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『キング オブ マスターズ』  作者: 大和大和
~アドバンスド・スペリオル~
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第84話 テストにはご褒美を





(終わっ、たぁー!)


 ぶはー、と息を吐いて天井を仰ぐ。


(途中どうなるかと思ったけど何とか勝てたぁー)


 正直『ニードルトラップ』された時とか、ベルギアに『賢者の対抗術』かまされた時とかは軽く負けを覚悟した。

 けれども、こうやって勝てたのは相手のデッキがカウンタースペルに寄せられていた……っていうのが大きいと思う。


 カウンタースペルは確かに強い。

 だけど、本質的には時間稼ぎやその場しのぎのカードでしかない。

 これはアサルトスペルにも言えることだ。

 あっちは手札から打てるカウンタースペルみたいなものだし。

 まあ、相手のライフにダメージを与えるカードとかもあるにはあるけど……それを頼りにバトルするのは流石に厳しかろうて。


 しかも採用されてたユニットも多分だけど全部バニラ。

 『先制』とか『ガード』みたいな固有能力はあっても何かしらの効果を持つカードは一枚もなかった。

 それではカウンタースペルでチャンスを作ったとしても活かしきれないはず。

 ……いや、どうだろう?


(今回は『死神デスピート』のおかげで勝てたようなもんだしなぁ)


 カードをまとめ、トントンと端を揃えながらチラッと目に入った今回の立役者に想いを馳せる。


 俺のデッキに入ってる『死神デスピート』は速攻デッキへの反撃(カウンター)とコントロールデッキ対策を兼ねたカード。

 要するに、相手の戦術を一気に崩すためのカードだ。

 今回のバトルはそれがうまく噛み合った、というか、機能したというかなんというか。


 ただ。

 あの状況、あの場面では『死神デスピート』じゃなきゃ返し切れなかったのも事実だった。


(……ありがとな。俺()()()にこたえてくれて)


 俺は一瞬だけ目を閉じて――デッキをケースに戻した。


「いやー、やっぱりクロハルさんは強いですねー」

「まあ最後のは引きに助けられただけですけど」

「そういった運も実力ですよ。お疲れ様でした」

「ウェルさん」


 目の前にコトンとお茶の入ったコップが置かれる。

 せやった。

 ウェルさんもいたんだったわ。

 すっかり忘れていた。


「あの、えっと、試運転ってこれで良かったんですかね……?」

「ええ、大丈夫ですよ。問題ありません」

「そ、そうですか」


 なんだろう。

 その言い方されると逆に不安になる。

 本当に大丈夫なんだよね?


「コリートさん。レンタルデッキの感触はどうでしたか?」

「そうですねー……悪くはないと思いますよー。でも、もう少しドローできるカードを入れた方が良いかもしれないですねー」

「なるほど」


 あ、感想戦してら。

 もしかして俺も聞かれるのか?

 なんて思っているとウェルさんの顔がこっちを向いた。


「クロハルさんはどうですか?」

「んー、そうですね……」


 やっぱり聞かれるか。


(どうしよう。大したコメントなんてできないんだけど俺)


 頭を掻きながらさっきのバトルの脳内ログを一生懸命に遡る。

 カウンタースペル……に関してはパワカもあったし特に問題はない、とは思う。

 ユニットは……レンタルデッキということを考えれば別に問題はないか。

 むしろ効果であーだこーだするのを省ける分、バニラの方がいいのかもしれない。

 とすれば。


「ドローカードを増やす……のがいいかもしれません」

「コリートさんと同じ意見ですか」

「そうなりますね」


 コントロールデッキにおいて大事なのはリソース。

 手札の数はそのまんま可能性の数だし、使えるカードが多ければその分、戦い方の選択肢も広がる。

 さっきのバトルも思い返してみれば、手札のやりくりで苦心してる……ような感じがした。

 のだけれども。


(合ってる自信ねぇー)


 でも改善点を挙げるとするなら正直それくらいしかないと思う。

 カウンタースペルもそうだけど『キンマス』では全体的にスペルを使うのに必要なコストは少ない。

 ドロー系のスペルだって基本的には2コストか3コストくらいだ。

 だから、カード同士の相性として見てもドローカードを増やすのはベターな選択……のはず。


(前世の時だって基本的にはドロー系を軽く打って残りのマナをカウンターとアサルトに回す、ってスタイルが多かったしな)


 バトルゾーンが空っぽでもカウンターとアサルトがあれば十分に相手の攻撃を防ぐことはできる。

 まあ、ドロー系スペルは普通のスペルよりちょっとお高いけどそこは予算だの経費だのに頑張ってもらうしかないかなって。


「なるほど……」


 何やら神妙に頷くウェルさんが胸ポケットから取り出したメモにペンを走らせる。

 おー。

 なんかできる人っぽく見えてカッコいいな。

 俺も今度マネしてみよ。


「わざわざ御足労いただいた上に試運転にも付き合ってくださってありがとうございます」

「いえいえ、それほどでも」


 お互いにペコペコと頭を下げ合戦。

 俺としては新カードを一足早く見れたし、おまけにバトルだってできたから結構満足してるんだよね。

 なのでプラマイゼロです。

 そう伝えるとウェルさんは優しい笑顔を浮かべた。


「そう言ってくださると助かります」

「いえいえ」

「おっと、そうでした」

「ん?」


 なんだなんだ。

 急にハッとなられてもこっちは反応のしようがない。

 そんな俺を置いてけぼりに。

 奥まったデスクの引き出しを開けて何かをゴソゴソ。

 ってあれは、


「それ、ボックスですか?」

「はい。明日発売予定の新パックが入った箱です」

「えぇ!?」


 うそ!

