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竜×嘘つき/玉座の間


「カロン、ようやくだ。ようやく、僕は使命を成し遂げる事ができる」


 足元に倒れる騎士たちを一瞥し、ルシスは空々しい笑顔をカロンに向けた。


 しかし、彼女はムスッとした顔。無理もないだろう、彼女はルシスが示した『新しい世界』を信じていたのだ。


「やっぱり、ルシス、嘘を吐いていたのね。万人が平等な国を造るなんて夢を皆に見せて……なんでそんなことを?」


 ルシスは今回の計画の為だと答えた。この計画を進める上では人数と金が要ったという、ただそれだけの理由だった。「ただの厭世的な人間には誰もついてこないだろう?だから救世主の皮を被っていた。それだけだよ。理想としては僕もそういった国家を望んでいるけどね。ただ、ダンの言う通り、理想でしか無い。僕にはそんな能力も無いから、やろうとしても無理だろうね」


「皆信じていたんですのよ」


「はっは。白羊の教義を忘れたのかい?『己の意志に従うことこそが善』──僕を信じたのは、信者一人一人の意志だ。僕が強制した訳じゃあない」


「狡い人」


 白々しく笑う彼を、ジトッとした目で睨むカロンが、呟くように言った。


「軽蔑するかい?」


「ええ。でも、貴方が元々そういう人間なのは、十分知っていますもの……ねぇ、なんで私にまで黙ってましたの?」


「……それは」ルシスは答えを探すかのように顎をさする。


 カロンが「それは?」と急かすと、「あぁ、そうだ」と彼は手を叩いた。答えが見つかったようだ。


「それは、君はつい口を滑らせてしまいそうだからね。ミメイやピュロスに。これだけは、命を懸けても、僕は成功させたかったんだ」


「酷い!私を信用していませんの?」


 わざとらしく口を手で覆うカロンを、ルシスは優しく笑う。


「しているに決まっているじゃないか。さぁ、そろそろ上で待っている竜騎士達に合流しよう」


 そう言うと、ルシスは竜に変身する。カロンの髪によく似た銀色の鱗を持った竜。

 

 彼は背にカロンが乗ったことを確認すると、翼を広げて竜騎士達が通った穴を通って山頂を目指す。


 もはや、彼は友人達を振り返ることも無い。


「カロン」


 洞窟を上昇するルシスは、背中にしがみつく彼女の名前を呼んだ。


「どうしましたの?」


「もう一度、劇場に連れて行くって、あの約束、叶えてやれなかった……すまない」


 約束を反故にしてしまった、そんな彼の謝罪に、彼女は「あら、そんなこと?」と鼻を鳴らして笑った。


「国の代わりに、劇場を建てたらどう?王様は無理でも、劇場主くらいはできるでしょう?」


 その言葉に安心したのか、ルシスが目を閉じて胸を撫で下ろした、その時であった。


 洞窟の内部に何か鈍い音が響き、その直後、飛翔するルシスの目の前に、ぐったりと力の抜けた巨大な竜が数頭、洞窟に蓋をするかのように彼らの前を塞ぎ、上空から落ちてきたのだ!


 あまりにも急な事態に、ルシスは反応出来ずに彼らにぶつかってしまい、そして、竜もろとも地面へと落下していく!


「カロン!僕の腹にしがみつけ!」


 ルシスは、背中に乗ったカロンをなんとか衝撃から守るため、身体を丸めて彼女を包み込む。


 その直後、彼は強い衝撃とともに背中から地面に叩きつけられた。だがそれだけではない。上空から数頭の竜が次々と振ってきて、彼は完全に押し潰されてしまった。


 しかし、ルシスはカロンの身を守るため、全ての衝撃を一身に受けた。両翼は完全に折れ、頑丈な甲殻は派手に砕け、鉤爪は割れてしまった。



「なんだ……一体、何が起きたんだ……?」


 人間の姿に戻った彼は、折れた手脚を魔法で無理やり矯正して、積み重なった竜の下から外へと抜け出すと、気絶しているカロンをそっと床に寝かせた。


 そうして、ダン達が何か策を仕掛けたのではないかと疑い、玉座の方に血だらけになった額を向けると、そこに居るべきはずの者が一人、視界から居なくなっていることに気づく。


 代わりに、腰元から声。


「縲ゅ♀縺ッ繧医≧。蜈育函」


 王が玉座から離れ、自分の服の裾を引っ張っている。


「ベル……!なぜ、君がッ……?」


 彼は唖然とする。玉座に居るべきはずのベルが、催眠を掛け絶対に目覚めぬよう支配下に置いていたベルが、何故、自分の目の前に居るのか。


 理由は不明。分かっていることは、催眠から目覚めた彼が玉座を離れたことで、竜騎士を操っていた呪いが解けたという事実だけ。


 ベルは、脳の処理が追いつかずに丸くなった彼の目を無垢な瞳で見つめて、「ライラが起こしてくれたんだ」と小さくあくびをした。

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