第77話 後腐れとは?
全く。
なーんで立体バトルでバトルしちゃったんだか。
パラパラーっと金髪イケメンのカードが散ってしまったので、一緒になってかき集める。
これさ、負けた方は本当に大変だよな。
だっていちいち落ちたカードを拾わなきゃいけないんだもん。
バトルがほぼ全自動で進むからそこはすっごい楽なんだけどね。
「ほら、これが俺の拾ったヤツ」
「あ、あぁ、ありがとう」
……なんか妙にしおらしいなコイツ。
俺の手渡したカードを静かな様子で受け取る金髪イケメン。
だけど、今ちょっと「うっ」って言ったの聞こえたぞ。
悪かったな、向きが揃ってなくて。
めんどくさかったんだよ。
そこは敗者の義務として甘んじといてくれ。
心の中で言い訳する俺を余所に向きを整えてからカードをケースにしまった金髪イケメンが顔を上げる。
少しばかり陰のある顔が思ったより様になっていてちょっとムカつく。
そう思っていると、ポツポツと金髪イケメンが話しかけてきた。
「君は、強いね……」
「そうか? そう言ってくれるのは嬉しいけど」
「僕とは大違いだ」
そうか?
金髪イケメンも中々に強いマスターだと思ったけど。
まあ、俺の場合はランクマッチとかいう地獄みたいな魔境を走ってたからな。
前世の話だけど。
だから並よりはやれる寄りだとは思ってる。
この世界の実力レベルがどのくらいかは知らないけどね。
なんてことを考えていたら急に金髪イケメンが頭を下げて……えっ?
「庶民、と。そう言って悪かった」
「いや、俺はそういうの気にしないからいいって。俺も自分のことは庶民だと思ってるし」
というか庶民としか思ってないですです。
周りから金を巻き上げなきゃ生活費が足りないくらいに金持ちとは程遠い生活をしてるぞ俺は。
「そうなのかい?」
「そうだよ」
頭を上げた金髪イケメンがパチクリと目を瞬かせる。
うん、なにやっても様になるのムカつくな。
これだからイケメンは。
「それと、だね」
「おん?」
まだ何かあったっけ?
そういえばなんか結構大事なことを話をしてたような、してなかったような。
「悔しいけど認めるよ。いや……認めざるを得ない、と言うべきか」
「何を?」
「君と彼女の――婚約だよ」
「? ……………………あっ」
そうだったー!
忘れかけてたけどそんな話してたわ!
というかそういう話だったわ!
やっべえ!
これちゃんと誤解を解かないと俺とシーラが婚約者みたいな感じになっちまうじゃん!
「ちょ、ちょっと待ってくれ! 俺とアイツは別にそういう関係じゃ」
「大丈夫! 僕はわかってるよ」
「そ、そうか!」
「あぁ! 確かに君と彼女では何かと煩わしいこともあるかもしれない!」
「はっ?」
「でも、もし! 助けが必要ならば何時でも呼んで欲しい! 力が必要なら僕が手を貸そうじゃないか! 他でもない、この僕がね!」
「待って?」
「だからと言ってはなんだけど彼女との結婚式の日には是非とも僕も呼んで欲しいんだ。僕はこれでも彼女との付き合いがそこそこある方でね」
「違う! 俺がしたい話違う!!」
あーもう!
こいつ全っ然、人の話聞かないんだけど!
完っ全に俺とシーラが婚約者みたいに思っちゃってんじゃん!
おいおいおいおい!
どーしてくれんだよこれ。
俺はシーラの好きな物とか好きな音楽とかも知らないんだぞ?
それにそもそもの話、俺みたいな馬の骨がいきなり婚約者なんかになったらアイツも親も困るだろって。
とにかくこの誤解をなんとしても解かねば……!
「ちょっ、ちょっと待ってくれ! 俺とアイツは婚約者じゃない!」
「もしかして照れてるのかい?」
「ちぎゃう!!」
「そうかそうか! 君は思ったより照れ屋さんだったんだね」
「違うって言ってるじゃん!!」
もうヤダぁ。
誰か、誰かたすてけ。
このままじゃ……このままじゃ婚約者にされちゃう!
って泣いてる場合じゃない!
