第85話 新しい一日
ついに来た。
ふわーはっはっはっはっ!
ということで。
はい。
本日は待ちに待った新パックの発売日の当日。
だがしかし。
まだ開店してもないのに『カードオフ』の前にはすでに長蛇の列ができている。
すげーなオイ。
まだ朝の七時半だぞ。
こんな朝早くからカードショップに来る人なんているんですかな、なんて思ってた俺が悪かったです。
この世界は『キング オブ マスターズ』を中心に回っている。
つまり、人たちにとって新カードというのは目新しい、なんかじゃ済まない存在なのだ。
完っ全に失念しておりました。
おかげでアルスと一緒に来たのはいいけど俺たちの現在地は長い列のド真ん中。
ものすっごく暇だし、開店したとしてもすぐに入ることはできそうにない。
そういうわけで俺とアルスは列に並びながら、ちょうどライセンスカードに届いたメールを二人して見ていた。
内容は、というと。
「仮想体システムのメンテナンス終了のお知らせ、ねぇ」
まあ、昨日ウェルさんから聞いた件そのものだ。
知ってはいたけどモノがモノなだけに気になってたんだよね。
俺はメールを開くと、その中身を下にスラーっとスクロールして流し見る。
(へぇ、一部フィールドの機能ってそういうことだったのか)
こういうのをちゃんとお知らせしてくれるのはありがたいな。
サイレント修正なんかされちゃうと普通にこっちが困る。
アプデ方面の修正ならいいんだけどね。
と、考えていたら急にトントンと肩を叩かれた。
「ねえねえクロハル君」
「なによ」
「この『パニッシュゾーン』ってなに?」
「あれ、アルスは知らなかったっけ?」
「うん。知らないよ」
そうだっけ?
前にルールとかを教えた時に教え……教え……。
(教え……ってなかったなそういや)
せや、思い出した。
その時は『パニッシュゾーン』に関係するようなカードがなかったからすっ飛ばしてたんだった。
危ない危ない。
どうせ開店するまでは暇だし、せっかくの機会でもあるので俺はアルスに教えることにした。
『パニッシュゾーン』。
それはこの『キング オブ マスターズ』における第二のドロップゾーンと言える場所のことだ。
他のゲームだと『除外』とも呼ばれてたりしている。
まあ俺らキンマスプレイヤーたちもパニッシュゾーンって言うのめんどくさいから除外って言ってたんだけどね。
閑話休題。
当初の『キンマス』には使い終わったカードを捨てる場所として墓地であるドロップゾーンしかなかった。
だし、ドロップゾーンだけでも十分な部分はあった。
けれども。
俺の使っている『死皇帝』デッキを始め。
時代の変遷と共に墓地を悪よ、活用するカードが増加。
さらには墓地を悪よ、使いこなすデッキも数が増えてしまった。
そこで公式の取った対応が新たな墓地である除外の増築。
すなわち、
――『パニッシュゾーン』という新しいゾーンを作ることだったのだ。
(最初の頃はすっげーワクワクしたんだけどなぁ……)
マスターたるもの、新しいカードや新しい効果には目がない。
だから当初は除外カードを使いまくってお祭り騒ぎだった。
だったんだけど。
その熱が冷めた後は物凄くすごかった。
フィールドのカードを除外、相手の墓地を除外、何でもかんでも除外除外。
おかげで墓地利用を愛していたプレイヤーたちが荒れに荒れたり……なんてこともあった。
まあ、公式の目論見は大成功したというわけだ。
しかーし!
