一喝
武器を飛ばしての無力化は無理、やっぱり一番現実的なのは絶命…つまり殺すこと。出来たら苦労はしないけどな…しかし今回は背負ってるものが違う、レジリアのために、戦神のために、民のために、負けるわけにはいかない。多くないか、負けられない戦いが…常にボス戦みたいな感じだなこれじゃあ。
「今お前らに構ってる暇なんてないんだ、それじゃあな、俺とて殺しはしたくないがお前ら、人間じゃあないだろ。それなら少し…ほんの少し、マシだ。」
「今に見てろ、貴様、我らが君主の怒りを受けることにな」
「すまないな、俺は急がなきゃならない、仲間が命をかけて守ってくれてるんだ、失敗は、許されない。」
胸を一突き、首を落とし…もう、後には引けない、後で、埋葬ならするさ。
「…封じられてる、この指輪…入りそうだな……お、開いた開いた。指輪は…落ちるのね、壊れたらどうするつもりだ…」
さて、氷と水の魔法瓶…5、6本持っていくか、出たら閉じていく…便利だな、これ。さて、急ぐか、先を。ここからレジリアの所までは2分あれば着く、頼む、耐えててくれ…!
「…火がここまで…!?使うしかない、どう使うんだ、この栓を抜けばいいのか?霧雨でなんとか無理矢理…よし、あとはそれを燃えてる方に…違う、なら投げつける!…よし、投げたらいいんだな、後五つ、待っててくれよ、レジリア!」
一つ…二つ、っ!この先…熱い、まさかもう手遅れなんじゃ…!
「大丈夫か、レジリア!…おいおい、燃え広がるのが相当に遅くなってるな、すまない、感謝する!これだけ投げつけたんだ…鎮火完了…か。大丈夫かレジリア!」
何があってこうなったのか、何者なのか、休む暇すら与えてくれない……いや与えさせない、そういう作戦…だとしたら俺のアビリティは誰かに封印されている…?そんな感覚は無いが何か、漠然とした気持ち悪い感覚がある…。
「私は…大丈夫です、鎮火は…完了したらしいですがここの本…」
「もういい、取り敢えずしゃべるなもう!回復アイテムなんてその程度、お前は取り敢えず休め、回復のスキルや魔法が使えるやつが来るまで体力を消耗するな。」
クソ、まだかみんなは、悔しいが今の俺は何の役にも立ちやしな…魔法を込めたのが魔法瓶であるなら回復もあったはず…思い出せ、棚にあったか、少なくとも見た目でわかるようなものではなかった、棚が名前で分けられていた、ならあるんじゃなかろうか。どうする、行くか?レジリアを連れて行けるか?それとも全速力で…いややるしかない、俺がここにいて何になる、ここに居たのは3人、それら全員は既に処理済み、なら考える暇もないだろ…
「少し待っててくれ、地下の魔法瓶があるところに回復の魔法瓶がないか探してく…どうした、レジリア。」
「……出来れば、ここに居てくれれば…
私は…」
「何を言ってんだ、俺は今回復どころか何も使えないんだ、出来る事は全てやらないと、役立たずなんてのはご免だ……敵が居るのか、四人目以降が。」
「……確定では…ありませんが…。」
ああ、クソ!こんなことなら一人ぐらい抱えて動けるように元いた世界にいた時から筋トレしとくべきだった…ああクソ、クソ!どうすればいい!?俺の力なら確実に持っていけない、早く…早く誰か………また、いつもみたいに人頼みか、俺。ここに来てからというものの何かと人頼み…ああクソ、全てに嫌気が差してくる……待て待て待て、状況が状況だ、負の感情が溢れまくってネガティブになってきてる、今は取り敢えず落ち着いて周りに何か無いか見ておこう。レジリアがここにいてくれっていうんだ、神経を研ぎ澄ませろ、不審な音や動きが有れば………誰か来た、ここに来るために通らなければいけないところは右と左の通路のみ、動かず構えておけば二方向からの侵攻を処理できれば…俺のところなんかに来るのか?平気で仲間を見捨てる奴等だ、俺たちからしたらそれはおかしいかもしれないが奴等からすればそれは美徳かもしれない、名誉の犠牲かもしれない、ならば無視をして別のところに行くんじゃ
「王、大丈夫でしたか!?ただ今帰還しました、今の状況は一体どう」
「回復系のスキルか魔法を使えるやつ、レジリアを回復してやってくれ!早く!訳の分からない奴らが急に来た、殆どの罠を解除していったよ、逆にお前らがいなくてよかったかもしれない、確実に殺されていた…たった3人に、俺が遅れをとったばっかりに…っ!」
…一応HPは回復していってる、なんなんだよあの3人は…!
