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『キング オブ マスターズ』  作者: 大和大和
~アドバンスド・スペリオル~
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第79話 レンタルデッキ





 レンタルデッキ。

 それは読んで字のごとくレンタルするデッキのこと。

 つまり、レンタルできるデッキのことだ。


 ……何言ってんだ俺。


 というかデッキの貸し出しなんてやってたんだな、マスターズ協会って。

 確かにこの世界は『キンマス』を中心に回ってるとはいえ、デッキを持ってない人だっている。

 みんながみんなマスターってわけでもないしね。

 でも、この世界だとデッキはほぼ必須級のもののはずじゃ?

 そんな俺の疑問を感じたのか、ウェルさんは静かに微笑んだ。


「レンタルデッキがあるのも不思議に思いますか?」

「え? あ、ええ。街にいる人で持ってない人があまりいなかったので……」

()()()()()そうでしょうね」


 この街では、か。

 なんか引っ掛かる言い方だな。

 正直なところ、下手に宝くじとか狙うよりマスターになってバトルした方が一攫千金を狙えるレベルだ。

 実力は必要だけれども。

 だけど、実際に俺なんかは金を賭けた賭け(アンティ)バトルだけで生計を立てている。

 だから別にお金がなくても……


(いや、待てよ?)


 ふと脳裏に過った一つの可能性。

 もしかして、そういうことなのか?


「もしかして――カードを買えないくらい貧しい人もいるってことですか?」

「えぇ、そういうことです」


 ニッコリと、笑顔を浮かべたウェルさんはポツポツとそこら辺の事情を語り始めた。




 ☆☆☆




 長くこの世界で生きてわかったことでもあるけど。

 前世とこっちとでは少しばかり物価が違う。

 日用品あたりは特に差は感じなかった。

 けど、問題はそっちじゃない。




 特に問題なのは――カードだ。




 こっちの世界ではカードに関してはバリクソに高い。

 コモンとかアンコモン。

 要するにレア度の低いカードはそこまでだけど、『SR(スーパーレア)』とかになると一気に値段が跳ね上がるのだ。

 例えば、『焔剣の戦士バンガル』。

 俺が前にパックで当ててアルスにあげたカードだ。

 このカードは前世のアプリでのトレードだと大体1200ポイント……くらいだったかな。

 登場した当時の、という前置きは付くけど。

 でも、こっちだとこの前ショーケースに飾られてた時の値段が120000くらい。


 そう、まさに桁が違うのである。

 具体的には一桁二桁くらい。


 レア度が低いカードの価格もそこまでとは言ったけど安くて一枚600ルーツとか。

 デッキを組むのに必要なカードは四十枚。

 そう考えると、レア度が低いカードだけでデッキを組むにも一つで大体24000ルーツは吹っ飛ぶ計算だ。


 ならパックでお安く買えばいいじゃないかって話になるんだけど。

 ただ、パックも店頭価格は一つで500ルーツ。

 一つのパックで八枚封入という超親切設計だけど、内訳はほぼ低レアしか当たらないハズレパックもどき。

 俺が『焔剣の戦士バンガル』を当てれたのはほぼ奇跡と言っても過言じゃない。

 そんなパックを少なくても五個は買わなくちゃいけない。

 となれば最低でもデッキ一つで2500ルーツは吹っ飛ぶ。

 しかも、完成するのは紙を集めただけの紙束そのもの。


 つまり。

 生活費を稼ぐだけで精一杯な人からすれば、カードにまでお金を回すことができないというわけだ。

 デッキを作るなんて夢のまた夢。

 なのに生活必需品。


 そこでマスターズ協会の打ち出した施策というのが『レンタルデッキ』なのだそうだ。


(……なるほどなぁ)


 思わずコクンコクンと頷いてしまう。

 まさかレンタルデッキが救済制度的に使われてるとは思わなかった。

 ゲームの方だとチュートリアルとかソロモードくらいでしか使わなかったしね。


「もちろん、持っていない全ての人にお貸ししているわけではないですが」

「あ、そうなんですね」

「はい。残念ながらカードも有限の物資ですからね。どうしても限り、というものが出てしまうのですよ」


 あっ……なんか世知辛い。

 ウェルさんは俺の顔をチラリと見て苦笑する。


「では早速ですが本題の方に入りましょうか」

「あっ、はい」


 そう言うと、ウェルさんがポケットに手を入れる。

 そこからいくつかのデッキケースを取り出すと一個ずつテーブルの上に置いた。


「それがレンタルデッキですか?」

「えぇ、そうです」

「ほぇー」


 俺の前に出されたデッキケースは全部で三つ。

 赤色のケース。

 青色のケース。

 緑色のケース。


(……ここに三つのデッキがあるじゃろ? って感じか?)


 この三つの中から好きなデッキを選ぶのじゃ、ってことらしい。

 なんか既視感あるけど多分、気のせいなんだろう。

 きっと。


「これ見てもいいですか?」

「どうぞ」


 なんとなく。

 そう、他意はない。

 他意はないんだけど、なんとなく赤色のケースを手にした俺はパカリとフタを開く。

 入っていたデッキを取り出した俺はパラパラとその中身を見て、


「っ!」


 大きく目を開いた。


「これって……もしかして、これが次のパックに入ってるカードですか?」

「はい。その通りです」


 ウェルさんの言葉を聞きいて。

 なるほど。

 そうなのか、と。

 勝手に納得しながら一枚、また一枚とデッキのカードを見ていく。


(ついに来たのか……)


 ふと目に留まったのは一枚のスペルカード。

 パッと見れば、特に変わったところのないスペルカードだ。


 だが、よく見れば違う。


「これって……」

「おや、ご存知でしたか?」

「えっ!? あ、はい。聞いたことがあるというか、見たことがあるというか……」

「なるほど」


 マズイ。

 つい口走っちゃった。

 まさか新カードがこれだなんて思ってなかったんだよ!

 どうしよう。

 とりあえず誤魔化したし大丈夫、だよね?

 ウェルさんの顔色をチラチラ。

 ただ、俺なんかがそのニコニコ顔から何かを読み取るなんて芸当ができるはずもなく。

 誤魔化されてくれと諦めることにした。


「あの、他のデッキも見ていいですか?」

「ええ、いいですよ」


 どうぞ、とお許しが出たので遠慮なく手を出す。

 まずは青色のデッキケース。

 中からデッキを取り出し、ササッとカードを見る。


(こっちにはこれが……)


 カードを整え、ケースの中にスライドイン。

 青色のケースを戻して今度は緑色のケース。

 同じようにケースから出して、中身をパラパラと流し見る。


(こっちはこれなのか……)


 新カードを入れたレンタルデッキ。

 そう言ってただけあって、デッキにはちゃんと新カードが入っていた。


 それも――違う系統の()()()カードが。


(これはまた、環境が変わるな)


 デッキケースを元の場所に戻し、それをジーッと見つめる。


「どうでしたか?」

「へ? あ、はい。驚きました」

「そうでしたか」


 そう言って。

 ウェルさんはデッキケースの向きを整えると改めて俺の方を向いた。


「さて、今ご覧になったのでお分かりだとは思いますが」

「はい」


 スッと三つのケースを開け、それぞれのデッキから何枚かのカードを抜き出す。


「こちらが此度のパックに封入される新しいカードとなります」


 その言葉と共に俺の前に置かれたのは四枚のカード。

 それは、


(そっか。もう来るのか)




 ――新しい環境を切り開く、新しいスペルカードだった。







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