 いいんですか?

 デッキの試運転に軽く付き合っただけなんですけど!

 これじゃあプラスマイナスゼロどころかプラスだ。


「いいんですか!?」

「元よりタダで試運転にお付き合いしていただくつもりはなかったので遠慮なくお受け取りください」

「では遠慮なく」


 ウェルさんがそう言ってたからね。

 仕方ないね。

 差し出された新パックの箱を恭しく受け取る。


(新パックの箱、ゲットだぜ!)


 どこぞの黄色いネズミを肩に乗っけて言いたいところだけどいるわけもなく。


「では改めまして、本日はありがとうございました」

「こちらこそありがとうございました」

「案内は必要でしょうか?」

「いえ、大丈夫です」

「そうですか。もし案内が必要でしたら最寄りの職員にお尋ねください」

「わかりました」


 すごいなウェルさん。

 最後まで親切たっぷりだ。

 ボックスを抱え、部屋を出る前に頭を下げる。

 よし。

 こうすれば俺も最後まで礼儀たっぷりな人に見えるはず。

 俺はにこやかなウェルさんとコリートさんに見送られながらウッキウキで退室したのだった。




 ☆☆☆




「行っちゃいましたねー」


 扉の向こうに消えた少年の背中。

 残された無機質な扉を見ながらウェルの口が開く。


「お客さんを長居させるわけにもいかないでしょう」

「それもそうですけどー。あ、お茶飲んでもいいですかー?」

「……勝手になさい」

「わーい」


 言質は得たとばかりにごくごくと細い喉を冷めかけのお茶が駆け抜ける。

 その様を隣で見せつけられたウェルの口から大きな溜め息が飛んだ。


「全く。あなたという人は本当に遠慮がないですね……」

「ですですー。遠慮なんかしてたらいつか後悔しちゃいますからねー」

「…………それはあなたが()()してるから、ですか?」

「ノーコメントですー」


 一体どこまでが本音で、どこまでがウソなのか。

 長い付き合いではあれど未だに判断がつかない。


(……無理をしてる、というわけではないのは確かなのですが)


 お茶を飲み干し、ポケットから取り出したお菓子を頬張る同僚。


 その姿からは




 ――『かつて』の姿は見えない。




「……」

「? どうかしましたかー?」

「……いえ、なんでもありませんよ」


 過度な心配は不要。

 そう結論付けたウェルは自身の『邪推』を取っ払う。

 モグモグとして、ゴクンと味わいの終わりを見たウェルはコリートに声を掛けた。


「コリートさん。クロハルさんの実力はいかがでしたか?」

「んむ、そうですねー」


 そう言いながら。

 ポケットから次のお菓子を取り出し、プチリと袋の口を開ける――そこでコリートは手を止めた。


「見立て通り、って感じでしたねー」

「……見立て通りですか」

「はいー」


 袋に入っていたお菓子は小さな餅。

 それを一口含んだコリートはモグモグと口を動かす。


「じゅいぶんとなれちぇる感じぢぇしたー」

「食べてからにしなさい」

「んっ……とー。随分と慣れてるって感じでしたねー。個人的な感想ですけどー」

「慣れてる、ですか」


 それは一体、どういう意味なのか。

 より具体的にその内容を聞こうとしたウェルは口を開き。

 その前にコリートの言葉が続いた。


「なんと言いますかー。妨害する動き、ですかねー。それに慣れてるって感じがしましたー」

「はい? 妨害する動きに慣れてるですか?」

「はいー」


 適当な相槌を打ち、もう一個のお餅をパクリ。

 どこまでも気ままで。

 自由、いや、自由すぎるその態度に、流石に物申そうとしたウェルは、







「まさか一枚一枚カウンタースペルを――『吐かされる』とは私も思いませんでしたよー」

「っ!?」





 その目を大きく見開かされた。







「そ、そんなバカな! あのカード群はまだこの地域には流通してないカードなんですよ!?」

「ですですー。私だって『セントラル』にいた時のようなバトルをすることになるなんて思ってなかったですよー」

「そ、れは…………」


 『セントラル』。

 その名が出たことで言葉を失ったウェルは開きかけた口を閉じる。


 彼女が口にした街の名は、この世界における中心の都市。

 最も多くのカードと最新のカードが流通している街でもある。

 だからその名を出したのか。


 それとも――別の意図があるのか。


(……判断がつかないですね)


 一人考え、胸中でごちる。

 そんな彼の気を知ってか知らずか。

 コリートはお菓子を堪能し続ける。


「もしかしたらクロハルさんは『セントラル』、あるいはそれに近しい環境でバトルしてきたマスターなのかもしれませんねー」

「……そんなに、ですか」

「はいー。そう考えれば前に感じたちぐはぐなところもなんとなーく分かる感じがしてくるんですよー」

「なる、ほど……」

「あーでもー、『セントラル』にいるマスターでもクロハルさん程のマスターはほとんどいないのでー、そう考えるとー……下手をしたら『それ以上の環境』で育った、なーんて可能性もあるかもしれませんねー」

「…………そう、ですか」


 でも個人的な感想ですよー、と。

 そう言葉を付け足したコリートは最後に残っていたお菓子を口に入れ、顔をほころばせる。

 その隣でウェルは、


(……そんなことを報告したら『あの方』は躍起になるでしょうね)


 これから起こりうるであろう未来を思って大きく溜め息をついた。








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