「今手の空いている者に城だけでなく周囲ありとあらゆる場所の捜索を頼みました、王は誰かを瀕死でおいていたりトドメを刺したりしませんでしたか?」
「やった…一人は首を落とした、一人は胸を貫いた。そして一人は自爆をした…俺がやったのは二人だけだ。」
「…わかりました、では王はここでお待ちを、主犯を特定し必ず連れて参ります。それでは…あ、それと一つ。」
「どうした、何か忘れもっ!?……一体どういうつもりだ、お前。」
早かった、なんとか防げたがなんだっていうんだ、周りの兵士は本物だろう、驚きを隠せていない。
「よくも、よくも俺の仲間を!"招闇剣・クダ"、デリモ様直属侵攻精鋭騎士団副団長であるこの」
「自己紹介なんていらねぇ、エルレタールはどうした、まさか殺しては無いだろうなあ!?」
「安心しろ、あいつは単独でここに向かってきた、しかし足止めの為に近くの村を3、4個破壊させればすっ飛んできてここに来るのに遅れている。奴は側近失格だなあ!」
おいおい冗談じゃあないぞ、デリモも凄い部下を持ってんだな、正直に言いたい、押し負けそう、誰か助けろって。それができるなら話は早い、俺はここに来てからアビリティだかスキルだか非現実に頼りきりだった。だってそうだ、俺は弱い、非力でさほど頭も良くない、頭いいならもっといい何かを思いついて実行してる。もっといい大学行っておくべきだったな、もっとちゃんと勉強するべきだったな、もっと体を強くするべきだったな、なんてくだらん後悔はもう嫌なんだ。今、何も使えないならそれを活用しろ、使えないなら肉体でできることをする。攻撃をいなし、避け、少しずつ削る、たまに深いのを入れる。意識は深い傷の方に行くはず、そこで実際どれぐらいの傷があるのかを見せる…意識してしまったなら何故だか痛くなる、不思議なものだ。だがこれで動きは鈍った、決定打を放り込むのに十分、大きい一撃を振ってくるまでは小さい傷をつけ続ける、ストレスを思いっきりためさせる。
「さっきからうざいんだよ浅い斬撃をちまちまと!武器ってのはこう使え!"闇断豪斬"!!!」
来た、上からの振り下ろし、これなら軸をずらして避ける、瞬時に距離を詰めてまずは手首。
「っ、痛いなお前!だが俺は両利きだ、残念だったな!"闇閃豪」
なら左手首も斬り落とす、これでもう、抵抗はできないだろう。ここまでできたなら上出来、今の俺でも勝てる…はず。
「すまなかったな、今の俺は力が出せないんだ、だからこんな風に苦しめる感じになってしまった。だが心配しないでくれ、変に動かないのであればトドメは一瞬だ…多分。霧雨の切れ味は中々の物だ、刀素人の俺が使わないなら一瞬で終わっただろうな。」
呻き声、叫び声、どれも耳に残る物ばかり。嫌だ、この手で何かを殺すなど。考えたことはあるか、道にいる犬が襲ってきた、それだけで殺そうとしたことはあるか。ない、でもそれが人間となると別。殺したい、と考える、殺せもしないのに。こいつは人間か人間じゃないかが分からない、しかしこいつは危険因子、ここで殺さなければならない。でも、そんな声を上げられたなら殺したくなくなる、俺だって、好きでやってる訳じゃない。でも、やるしかないんだ、王として、1人の救世主として。
「お前の名前は聞く気は無いが…中々殺せなくって、すまない。無駄に痛かっただろ、無駄につらかっただろう。でも、もう大丈夫だ、俺から一つ、言い訳をさしてくれ。俺はお前を殺したい訳じゃ無い、取捨選択をしなければならなかっただけだ…許してくれとは言わないが、頭に入れといてくれ。俺は……いや、まあいい、すまないな、デリモによろしくと、伝えておいてくれ。」
