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騎士×嘘つき/玉座の間②



「ダン。君は僕を何も知らない。僕だって、僕が何者なのか、知らないんだ」


 ルシスは言った。


「僕は人間じゃない。奴隷だ」


 彼の言葉に、ダンの目が少しだけ大きくなる。


「僕は自分の親も出身も知らない。僕の覚えている限り最初の記憶は、ヒザンの奴隷商が経営する孤児院。腹を空かせて部屋の隅で、爪を噛んで蹲っていた。僕は幼い頃から何度か売られて、買われてを繰り返した。馬の世話番、沖仲仕、男娼、あとは農場や工場……知っているかい?君達の剣や服に使われてる皮革を造ってたこともある。あそこは、鼻が曲がるほど臭いんだ。鼻の利くダンは耐えられないかもね。


 何年も何年も、僕はただ働かされていた。そこには目的も自由な意志もない。ちゃんと働かないと、恐ろしい経営者が僕らを打つんだ。死にたくないから、僕らは働く。だけど、満足な食事もないから、みんな働き疲れて死んでいくんだ」


 そこまで言うと、気持ちを落ち着かせるように、彼は深く息を吸い込んだ。その手は震えていた。


「狂っている。奴隷が粗末なスープで朝から晩まで働かされる一方で、何もしていない豚共は、昼は演劇やスポーツに興じながら、夜はご馳走に舌鼓を打つんだ。僕はずっと考えていた。いつか彼ら全員を殺してやるか、もしくは逆の立場になって一日中歯車のように働かせてやると。


 でも、彼ら以上に憎い存在が居た。僕と同じくらいの彼らの子どもだ。彼らは、いつもきれいな服を召して、幸せそうに笑っていた。僕が汚い工場で働いている時、彼らは学校に行く。僕がタールで顔を汚しても、誰も拭いちゃくれない。でも、彼らは少しでも顔が汚れているのなら、親が優しく拭いてくれる……おかしいじゃないか?なんで僕は、僕が独りで、頑張っているのに……頭を撫でてくれる人さえ居なかった」

 

 ルシスは語気を強くして、ダンに向かって言った。

 

「ダン、世界は狂っている……いや、人間が狂っているんだ。人が人を踏みにじり幸せを奪う。それを当たり前だと思ってる奴らも、それをしょうがないとあきらめている奴も、みんなくるっている。そして、そんな異常な暴力性が蔓延る社会を"秩序"だとッ!」


「話は、それで全てか?」


「理解なんてしてもらえるとは、微塵も思っていないよ。帰る場所がある君たちにはね……だが、すぐに君たちも僕と同じなる。帰る場所など、全て流されてしまッ……!」


 言い終わる前に、ルシスの顔面をダンが思いっきりぶん殴った。

 

「お前の気持ちは、ほんの少しだけ分かる。俺もこの姿になった時、『全部ぶっ壊れちまえ』って思ったからな。お前の言う通り、人間はどっか狂ってる。すぐに人を除け者にするし、自分より弱いと思った奴には罵詈雑言を平気で浴びせるしな……だが、命まで奪うことはねぇだろう。いや、俺だって殴れるもんならそいつらを殴ってやりたいがな」


 拳に力を込めてルシスにそう言うダンに、ルシスはカロンに支えられて地面から起き上がりながら、血の混じった唾を吐いて笑う。

「ふふ。なら、その拳を振りかざすのは……僕じゃなくて、彼らじゃないのかい?」


「この拳は違う。カラケシュにはサラとエレナがいる。家族に危害を加えるなら、お前だろうと容赦はしない。お前のことだ。もしもの時の為に、止める手段も作ってんだろ?……言え」


「言わない、と言ったら?」


 ダンはカロンに目を移して牙を剥く。彼女はルシスの袖を強く握り、健気にも睨み返す。

 

 だが、ルシスは残念そうに顔を横に振り、「そんなもの、ありはしない」とため息交じりに答えた。

 

「止まるのは君たちの方だ」


 そう言ってルシスが指を弾くと、途端にダンとユートの身体が、金縛りにあったかのように動かなくなってしまった。


「何を……ッ!?」


「君も、勝手な行動をする娘によく使うと言っていただろう?『金縛り魔法』だよ。君は常々弱いと言っていたけれど、竜人が使っていた真の『金縛り』は、竜でさえ動けなくなる程の力を持っていたんだ。縛られたものは、やがて全身の運動が止まり……死に至る」

 ダンは冷や汗を垂らす。何か言い返してやろうと思うも既に舌も動かない。息が浅くなり、視界も滲んでゆく。目の前が暗くなって、何も見えなくなる。


「さて、ここも直に沈む。もうすぐ意識もなくなるから、今の内に言っておくよ」


 そう言うと、ルシスはダンの耳元に顔を近づけ、呟いた。


「さようなら」



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