである。
それが『死皇帝』たちが新環境を生き残れた理由だ。
ちなみに当時の他のデッキに自由枠なんてものはほとんどなかったことを明記しておく。
(今になって考えると『死皇帝』って相当未来に生きてたテーマだよな……)
新しいデッキを作る手を止め、ケースから俺の愛用デッキを取り出す。
(そういや、『あの』カードもちょうどこの時期に収録されたカードだったはず)
俺の『死皇帝』デッキを完成させるために必要な最後のピース。
それを思い浮かべた俺は、逸る心を抑えながらデッキ作りを再開したのだった。
評価や感想、誤字脱字や要望などありましたらよろしくお願いします!