また今回も、罪を負う。救世主とは名ばかりに、誰も救えず堕ちていく。やってることは中途半端のただの遊び、俺は今までここで何をしてきた、不必要な戦闘をし、無駄に被害を広げただけじゃないか。楽な道がすぐそこにあるんだ、次の天災、刀季達を戦闘不能にし、渡すだけでこの世界はしばらく安泰なんだ。なんだ、簡単な話じゃ無いか、どうして分からなかったかな、どうして身の程を弁えた事をしなかったかな、どうして…………俺はただ国の平和を乱す奴を四人殺しただけだ、今までだって何人殺してきた、何人喰ってきた、どれだけの命を喰ってきた。一度覚悟を決めただろ……いや違う、俺の覚悟なんてそこいらに転がる草や石とおんなじなんだ、すぐ壊れる、すぐ枯れる、すぐ燃える。結局覚悟なんて名ばかりに…何も決めてないじゃ無いか、していたことは現実逃避、もう…いいよな、やめても。そっちの方が楽だ、そっちの方が確実だ、そっちの方が………
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「やめるのか、お前は。」
「…悪いか、もう疲れたんだよ。俺一人に背負える物じゃなかった、俺一人でどうにかなる物じゃなかった、俺一人で」
「そもそもお前が自分で継いだ物だ、お前が自分で背負った物だ、それを途中で放棄するってお前責任だとか」
「ねぇよそんなもん!弱い俺に、責任だとかは最初から!」
そうだ、最初から俺には何にもなかった、空っぽなんだ。それなのに別の何かを喰ったらアイデンティティができるって、ただ誰かの特徴を貰ってるだけ、奪ってるだけ、結局真似ただけの下位互換。ふざけるな、もう嫌なんだ、疲れたんだ、何もかも、何もかも!そもそも初めに連れてきたのはあのクソ野郎だ、暇だから、楽しみたいから、どうかしてる、なんなんだ、なんなんだよいったい!早く、早く帰らせろ、身体を酷使しながら、死にかけになりながら、どうしてこんな事をしなくちゃならないんだよ俺は!
「何を、勘違いしている。お前は一人、そんな訳ない。お前は弱い、そんな訳ない。何を血迷ったかは知らないが一旦落ち着け、色んなことが急にありすぎた、気が動転しているんだろう。しばらくの休暇を」
「うるさい、俺は…俺は…お前に何がわかるって言うんだ、分かられてたま…っ!?」
「黙れ、調子に乗るな、餓鬼じゃねぇんだろ、帰る理由があるんだろ、胸張って言えるようになるんだろ、管理者を喰って、世界を平和にするんだろ。勝手に諦めてんじゃあないぞ、お前の周りを見ろ、色んな奴がいる、元いた世界のことなんか知らない。でもよ、少なくともこっちの方が、お前のことを気にかけてくれてる奴がいるんじゃあないのか?お前は小さ頃から色々ありすぎて精神がどうにかなってるのかもしれない、お前の一部だからな、少しぐらいはわかるさ。だからこそ言う、お前が、諦めきれないって思ってんなら諦めるな、諦めるなら簡単だ、歩みを止める'だけ'でいい。そこから歩き出すのは至難の業だ、だったら歩き続けろ、これは罪であり、罰であり、そして使命であり……お前の意思なんだ。その腹は気にするな、ここはお前の精神世界、起きたら何にもなってないよ。俺はここにいる間、お前の感情全てが剥き出しになったこの部屋に居続けた、何故かって?宿主であるお前がどう言う人間か知りたかったからだ。素直に、尊敬したよ、お前みたいな奴は初めてだ。お前は全てを自分で背負おうとした、だからこの部屋も酷いことになった、それに耐えるのがしんどかった。だがお前と相対し、話し、俺も決めた。お前の為に、喰われてやる、持っていけ、俺の全て。今のお前なら扱える、使い道を、間違えるなよ…がんばれ、救世主文也、お前を待ってる……つが………ら……。」
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