こっちに手を振りながら店を出ようとする金髪イケメンの前に躍り出る。
ここは通さん!
「本当に待ってくれ! 違うんだ! 話だけでも」
「任せてくれ! 僕は君のことをしっかりと応援するから!」
「違う! 俺婚約者違う!!」
「大丈夫! 君のことだ。それだけのマスターとしての実力があれば何も問題はないはずさ!」
「ワァ……アァ……」
あなた勘違いしてますよ!
気付いて!
早く気付いて!
そんな俺の想いも虚しく。
金髪イケメンはどこか憑き物が落ちたかのように晴れやかな表情で店を後にした。
どうしよう、涙が止まらない。
ポツンと取り残された俺の元にトコトコと誰かがやってきた。
「やあ、クロハル。お疲れ様かな」
「シーラ……」
悪だ。
この世の全ての悪がやって来た。
心の涙を拭った俺はキッとシーラを睨みつける。
シーラはニコッと優しく微笑んだ。
「ありがとう。おかげで助かったよ」
「……約束、わかってんだろうな」
「もちろん」
コイツ、白々しい。
こうなったらヤケだ。
思いっきり箱買いしてコイツのことを泣かせて、
「私と婚約者になることだよね」
「えっ?」
えっ。
「大丈夫。パパとママは私がちゃんと説得しておくから。そこらへんは安心して欲しいかな」
「待、待っ……」
「どうしようか。パパはともかくママを説得するのはちょっと骨かな? でもちゃんと話せば……」
「違う! 約束違う!!」
俺が欲しいの新パックの箱だ。
間違ってもシーラの婚約者というポジションじゃ、ない!
え、本当にいらないのかって?
いや、えっと、まあ、嫌という程に嫌ってわけじゃないけど……って今はそんなこと考えてる場合じゃない!
もう一度、目の前の美少女をキッと睨みつける。
シーラはニコッと微笑んだ。
「まあまあ、落ち着きなってジョーダンだよジョーダン」
「……本当か?」
「ホントホント。シーラちゃんはウソを吐かないことで有名だからね」
「聞いたことないぞ。そんな話」
「今作った話だからね。これから有名にするつもり」
「おい」
本っ当にコイツはもう……。
毒気が抜けたというかなんというか。
プシューっと空気が抜けた風船のように。
体の力が抜けた俺はガクンと肩を落とした。
そういえば、さっきの金髪イケメンは放っておいてもいいんだろうか。
なんか無駄に晴れやかだったけど多少はショックを受けちゃいないんだろうか?
ちょっと気になったので俺はシーラに聞いてみることにした。
「なあシーラ」
「ん? なにかな?」
「さっきのアイツはほっといていいのか?」
「ん。別にいいかな。そのうちケロッと戻ってくるだろうし」
あ、放っておいてもいいんだ。
しかもケロッと戻ってくるのね。
……いや、メンタル強すぎだろ。
マジか。
「だったらさ」
「うん?」
「アイツに会った時に婚約者云々の話は違うって伝えといてくれよ」
「それはヤダ」
「なんで!?」
「だって、それ言っちゃうとまた付きまとわれちゃうかな」
「えぇ……」
そんなアグレッシブなのかよアイツ。
……なんだろう。
なんとなくシーラが困ってた理由がわかったようなじゃないような。
とりあえずわかった。
ガックシと大きく肩を落とす俺。
そんな俺の気を知ってだろうか。
ポンポンと満面の笑みを浮かべたシーラが肩を叩いてきた。
「まあまあ。約束どおり次の新パックが出たら箱で買ってあげるからさ」
「……おう」
「だから、しばらくの間は婚約者としてよろしくかな」
「…………」
それだけ言って。
上機嫌な様子でシーラが店を出る。
マジかよ。
これで明るい店に取り残されたのは根暗陰キャと化した俺一人だけ。
(どうしてこうなった……)
ただアクセが欲しくてショッピングに来ただけなのに。
人の話を聞かない金髪イケメンに絡まれ、挙句の果てには婚約者にされて。
もう……なんだろう。
泣きっ面に蹴りを入れられた気分だ。
しくしく。
心の涙を拭った俺は少しでも気持ちを晴らそうとアクセサリー漁りを再開したのだった。
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