なんてことを全部話すわけにもいかない。
流石にね。
なのでパニッシュゾーンの役割とかその辺をかいつまんで話した。
アルスは「ほへー」と感心していた。
(多分わかってないなコイツ)
やはりマスターである以上はごちゃごちゃ教えるより一回バトルした方が早い。
俗に言う百聞は一見に如かずってヤツだ。
俺たちカードゲーマーは思ったよりもパッションでバトルするヤツが多い。
複雑な効果とかは教えてもらうより実際に使ったりやられたりした方がわかりやすいのである。
決してバカだとかそんなわけじゃない……はず。
「あっ、開いたよ」
「おっ、やっとか」
なんてことをしてたらいつの間にか開店時間になったらしい。
ウィーンと音を立てて開く自動ドア。
そしてなだれ込む人の山。
(すげえ光景だなこれ)
まるで開園したテーマパークに突撃するが如しだ。
グングングングンと人が入っていく。
だが、『カードオフ』自体はそこまで大きいお店ではないので人の山が入り切るわけもなく。
「なんかすごいね。いっぱい人が出たり入ったりしてるよ」
「だな。俺もこんな光景は初めて見たよ」
「そうなんだ」
「流石にな」
むしろ出不精だった俺からすれば縁遠い、だなんて言葉も過言じゃないくらい。
ただ、暇なのは変わらないのでアルスと適当に雑談を続ける。
「アルスはどんなカードが欲しい?」
「え、僕? 僕はねー……イグニをもっと強く使えるようなカードが欲しい、かなぁ」
「お前ホントに好きなんだな」
「うん!」
あら、良い返事。
「そういうクロハル君はどんなカードが欲しいの?」
「そうだなー。デッキを強化できるカードも欲しいけど……実際にカードを見てからじゃないとなんとも言えないな」
「そっかー」
「ところでさアルス」
「んー? なに?」
「カレーの話をしようぜ」
「えっ……カレー……?」
本当はどんなカードがあるのか大体は知ってるし、欲しいカードもある。
けど、それをここで言ってしまったら何故知ってるのかって話になってしまう。
そういうわけでお口チャック。
新カード関係は無難な話だけに留めて、あとは適当な雑談で誤魔化すのだ。
「あ、順番が来たよ!」
「やっと中に入れるな……」
なんてことをしてるうちにようやっと自動ドアの前に立つことができた。
この世界の季節は前世ほど激しくはないとはいえ、暑いものは暑い。
さっさと中に入れば、空調の効いた涼しい風が俺たちを迎えてくれた。
「はわー、涼しいー!」
「あ″ー! マジで生き返るー!」
遠くから聞こえるブンブンという機械音が逆に心地いいくらい。
だけど、それを堪能してるわけにもいかない。
「よし! 早速行くぞアルス!」
「うん!」
俺たちの目的はただ一つ。
人混みに押されながら前へ前へ。
「レオさんおはようございます」
「おはようございます!」
「おっ、クロハル君にアルス君じゃないか。おはよう」
にっこりと笑う『カードオフ』の店員にして店長であるレオさん。
今日も『か~どおふ』って書かれた黄色いエプロンもどきが輝いてる。
「君たちも新しいパックを買いに来たんだよね?」
「はい! もちろんです!」
「僕も!」
むしろそれ以外に目的がないという。
「悪いけど今日は箱では売ってないからパック買いで許しておくれよ」
「え、箱買いはダメなんですか?」
「そうだね。それをやっちゃうとすぐになくなっちゃうから……」
「あっ」
察し。
流石にこの世界がカードを中心に回ってるとしても在庫の問題ばかりはどうにもならないってことか。
(こればっかりは仕方ないか)
世知辛い。
「じゃあパック三つで1500ルーツだね」
「はい」
「まいど。悪いんだけど今日はお客さんも多いからパックの開封は外でよろしくね」
「わかりました」
まあ、人がぎゅうぎゅう詰めなところでのんきにパック開封なんてできるわけもない。
それぞれパックを購入した俺たちは人の海を泳いで店の外へと飛び出した。
「うわっ、あっついよ……」
「どっか近くの店に入ろうぜ」
「そうだね」
炎天下の真下でパック開封なんて冗談じゃない。
適当なカフェを見つけ、そこに入った俺たちはそそくさと店内の奥にあるテーブルを取った。
「カード♪ カード♪ 新カード♪」
「何が入ってるか楽しみだな」
「うん!」
なんかすっごいウキウキしてるアルスだけど、実は俺も似たような気分だ。
やはりパック開封。
パック開封は全てを解決……するのはバトルだから違うか。
まあなんだ。
いつか万病にも効いてくれるだろう。
多分。
「うわぁ、知らないカードがいっぱいだぁ!」
「どんなカードあったん?」
「えっとね、カウンタースペル? だって。あとアサルトスペルっていうカードもあるよ! ほら!」
「ほお」
早速当てたんだ。
負けじと俺もパックをペリッと開ける。
(うーん……ちょい微妙かなぁ)
闇属性のカードは何枚かは混じっている。
だが、俺の『死皇帝』デッキを強化できるか、と言われたらそれも微妙なカードばかり。
(やっぱ箱買いしてぇー)
隣でわきゃわきゃしているアルス。
その横でこっそりと溜め息をついた俺は切実な願いを秘めながら次なるパックへと手を伸ばした。
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